080:洞窟の泉の物語
トロールから得た情報を元に、皆で探索した結果、神都ポートリアから北にしばらく進んだ海岸近くにある森の中で、それらしき洞窟の入り口を見つけた。
「くんくん……なんだか、まものくさいぞっ!」
どうやらシルフィは鼻が利くらしく、ここを魔物が出入りしている事は間違いなさそうだ。
『bright!』
エクレールの魔法で辺りが明るく照らされた。
うーむ、松明や照明灯を使わずに洞窟を照らすことが出来るとは、やはり魔法は便利だな……。
洞窟に入るとかなり肌寒く、しばらくしてティーダが震えだした。
「うぅうぅ……」
「おいおい、大丈夫か?」
顔色が真っ青で、今にも倒れそうだ。
「獣人は暑さには強いんだけどね、どうにも寒さはダメでねぇ。うぅぅ……」
入って早々脱落してもらっては困るので、野宿用の毛布を頭から被せてやった。
「はぁぁ、天国~~極楽~~……」
本当にそのまま逝ってしまいかねない顔をしながら腰に抱きついてきたティーダを引っ張って前に進む。
『むーーーー…』
何故かエクレールは不満そうだ。
「んー? お前も毛布に入るか?」
『べ、別にボクは寒くても平気だしぃっ』
そのまま先に飛んでいってしまった。
何なんだろう……?
訝しげな顔をしていると、ティーダが呆れ顔になった。
「うーん、カトリちんは女心が分かってないねぇ」
うーむ……。
・
・
洞窟は単純な一本道で、ひたすら細い通路をまっすぐ歩いている。
壁面を触った感触はかなり堅く、この堅さの土を掘りながら海の下を掘削するのは相当大変だったはずだ。
これを魔物達が一生懸命掘り進めたのか、それとも魔王が何らかの術で作り上げたのかは不明だが、どちらにしてもこの世界の人類の技術力では不可能だろう。
果たして、そんな相手に自分達だけで勝てるのだろうか……?
『あれー? あかりがみえるねー?』
『おや、本当ですね』
先頭を飛んでいたシルフィとティンクの言葉に、一同は顔を見合わせる。
「そんな馬鹿な? 俺達が洞窟を歩き始めてまだ数十分くらいだろ?」
フォスタの言葉で自分の懐中時計を見ると……
「ああ、まだ一時間も経っていない。いくら島が近いと言っても、こんなに早く対岸に出るとは思えないぞ」
しかし妖精達の言う通り、洞窟の奥には薄らと明かりが見えている。
これはもしかして……?
「あれは太陽光ではなく、ランプなどの明かりじゃないのか?」
「つまり、あそこには魔物が……」
『きゃ~~っ』『ひ~~んっ』
自分たちの会話を聞いて、先頭の妖精二匹が慌てながら飛んで帰ってきた。
それを見たエクレールが呆れ顔をしている。
「気を引き締めていくぞ」
皆が緊張した面持ちのまま進み、明かりの原因となった場所に到着すると、そこは広い空間になっていた。
中央には不自然な泉があり、青白い光を放っている。
「ここで行き止まりのようだが……」
全員の視線は中央の泉に集まっている。
「ここに飛び込むと魔王の城に行けたり……なーんて……」
チアの言葉に全員が息を飲んだ。
「泉に飛び込むと、遠くまでひとっ飛び出来るような魔法は?」
『きいたこと、ないねー』
シルフィの返事に、皆の視線は再び中央の泉へ。
そんな中、ついにエクレールが口を開いた。
『ねえ、ティンクくん~』
『え、エクレールちゃん? 僕の名前を君付け……えっ、えっ?』
『世界で最初にナマコを食べた人って、スゴいと思わない?』
よく分からないことを言いながら、エクレールがティンクに近づいて行く。
『えっ、えっ?』
そしてエクレールがティンクの肩に手を置くと……
『あの泉に一発ドボーンと逝ってくれたら、地の底に落ちたキミの評価も若干アップするよ?』
『絶対イヤだっ!! それに、今の"いってくれたら"の発音、ちょっとヘンじゃなかった!?』
『男だったらウダウダ言ってないで、さっさと行けやぁ!!』
『ひいぃぃぃぃぃやあああぁぁぁぁぁっ!!!』
ドボーーーーーンッ!!!
そのままエクレールが一本背負いでティンクを泉に投げ込んでしまった……。
「鬼かお前は……」
『ボクは女性蔑視が嫌いだけど、軟弱な男はもっと嫌いなんだよ』
「ウンウン」
何故かティーダまで頭を縦に振っている。
何だか釈然としないなあ……。
それよりっ!
「おい! ティンク大丈夫かっ!?」
泉に呼び掛けるも、返事は無し。
『キミの犠牲は無駄にしないよ……』
「殺すなっ!」
しばらくすると……
『ぶっはーっ!!』
ティンクが泉から飛び出してきた。
生きてて良かった!
『これ、泉に見せかけているだけで実際は水じゃないです! 幻覚魔法で擬装された、もっと別の何かみたいですっ!』
『何かって何さ?』
『僕にも分からないけど、入ったら凄く立派な建物の絵画から出たんだよっ。怖くなって、すぐその絵画に飛び込んだらまた戻って来られたんだけど』
なるほど、虎穴に入らずんば……か。
ここまで来て行かない理由は無いだろう。
「よし、このまま進むぞ!」




