081:勇者一行と魔王の城
全員で泉に飛び込むと、それまで下向きに落ちていたはずなのに、突然横方向に向きが変わり、壁から飛び出した。
「あわわわっ! はうっ!」
油断していたチアが着地に失敗し、転びそうになったところをフォスタに受け止められていた。
「それにしても、本当に絵画が出入り口なのな……」
『でも、この絵って……』
皆、一枚の絵を注目している。
絵が上手い云々ではなく、そこに描かれているのは……
『なんで、ようせいが えがかれてるのかなー?』
シルフィが首を傾げている。
何故か描かれているのは、大きな羽を広げた……妖精の女の子。
『実は魔王の正体は妖精で、僕達は同族殺しに葛藤する……みたいな鬱展開は嫌だなぁ』
『そういう不吉なコト言わないでよ。縁起でもないっ』
確かに、魔王がどれほどの力を持っているのかは不明だが、もし交渉が決裂して戦闘になってしまった時にその正体が妖精では、かなり戦いづらいだろう。
それに以前、大コウモリを倒した時にティンクが放った魔法を見た限り、妖精を相手に戦って、人間がまともに勝てるとは思えない。
『………』
皆それぞれ思う中、ラピスは絵画を眺めながら悲しそうな顔をしていた。
どういう事だ……?
カツーン……カツーン……
「靴音っ!」
誰かが近づいてくる!
全員で物陰に隠れて武器を構え、足音の主がやって来るのを待ち構えた。
やって来た奴の正体は、二足歩行の虎男。
かなりの手練れのようで、腰には大剣が掛けられていた。
そして妖精の絵画の前までやってくると……布巾で額縁を拭き始めた。
『あのゴツい見た目で家政婦みたいにキュッキュッてやってるのは、何だかギャップが酷いね』
エクレールがそんな事を言っていると……
コトンッ! パターンッ!!
チアが立て掛けてあった棒を倒したっ!?
「ぃぁ~~~~…!」
声にならない悲鳴を上げるチア。
『そこに居るのは誰だっ!!!』
虎男がこちらに向かって歩いてくる!
こうなったら……
「良かった! やっと仲間に会えたニャー!」
ティーダが不思議な言葉遣いで虎男に抱きついた。
『なっ! なんだ貴様はっ!?』
「私はワーキャットのカレン! 魔王様に呼ばれてたんだけど、道に迷っちゃってぇ~」
『む、確かにその耳と尾は同族の物……作り物ではないよな?』
ギュッ!
そう言いながらティーダの尾を握る。
『くぁwせdrftgyふじこlp;@:!!!』
バシーーーンッ!!
ティーダの全力の平手打ちが虎男に直撃した。
「お前、ぶっ殺すよ!!!?」
『うわああああ! すまねえっ!!』
目を血走らせながら睨むティーダに、虎男はたじたじだ。
・
・
『俺はタイガービーストのノーブルだ。さっきはすまなかったな、嬢ちゃん』
「ううん、私もいきなり殴ったりしてゴメンなさい。ちょっと驚いちゃって……」
そう言いながら歩く二人(二匹?)の後ろを全員で静かに尾行している。
もちろん、エクレールの『気配を消す魔法』も使ってあるので安心だ。
『魔王様は書斎で休憩している時間だから、そこまで連れて行ってやるよ』
「わーい、ありがとーっ!」
そう言いながら、ティーダはノーブルと手を繋いだ。
うーむ、子供扱いすると発狂して襲いかかってきたが、自分で子供のふりをするのは良いのだなぁ。
『あの人、カトリより年……ううん、何でもない』
一瞬、エクレールの口から恐ろしい言葉が聞こえたが、聞かなかったことにしよう。
そしてティーダが本題を切り出した。
「そういえば、さっき貴方が磨いてた絵って……」
『ああ、あれは魔王様の最愛の方らしいな。背中にチョウチョの羽みたいなのが付いてるのが不思議だなー』
それを聞いたティーダの耳が忙しく動き、こちらも全員で顔を見合わせている。
『妖精が……』
『さいあい?』
『魔王は妖精が好き……?』
妖精達がざわつき始めたのを見て、フォスタは首を左右に振った。
「安心するなよ。最愛の相手が妖精というだけで、他の妖精には問答無用で攻撃してくる可能性だってあるからな」
フォスタの注意を聞いて、ティンクが震える。
「それにしても、魔王の城だと言うのに警備がこれほど手薄とは……。先程の虎男以外に出会わないのはどういうことだ?」
「そもそも人間が攻めてきたところで何も出来ないと考えているか、そもそも魔王はそれほどたくさんの魔物を一度に呼び出す程の力が無いか……」
「客人を多勢で襲うなど、そんな卑劣な真似は私の趣味では無いのでなっ!!」
なっ!!?
城の大広間まで来たところで、いきなり前方から話しかけられ、それと同時にエクレールの魔法が解けた。
『なんだてめえらはっ!!』
ノーブルがこちらの存在に気づき、身構える。
ちなみにティーダを庇うように立ち塞がりながら『嬢ちゃんは隠れてなっ』などと言っていて、敵ながらなかなか漢らしい奴だなぁと感心してしまったが、その行動がまずかった。
『嬢ちゃん、ちょっと怖いとは思うが……。離してくれねぇか……? ちょっと、いやっ、えっ……』
ティーダは抱きつくように虎男の首に右肘を絡めると、そのまま体を捻った!
虎男は急に体勢を崩されて床に頭から叩きつけられる。
『ぐふぅ……』
虎男は泡を吹いて倒れてしまった。
相変わらず馬鹿力だな……。
「たぶんこのくらいじゃ死なないと思うけど……。道案内してくれたヤツを殺すのは気が引けるし、エクレールはヒールよろしくねぇ~」
『あいあいさーっ』
ティーダに呼ばれたエクレールは虎男に近づき、ヒールをかけた。
『うーん、ヒールが効かないや』
「そっか。ざーんねん」
そんなやり取りをしながらも、皆の視線は前方の奴に向けられている。
「お心遣い感謝する。勇者を魔王の前にまで案内する馬鹿者ではあるが、根は良い奴でな……」
そう言いながらゆっくりと歩いてきた。
「初めまして。私の名はラムダ。君たちが魔王と呼んでいる者だ」




