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095:グイグイいくズラね…という言葉が頭を過ぎる

 いきなり強い力で肩を叩かれて驚いた俺が後ろを振り向くと、そこには意外な人物が嬉しそうに立っていた。


「よう、久しぶりだな!」


「ノーブさんっ!?」


 以前見た研究者っぽい白衣姿ではなく、冒険者のようなラフな格好をしているけど、正直こっちの方が似合うなぁ。


「いつからポートリアに来てたんですかっ?」


「ついさっき来て宿取ったばっかりさ。新川のせいで休日返上で働き通しだったから、まとめて長期休暇もらっちまったわ」


 うーむ、休日返上とか聞くと、何だか胃のあたりがモヤモヤしてしまうのは何故だろうなぁ。

 何だか転生前のトラウマを思い出して何とも言えない気分になる。


「でも長期休暇でわざわざポートリアに来るのも珍しいですね。今の時期は海水浴も出来ないですし……」


「ああ、休暇が終わったらこのまま船に乗って、あっちの島に行く予定なんだわ」


「そうなんですかっ! 俺たちもその予定なんで、タイミングが合えば御一緒出来そうですね」


「なんだなんだ、ガキンチョ共は卒業旅行か何かかい? 確かにこれからのシーズンは並も穏やかになるからちょうど良いけどよ」


 ノーブさんの言葉に全員が微妙に苦笑い。


「ん???」





「そりゃまた、もんげー大冒険だな」


 もんげー?


「だけど、病気の根絶は人類の夢だもんなー。リソースリークは 今のところ人から人に感染した例もないし、天然痘てんねんとうと同じように克服できるかもしれねえ」


 そういえばノーブさんはリソースリークを生み出している「悪意」に人一倍怒ってたもんなぁ。

 この人の本質は研究者というよりも、研究により誰かを救いたい意志がとても強いのだろう。


「……あっ!」


 クレアが突然声を上げた。


「ノーブさん…もしかして…姫様に…?」


「……ったくよぅ、女神様は情報リークし過ぎで困るぜ。これ、マジもんの国家機密なんだぞ?」


 ノーブさんは、溜め息を吐きながら何故か俺の髪の毛をワシャワシャしてきた。


「まあ、オトナの仕事の話はここまでだ。それよりも、ちっともこの街の事がわかんねーんだけど良かったら案内してくれねーか?」


 もちろん俺たちは快諾し、ノーブさんと一緒に街を巡ることになった。





「というわけで、ここが俺たちの行きつけの店、可憐庭かれんていだよ」


「すげーな。このファンタジーな世界観に超不釣り合いなファンシーショップかよ!? いくらなんでも浮きすぎだろ!」


 ノーブさんが店のデザインに仰天していて、皆で笑ってしまった。

 早速、店に入ったのだけど……店長さんがカウンターに突っ伏したままグッタリしていた。


「店長さん、どうしたんですかっ!?」


「うん、ちょっとね。人使いが凄く荒い偉い方がね。最近すごく嫌なコトがあったらしくてね……。私の仕事量がヤバイの……ヤバイの……」


 大事なことなので二度言いました。

 支離滅裂で何言ってんのかサッパリ分からないけど、店長さんが危機的状況だということは分かった。


「せっかく新しいお客さん連れてきたんだけどなぁ……」


「んーぃーーー?」


 不思議な声を出しながら顔を上げた店長さんと、ノーブさんの目が合った。


「あ、どうも……」


 それから店長さんが一瞬左下に目線をやったかと思ったら目を見開き、再びノーブさんを見つめて……泣き出したっ!?


「ふぃぃぃ………ぅぅぁぁーーー」


「えええっ!? 何この人、何で泣いてんのっ!? 情緒不安定なのっ???」


 ノーブさんは大慌てでこちらに助けを求めているけど、俺たちも店長さんが号泣する理由が分からなくてポカーンとしている。


「あの、俺なにか……気に障ることしましたかね?」


 ノーブさんが恐る恐る尋ねると、店長さんは首を左右に振った。

 それから少ししてから袖で涙を拭うと、店長さんはいつもより明るい笑顔になった。

 うーん、さすがプロだなぁ。


 ……まあプロがいきなり客の顔を見て泣くなよという話なのだけど、ここで指摘するほど空気が読めないDQN客に成り下がるつもりは無いので黙っておこう。


「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。改めていらっしゃいませお客様、何かお探しですか~?」


「いんや、コイツらがこの店がオススメって言うけど、見た感じ俺とは無縁そうだし。独り身にはちょっとなぁ……」


「なるほど、独身っと……」


「えっ、どうしてメモを???」


「お客様に合わせて最適な商品を御提案するためにはとても大切な事なのですよ~」

 

 はて? 俺は店長さんがメモ取ってる姿なんて一度も見たことないんだけど……。

 そんなコトを思っていると、店長さんのアイコンタクトが飛んできた。

 恐らく意味は、余計なコトを言うな……? 了解しましたァっ!


 そんなこんなで店長さん自らノーブさんを案内しているのだけど、やたら距離が近い!

 というかスキンシップがスゴイよっ!!

 この露骨なアプローチに、クレアとエマも首を傾げている。

 そんな中、ロザリィが口を開いた。


『あの女、間違いなく狙ってるわね』


「あそこまで露骨だと、見てるこっちが恥ずかしいよ……」


「だけど不思議だね。ノーブさんは、店長さんのコト、知らないみたい」


 クレアの言葉に皆が首を傾げた。


「しかも顔を見ただけで号泣、これは相当だよねー?」


 そう言いながらエマの顔はワクワクが止まらなくて仕方ない! みたいな感じだ。

 そういえば、人の色恋沙汰が大好物な子でしたね……。





「なるほど、しばらくこの街に滞在するのですね。どこの宿ですか?」


「この近くのスズメノオヤドってとこだなー」


 接客スキルをフル活用して、グイグイ行く店長さんに正直、俺たち全員ドン引きだよ!

 だけどノーブさんは見事に手玉に乗せられて、ホイホイと個人情報を搾取されて行く。


「へー、あそこはとてもサービスが良いと評判なので、良い選択をしましたね~」


「お、そうなのか。へへへ、良かった」


 お客様の選択が正しかったとおだてたというコトは、この後に店長さんの本気の一発が来るはず!


「どうです今晩、一杯?」


「お、いいねー。どっか良い酒場を教えてくれよ」


 キタアアアアアアアァァッ!!!


 接客スキルを逆ナンパに使う店員は聞いたことあるけど、店長さんがそれやっちゃうかーっ!?


 唖然とする俺たちの目の前で、繰り広げられる攻防……というか一方的な攻撃に、何も言えなかった。


『もう逃げ切れないでしょうね。くわばらくわばら……』


 超押せ押せな女豹にノーブさんが狩られる様を見捨て……もとい、見届けた俺たちは、微妙な顔をしながら店を後にした。


「ノーブさん、この後どうなっちゃうんだろう……」


『気にしたら負けよ……』


 ロザリィの言葉に俺たちは、遠い目をしながら頷くしか無かった。

 ノーブさん、海を渡るコトが出来るのかなぁ……。

 ここで永久就職しちゃうんじゃないかなぁ……。


 そんなコトを心配してしまう俺なのでした。


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