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071:妖精にとって最強の強敵とは?

 大いなる意志様、大妖精様、お元気ですか?

 ボクは今、カトリという名の渡り人と共に行動しています。


「ヒャッハー!」


 生まれてすぐに人里に送り込まれて少し不安でしたが、頼りになる仲間達のおかげでとても楽しい毎日を送っています。


「そっちに逃げたぞぉ!!」


 ですが、初めての土地は不安がいっぱいです。

 むしろ、現在進行形で……


『助けてえぇぇぇっ!!!』


 人間の子供は魔王より恐ろしい存在だと、身を持って知りました。



………

……



 急いで次の町へ向かう準備をしていると、部屋に扉を叩く音が響いた。


「何だこんな朝早くに……」


 扉を開けると、長い金髪の修道女が立っていた。

 歳は二十歳くらいだろうか?


『私の名はラピスと申します。この部屋に妖精と共に旅をしている方がお泊まりになられていると聞きまして…』


 昨晩はエクレールの「気配を消す魔法」で隠れながら帰ったはずなのだが、一体どこから情報が漏れたのだろう…。

 どうにか誤魔化してこの場を脱出せねば……。


「残念だが人違いではないだろうか? 自分はこれからすぐに旅に出るので、相手をする時間は……」


 そう伝えると、ラピスが苦笑いしながら真っ直ぐに指を差した。

 振り返ると……


『ムニャムニャ、そんなぁ~キミの気持ちは嬉しいんだけどぉ~Zzz…』


 宙に浮いたまま寝ぼけている馬鹿が一匹。

 あぁ、嫌な予感がする……。



『是非とも、この町の子供達に妖精とふれ合う機会を頂けませんか?』


 ラピスの話によると、どうやらこの町には学校も無く、子供達がある程度大きくなると、すぐに労働力として家の手伝いをしながら生活することになるため、代わり映えの無い毎日に飽き飽きしているらしい。

 一応は教会が昔の寺子屋みたいな事をやっているようだが、その教育水準は推して知るべし。


「なるほど……。どうするエクレール?」


『ボクが寝ぼけて姿を見られたのが原因だし、子供達の為なら仕方ないかなぁ……』


「よし、せっかくの縁だ。子供達の所へ連れて行ってくれ」


『ありがとうございます!』



……

………



 その結果がこれである。


 初めてボクの姿を見た子供達は目をキラキラ輝かせながら大喜びだったのだけど、そんな興味をそそるようなターゲットに対して、黙って眺めるだけで済むはずもなく、いつの間にか全力の鬼ごっこが始まっていた。


「おーい、エクレール! 大丈夫か~?」


『これが! 大丈夫に! 見えるっ!?』


 飛びかかってくる子供達を回避しながら、カトリの質問に答える。

 本当は高所に逃げてしまえば良いのだけど、子供達の大ブーイングに渋々降りてきて低空で逃げ続けている。


 それに、大ブーイングの最中に凄い精度で石を投げてくるヤバいガキが居たので、下手に高所を飛び続けると、冗談無しに撃墜される恐れもある。


「さて、そろそろ助け船を出すかな。おーい、そろそろ妖精さんが疲れてきたから鬼ごっこはおしまいだよーっ」


「アァ? おっさんは黙ってろ!」


「おおおおおお、おっさんだとっ!?」


 カトリの年齢は知らないけど、まあ子供達から見ればおっさんだろう。


『てひひひ、おっさんって言われてやんの!』

「うっせぇ!」


『ウヒャヒャヒャヒャ…ハブッ!!』


 いきなり捕獲されて地面に叩きつけられた!

 これはまさか……虫取り網!!?


「妖精1匹ゲットだぜ!」


 ……ぴき

 この可憐なエクレール様を虫扱いだと!?


 許せん……!


『………ふっふっふっ、ガキンチョ共め……妖精の力、とくと味わうがよい!』

「おい馬鹿! やめ…!」


『スワンピング!!』



~~



 すわん…? と思った瞬間、地面に足が沈み、そのまま前に倒れてしまった。

 咄嗟とっさに両手を前に出したが、肘まで地面に埋まった。


「!???」


 うーむ、田植えに慣れていない若造のような体勢で固まってしまった。

 周りを見ると、子供達は泥塗どろまみれになって転げ回っていた。


「妖精すげー!」

「泥だらけだーっ!」


 エクレールの狙いとは裏腹に、子供達は大喜びだ。


『ふふふ、みんな楽しそうで何よりです』


 ラピスも嬉しそうに微笑んでいる。

 これも全部エクレールの頑張りのおかげだな。


 ……あれ? 当のエクレールはどこに居るんだ???

 虫取り網で捕獲されて、その中で魔法を使って……。


 沼の中心を見ると、虫取り網の棒だけが見えた。


「うおおおおっ!! エクレーーーーッル!!!」



『沼コワイヨー、泥コワイヨーー……』


 泥塗れになったエクレールが目を虚ろにしながら震えている。


『ねえカトリ……』


「な、なんだ…」


『手足を縛られたまま水責めされた捕虜が機密を吐く理由が分かったよ』


 例え方が嫌すぎる……。


『あの……何だかすみません』


 ラピスが申し訳なさそうにしている。


此奴こいつが勝手に自爆しただけですから、貴女の責任では……」


『うー……カトリの薄情者ぉ……』


 恨めしそうにこちらを見られても困るのだが。

 どう考えてもお前の自業自得だ。


「それに、お前おっさんと呼ばれた事を馬鹿笑いしてただろう!」


 やいのやいの!


『カトリも泥アタックを食らえっ!』


「羽ばたくのを止めろ! 泥が散って服が汚れるっ!! やめんかっ!!」


 大の大人と妖精が全力で牽制し合っている。


『ふふふ、お二人とも仲良しさんですね~』


「仲良し…なのか?」


 そんな笑顔のラピスに対し、エクレールは不適な笑みを浮かべた。


『確かにぃ~。ボクがこの人に、恋人が居ないのは寂しいねーっみたいな事を言ったら、ボクが一緒に居てくれるだけで満足ぅ~、みたいな返事だったからねっ』


『あらあらまあまあ~』


「てめぇ! 微妙に言い回し変えんな!」


『事実でしょ! それともボクとは遊びだったというのっ? ヨヨヨ……』


 そう言って泣き真似をしているが、指の隙間から笑っている顔が見える。


『あははは、やっぱりお二人とも仲良しさんですよ♪』

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