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077:北へ。行こう!

『すごーいっ!』


 エクレールの視線の先にあるのは、街のあらゆる建物よりも高い塔。

 東西南北の四面全てに時計があり、街のどこからでも時刻が分かるようになっている。


「簡易的な作りとはいえ、たった半年で完成させてしまうとは……」


 フォスタは前の世界で腕の良い技師だったのだろうなぁ。


「まさか国からの資金援助が得られるとは思っていなかったから、この早さは俺も想定外さ」


 そう言いながらフォスタが時計台の調整室から出てきた。


 時鐘を設置する予定を大時計台の建造計画に変更するということは、当然それなりの資金が必要になるし、本来ならばこんな無茶苦茶な計画変更が認められるはずがない。


 だが、今回フォスタはあえて自分の署名を含めた大時計台建造の嘆願書を王国に出したらしい。


 家出同然で脱走したのだから最悪連れ戻される恐れもあったわけだが、渡り人の発案した大時計台建造計画には王国側も驚愕し、その結果、資金、資材、人材などあらゆる物が惜しみなく投資される事となった。


「これで、この街の人々も安心して暮らせますね」


 嘆願書を届けた功労者であるチアもやってきた。


 神都ポートリアからの嘆願書を他国の侍女が早馬で届けるというのはさすがにどうかと思うのだが、前もってチアの存在を王家に印象づけようというフォスタの作戦らしい。


「今は、俺の作った時計を見よう見まねで再現しようと職人連中も頑張っててな。いずれ世界中どこでも時間が分かるようになるだろう」


 嬉しそうに笑うフォスタの顔は、何だか誇らしげだった。



「それにしても、まさか三人目の渡り人が獣人とは……。やはり、耳と緒も本物なのだよなぁ」


 六人部屋に戻って早々、フォスタがティーダをまじまじと見ながら呟いた。


「私からしてみれば、獣人が存在しない世界の方が驚きなんだけどねぇ」


「別の世界がたくさんあるというだけでも十分びっくりだよー」


 自分としては一同がここに集まっているだけでも驚きなのだが。

 フォスタが皆を見渡しながら口を開いた。


「これでついに全ての渡り人が集まった! 次に俺たちがやるべき事は……」


「歓迎会!」

「懇親会!」

『結婚式!』


「違っーーーーうっ! あと、そこのクソ妖精は、誰と誰の結婚式をする気だ!!」


 エクレールにからかわれて憤慨するフォスタと、その横で顔を真っ赤にして照れるチアが微笑ましいな。

 だが、このまま放っておくとフォスタが暴れ出しそうなので……


「だが、互いを知る為に軽い食事会をする程度なら良いだろう?」


「むっ。ま、まあそれも良いだろう……」


『それなら私、行ってみたい場所がありますっ!』


 なんと挙手したのは意外にもラピスだった。

 手を振り上げた瞬間にティーダが震えて身構えた理由がよく分からないが。



 そしてやって来た場所は……


「教会???」


 街の北側にある一際大きい建物で、入り口には創造神ラフィートの像がある。


『どうやら、わた……女神の信仰者を集める取り組みとして、お食事やお祭り事が出来るらしいのですっ!』


 いつもは温和しい笑顔のラピスだが、今回は珍しく興奮している。


「でも教会で異教徒も含めて食事会だなんて、そんなコトやって神様は怒らないのかねえ?」


『怒るどころか大歓迎ですっ!』


 その即答っぷりにはフォスタも苦笑い。

 修道女であるラピスが言うのだから本当にそうなのだろうけど、この世界の神様は寛大なようだ。

 まあ、自分の国にも祭りが好きな神様はたくさん居たけども。


『ごめんくださーいっ』


 ラピスがこの教会の修道女に話しかけた。


「あら、貴女は……?」


『あ、私はアイルの町でシスターをしているラピスと申します。実は……』


 食事の席についてラピスが話している間、他の面々はこれと言ってする事も無く、礼拝堂を眺めている。


「………ササッ」


 んん?


「じーー……ササッ」


 子供が数名、こちらを見たり隠れたりを繰り返している。

 何がやりたいのだろう?



「ガオーッ!!」



 何故かティーダが吼えながら子供達に突撃した。


「ギャーーッ!!」

「魔物が襲ってきたぞ!!」

「助けてーーっ!!」


 突然の襲撃者に子供達は大騒ぎである。


「何やってんだお前は……」


「いや、獣人の本能がここで威嚇いかくしておくべきと訴えかけてきて……」


 危なっかしい本能だなぁ。


「た、食べないでください~!」

「食べないよっ!」


 結局やいのやいの言いながら、ティーダと子供達は追いかけっこを始めてしまった。


「あらあら、仲良しさんですねぇ」


 どうやらラピスの方は話が終わったらしい。


「今日の夕刻少し早めに食事会……というか、お茶会が開けそうです」


「わぁ、お茶会ですかーっ」


 お茶会を準備する立場だったチアとしては、自分が参加者になるのが嬉しいらしい。

 なんだか、侍女らしい喜び方だなぁ。



 食事用の部屋は十人くらいが使う事を想定した小さなものだったが、我々の人数であれば丁度良かった。

 それに、妖精達の姿を見られる心配も無いので、窮屈な鞄に隠れなくて良いのも利点だ。


『ふぅー、やっぱ鞄は狭いねっ』


 文字通り羽を伸ばしながらエクレールが出てきた。


『わたしは、なれてるよー。ビバ!かばん!』


 そういえばシルフィを見たのは久しぶりだ。

 もはやフォスタの鞄が住居になっているような……。


『でも、どうしてエクレールちゃんまで鞄に隠れてるの?』


『次に私をエクレールちゃんと呼んだらお前殺すからな? ……沼コワイヨー』

『ひぃっ!』


 物騒な事を言ったかと思えば、恐怖体験を思い出して震えたりと、忙しい奴だ。


 そんなやり取りをしつつ、各々で自己紹介をしながら楽しいひとときは過ぎていった。

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