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088:望郷

 ラムダの口から出た「計画」は、次の二つだけだった。



 一つ。

 人間達にかけた不殺生の呪いは、もう間もなく解除する。

 今後は魔物だろうと人間だろうと、自由に攻撃が可能になる。


 二つ。

 解除と同時に、異世界の魔王から継承したadd-magicskill-target-humanスキルを使い、世界中の全ての人間が魔法を使えるようにことわり改竄かいざんする。



「なあに、人間という生き物がとても崇高で、そこの女神様みたいに清らかな心をしていれば問題ないだろう?」


 ラムダはそう言うと、再び不敵な笑みを浮かべた。

 確かにラムダの言う通りであれば、人々は元の生活に戻ったうえ、魔法という便利な能力が手に入り、良いこと尽くめだ。


 だが、人間は人間であり、女神では無い……。


『カトリはどう思う?』


 ラムダの方を向いたまま、エクレールが尋ねてきた。


「人間が使えるようになる魔法が、怪我を治したり平和的なものばかりなら大丈夫だろう。だが、ラムダの口振りではそれは無さそうだな」


 それを聞いて、エクレールだけでなく仲間全員が同じようにうなずいた。


「武器を手に入れた人間が一番恐ろしいというのは、私も身をもって知ったからねぇ」


 ティーダは悲しそうに呟いた。

 その瞳は、昔を思い出しているようにも見える。

 元の世界では、ティーダにとって人間とはどんな存在だったのだろうか……。


『他人に対して一切の暴力行為が行えなくなる不殺生の呪いは、平和な世界を生み出せるように思えますが、それは表向きだけ。人々の心から暴力性が失われるわけではないのです。急に彼らに魔法という強大な力を与えると、何が起こってしまうのか想像もつきません』


 ラピスが悲しそうに呟くと、ラムダが再び笑った。


「私を殺し、リリーを殺した、この世界の人間連中なら面白い結果になるだろうな!」


「てめえ、やり方が陰湿過ぎるぞっ!」


 ラムダの魔法で床に押しつけられたままフォスタが抗議の声を上げる。


「さあ勇者よ、私を止めてみるが……」



『ライトニングスター!!!』



 直後、ラムダの目の前で巨大な光の爆発が起こった。

 今の魔法は……?


『高威力魔法の取得に全てを捧げた僕の力、思い知れっ!』


 ティンクが放った不意打ちの一撃だった。

 

『長話はもう聞き飽きたっ!』

『あきたーっ!』


 エクレールとシルフィも攻撃詠唱に入る。


「私はリリーのかたきを討つためにやってるというのに、このハエ共がっ!!」


 怒りの表情でラムダが妖精達を睨みつけるが、皆どこ吹く風だ。


『敵討ち? ははっ、僕達妖精はそういう歪んだ概念が無いので、何が言いたいのかサッパリサッパリですねっ』


 いつもエクレールに泣かされてるとは思えない程に強気なティンク。


『りりーちゃん、ふくしゅうとか、ぜったいイヤだろうなー?』


 泣き真似をしながらいつも通りなシルフィ。


『ボク達は大好きな相手を守るためなら、身命しんめいしてでも助ける、健気な存在だからね~』


 エクレールはこちらを見て、にこりと笑った。


「おのれ……闇の炎っ!!」


 ラムダが妖精達に炎を放つ。


『ホーリーライト!!』


 正面から放ったエクレールの魔法がラムダの炎を打ち消した。


『ラムダさん! お願いですから、もうこんな事は……』


 ラピスが懇願すると、ラムダはうつむいた。


『ラムダさん……』


「まだだ……まだこれからだ!」


 そう言うとラムダは再び詠唱を始めた。


「なんて性根の腐った女っ!」


 ティーダが憤慨しながら吐き捨てるように言うと、ラムダは苦笑しながら詠唱を完了させる。



「sorrowful-vision!!」



「「ぐあっ!!」」


 自分とフォスタが悲鳴を上げ、その場に膝を付いた。


「おや、私は人間三人に狙ったのに、猫女には効かなかったな。お前、人間じゃないのか?」


「……私は獣神ティーダ。お前のような、なんちゃって魔王とは訳が違うのよね」


 そう言いながらラピスと二人並んで魔王を睨んだ。


「ははは、女神様の仕業か。だが、そこの二人はなかなか面白い事になりそうだぞ?」



~~



 魔王が使ったsorrowful-visionは、遠く離れた場所で働かなければならない妖精が、寂しい時に故郷の今を見るための魔法だ。

 何故それをカトリとフォスタに……?


 しばらくして、二人の目の前に故郷の様子が映し出された。



 カトリの故郷は……焼け野原だった。

 いくつかの場面が映し出されたが、思わず目を背けてしまう程に酷かった。

 そして、最後に映った家……だったと思われる残骸を見た瞬間、カトリは涙を流した。



 フォスタの故郷は……歓喜に沸いていた。

 カトリとは比べものにならないくらい華やかで、強大で……。

 でも、フォスタはずっとカトリの故郷の惨状を見ていた。



「凄いなお前らの世界は! 私なんて足下に及ばぬほどに狂っている!!」


 魔王の皮肉に対して、カトリは……フォスタを睨んだ。


「なるほどなるほど。そこの二人は敵国同士だったのか。そんな奴らが仲良く私を退治に来たのか? まったく趣味の悪い冗談だなっ!」


『うるさい! ボク達は仲間なんだっ! そんな事で……』


 その瞬間、魔王は一瞬でカトリの正面まで飛び、額に手を当てた。


「鋼の意思よ、命賭いのちとして行け」

「ああああああぁぁ……」


 カトリが突然ガクンと脱力し、そのまま腰の刀に手をかけた。


『カトリっ!?』


「そいつの殺意をちょっと増幅して、死ぬまで止まらなくしてやっただけさ。最高のショータイムだ!!」


『なんという事を……』


 直後、カトリはフォスタの方へ走り出した!

 刀を抜き、そのまま振り下ろし……!


「やめてえええぇぇっ!!」


 フォスタの前にチアちゃんが飛び出した。


 何が起こったのか、誰も理解出来ない。


 鮮血が散り、チアちゃんはその場に倒れ……


「チアァァァァっ!!!」


 フォスタの叫びが辺りに響いた。


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