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076:生まれ変わった神様

 真っ暗闇の中、私とラピスは対峙していた。

 目の前の女の狙いや素性は不明だが、今が途轍とてつもなくヤバイということだけは分かる。


 もし魔王の手先だとしたら……


『失礼な! 誰が魔王の手先ですかっ!』


 うわーーー! 考えてるコトまで分かっちゃうのかっ!

 つまりコイツ相手だと、不意打ちも効かないということだ。


 だったら……


「真っ向にぶつかるしかないよねっ!!」


 全力で踏み出した私は鋭い爪で一薙ぎ!

 だが、ラピスは一歩も動こうとしない。


『extra protection腕部限定っ』

「なっ!?」


 ギィィィィンッ!!


 ラピスの目の前に虹色の壁が現れて、そこで私の爪が受け止められた。

 その体勢からすぐに身体からだを捻り、回し蹴りを放つものの、これまた謎の壁でガードされる。


「卑怯者! そんな反則技なんて使わずに正々堂々と来なさいよっ!!」


『あらあら~。それでは、お言葉通り正々堂々行きましょうか』


 ラピスがそう言った瞬間、姿が消えた。

 ……違うっ!


 その場を飛び退こうと脚に力を入れるが、それよりも早く腕を掴まれた。


『遅いですよ』


 その瞬間、天地? がひっくり返る。

 真っ暗なのでどちらが天地なのかは分からないけども……。


 バタンッ!

 仰向けのまま私は倒れた。


 真っ暗な床は随分と金属質で冷たい。

 私は負けた……手も足も出せずに。


「私の負けよ……」


 半泣きのまま天を見上げる……真っ暗だけど。


『どうして貴女は、自らを獣神だと名乗ったのですか?』


 それは……



………

……



 獣人は高い身体能力を持ち、他の種族を圧倒する最強の存在だった。

 だが、それはつまり他の種族から疎まれる存在でもあるという事。


 特に最弱と言われる人間族からは畏怖と嫌の目で見られていた。

 私達も当然、人間族を見下していたし、狩りのターゲットだった。



 ある日、人間族は「銃」という武器を生み出した。


 どんな強靱な肉体を持つ獣人であろうとも一撃で葬り去る悪魔の武器は、瞬く間に獣人達を駆逐し、私達は最強の存在からハンティングの獲物に転落していった。


 また今日も一つ、獣人の集落が滅びた。


 生き残った私は走った。

 走って、走って、走って……。


「ねえ神様。どうして獣人は殺されなきゃならないの……?」


 だが返事はない。

 代わりに聞こえてきたのは……


「あそこに獣人が居るぞ!!!」


 助けて! 助けて!! 助けて!!!

 神様! 神様!! 神様!!!


 泣きながら走る私に、もう一つの声が聞こえてきた。


「あの娘を召喚しろ!」

「ですが国王様、あのような死に体の者を……」

「構わん! 急げっ!!」


 次の瞬間、私の身体は黒い沼に飲み込まれていた。



 気づいたら獣人達に囲まれていた。

 ……いや、獣人の姿をした人間達に囲まれていた。

 そんな仮装で獣人の鼻を騙せると思っているのだろうか?


「お前の名は何と言う?」

「………」


「名無しか……?」

「………」


「先ほどからお前が人間に追われていた姿をずっと見ていた」

「………」


「安心するが良い。我々はお前を迫害する気は無い。むしろ我らにとってお前は神に等しい存在なのだ」

「私が神……?」


「お前は……これから獣神ティーダと名乗るがいい」

「じゅうしん……」


「我がワラント国の崇拝する、全ての獣と人を統べる神の名だよ」

「全ての獣と人を……」


 人間に殺されそうになったかと思ったら、今度は神様呼ばわりか……。

 ヤケクソになった私は「それ」に乗ってやることにした。


「私は……獣神ティーダ。人間よ、お前達の望みは何だ?」



……

………



『なるほど、状況はお察ししました』


「………」


 私は何故、この女に全てを話してしまったのだろうか。


 ラピスの蒼い瞳を見ると、何もかも見透かされているようで……。

 まあ、こちらの考えている事が全部バレバレみたいだし、見透かされているというのは事実なのだけども。


『わかりました』

「何を……?」


 質問に笑顔で応えたラピスの手が、仰向けに倒れたままの私の頭に伸びる。


『*cac*s..』


 上手く聞き取れなかったがラピスが何かを唱えた瞬間、目の前が真っ白になり、猛烈に頭の中をかき回された錯覚に陥る。


「ぐぁっ!!」


 意識が朦朧もうろうとする中、ラピスの声だけはハッキリと聞こえた。


『貴女には神だけが持つ特別な力をいくつか与えました。人に創られし神の子カレンよ、これからは堂々と獣神ティーダを名乗りなさい』


「あなた………は……」


『我が名は創造神ラフィート。この世界の神です』



 気づいたら宿屋のベッドで寝ていた。


「え、えええええーーー……!?」


 何だ今の夢!?

 勘違いして「神のお告げを聞いたのだ!」とか言って、新たな宗教団体を作ってしまいかねない、そんなぶっ飛んだ夢を見てしまった……。

 確かに世の中の宗教のほとんどは「夢で見た」みたいな理由で作られたモノなのだけども。


 それにしても、ラピスが神様だなんて、ムチャクチャな夢だなぁ……。


 外はまだ若干薄暗く、かなり早い時間のようだ。

 何だか二度寝する気分にならなかったので外に出てみると……


『あら、おはようございます、ティーダさん』


 何故か宿の前にラピスが居た。


「……おはよう」


 思わず警戒して、無愛想な挨拶を返してしまった。


 イカンイカン、私らしくもない!

 気を取り直して話しかけよう。


「随分と早いねぇ。日課なの~?」


『そうですね。この時間に散歩するのが静かで好きなんですよ』


 おばーちゃんみたいだな。


『ゴフッ!』


 突然、ラピスが変な声を出して後ろを向いてしまった。


「ど、どうしたのっ!?」


『い、いえっ。ちょっと喉の調子が悪くて…ごほごほ』


 う………うんこちんちん!!!



 バターーンッ!!!



 ラピスが直立姿勢のまま地面にぶっ倒れた。


「あわわ……あわわわわ……」


 私が怯えていると、ラピスがゆっくり立ち上がり歩いてきた。

 まるで猛獣のようなあおい目を細めて不敵な笑みを浮かべる


『ティーダさん……』


「ひっ、ひいっ!」


『やっぱり、もう少しお仕置きが必要かもしれませんね』


「や、やめ……っ!」


 朝焼けの空に見習い神様の叫び声が響いた。



~~



「あっふ……おはよう、皆」


 宿の一階に出ると、全員が揃っていた。

 ……だが、そこには何故かとても満足そうな笑顔のラピスと、驚く程に憔悴しょうすいしきったティーダの姿が。


「おい、ティーダ! 大丈夫かっ?」


「沼コワイヨー、泥コワイヨーー……」


 どこかで聞いた言葉を呟きながら震えている。

 一体、何があったんだ……!?


『あらあらうふふ……』

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