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068:クロックタワー

 窓から差し込む日の光で目を覚ました。


「朝か……」


 手元の懐中時計では六時を差しているが、本当にこれが正しいかどうかは分からない。

 この街のどこを見ても時計が無かった為、お天道様が真上に昇った時に自分で適当に合わせただけに過ぎないのだ。


「へぇ、時計を持ってきていたのか」


 どうやら隣の寝台で寝ていたフォスタも目を覚ましたらしい。


「ああ、残念ながら正確な時間までは分からないのだが……」


「それでも行動基準が分かるだけでもかなり楽だろ? 何と言ってもこの世界は夜に外を出歩くのは命に関わるし、もしコレが量産出来れば億万長者だよ」


 王子のくせに随分と貧乏臭い事を言うものだと笑いつつも、確かに懐中時計があればこの世界の民はかなり生きやすくなるだろうとは思う。


「これを複製出来る者が居れば良いのだが…」


「わははっ! 相変わらずお前の国はそういう事ばかり得意なのだな」


 今度は逆に笑われてしまった。


「だが、この街にも時計塔が立てる計画があるらしいぞ?」


「そうなのか?」


「この部屋からは見えないけど、街の中央にドドン!とな。中央広場の北側だったかな」


 なるほど。

 技術的に個別に設置が出来なくとも、中央にあれば……はて?


「中央に時計を立てたら、一方向からしか見えないのではないか?」


「言われてみれば確かに……」


「せっかくだし、今日はその建造予定地でも見に行ってみるか?」


『「おー! 賛成っ!」』


 いつの間にか起きていたエクレールとフォスタの返事が重なって、思わず笑ってしまった。


・ 


 現地に到着すると「時を報せる鐘 建設予定地」の看板と仮設の建物があった。


「これは時計じゃなくて、時鐘じしょうだなー」


「そもそも、一日を二十四時間に区切る文化すら無いのかもしれねぇなぁ」


 説明文を見ると、今まで東西南北の教会が別々に鳴らしていた時鐘を統一し、皆が行動しやすいようにするといった内容の事が書かれている。

 いつに鳴らすかまでは書かれていないので、恐らく日の出と日の入りに叩くくらいだろう。


「ふーむ……」


 顎に手を当てて少し考えたフォスタは突然、建物のドアを開けた。


「お、おいっ、フォスタっ!」


「ようっ、この中に責任者は居るかー?」


 建物には数名の男が居たが、全員がいぶかしげな顔でフォスタを見ている。

 その中の一人が近づいて来た。


「私が責任者のルラゴだ。何の用だね?」


 年齢は五十前くらいか、確かにこの中で一番偉そうな雰囲気ではある。


「この時を報せる鐘とやらは、自動で鳴るのかい?」


 フォスタの質問にルラゴは鼻で笑い返した。


「ここに建造する塔は、この街で最も高い建物よりもずっと高いのだ。しかも街の皆に時を報せなければならぬ。皆に聞こえる程の強い力で、尚且なおかつ自動で叩くなど、不可能だ」


 その言葉を聞いてフォスタは両手を左右に開く格好をした。

 表情から察するに、呆れたという意思表示らしい。


「おっさん、アンタも技術者なら……」


 そう言いながら、机に羊皮紙に何かをフォスタが書き始めた。

 残念ながら自分の知識ではそれが全く理解出来ないのだが、ルラゴはフォスタの描いた図を見て唖然としている。


「小僧……お前の名は? どこでそれを知った?」


「俺の名はフォスタ。俺は修理が出来るだけで、この仕組みを考えたのは俺じゃねーよ。だが、今なら単なる鐘を作るか歴史に名を残すか、アンタの好きな方を選べるぜ?」


 ニヤリと笑うフォスタ。


「なるほど、よく分かった……」


 ルラゴは先ほどのフォスタと同じように両手を左右に開く格好で……


「王子様の命令じゃ逆らえんからな!」



 結局、フォスタとシルフィを残して、自分達だけで三人目の渡り人を捜索することにした。


「フォスタさん、何だか凄く張り切ってましたねー」


「そういえば、奴がこの世界に来る前まで何をしていたのか知らないな……。まあ、あまり追求したくは無いが……」


 自分の言葉に、チアが不思議そうな顔をする。


 恐らくフォスタも「カトリ」という名前で察しているだろうが、自分達二人の母国は恐らく敵対関係にあったはずだ。

 今は妖精の秘術の力で共通の言語で会話が出来て、尚且つ共通の目的で行動しているが、もし元の世界に帰れば、国の威信を背負ってお互い殺し合いをする事になるかもしれない。


 そう考えると、少し気が重い……。

 そもそも元の世界に帰れるという確証すら無いのだから、随分と気の早い話ではあるのだけども。


『難しい顔してるね。大丈夫?』


 エクレールが心配そうに覗き込んできた。


「大人は余計な事まで悩んでしまうものだからな」


『そっか……。もしボクに話せるコトだったら相談に乗るからね』


「お前にしては珍しく優しいじゃないか。一体どうした?」


 茶化して指摘してやると、怒って顔を背けてしまった。


『珍しく優しいとか一言余計だよっ! ボクは無礼が嫌いなだけで、困っている人や悩んでいる人を助けたいと思う気持ちくらいあるさっ』


「ははは、すまない。……ありがとうな」


 礼を言われて満足したのか、再びエクレールは笑顔に戻った。

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