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067:デジャヴ

「さすがに長期宿泊でこんなに良い部屋に泊まるのは気が引けるのだが…。元の部屋に戻してくれないだろうか?」


 神都ポートリア滞在二日目。

 一階の定食屋での寸劇のお礼として、二階の一番奥にあった最高級の部屋を割り当てられたものの、いくら何でもそこまで図々しく言葉に甘える気にはなれなかった。


 しかし、女将さんは首を左右に振って笑った。


「一階の飯屋はダンナがやってんだけどさー、もうすっごい喜んじゃってね。自分の飯食って感動して泣かれたのが嬉しくてたまらないんだって。せっかくだし泊まっときなよ。アンタの探してる仲間が見つかったら部屋に泊まる人数も増えちまうんだろ?」


 長期滞在の理由が人探しという事は既に女将さんに伝えてある。

 自分達のこの状況は、はたから見れば「若い男が年下の娘とずっと宿に泊まっている」としか見えないわけで、いかがわしい事この上無い。


 いかがわしい事など何も無いのだが、変な噂が出回って居辛いづらくなっては困るのだ。

 それに、国王の命令で人探しをしている人が居るという話が広まってくれれば、他の渡り人に気づいてもらえるかもしれない。


「では大変心苦しいが、お言葉に甘えるとしよう。もし力になれる事があれば、いつでも相談してくれ。そのくらいのお返しはさせて欲しい」


「あいよー。そんじゃごゆっくりー」


 そう言い残して女将が部屋を出て行った。


「さて、今日から本格的に渡り人を探すわけだが、この街はどうやら四つの街が一つにまとまって出来たものらしい」


「へー…」


『それで教会が4つもあったんだねっ』


 どうやらこの街くらいの規模であれば普通は教会が一件しか無いらしいのだが、この街には東西南北にそれぞれ教会が一軒ずつある。

 大昔に四つあった街が何らかの理由でこの海沿いに集まる事になり、その時に神都という呼び名も定着したのだそうだ。


「だからこの街はかなり広く、人口数もかなり多い。むやみに当てずっぽうで探すよりも、城下町でやったように御者や商人など、広範囲に移動している人を狙うべきだろう」


「『なるほどっ』」


 さあ出発だ!



「まさかの全滅かー…」


『もしかすると、ボクみたいに堂々と飛ばずに、渡り人の鞄の中に隠れて行動してる恥ずかしがり屋さんとかじゃない? 普通、妖精が飛んでるのを見たら絶対に忘れないだろうし…』


「あー、その可能性を考慮してなかった。それだと、探しようが無いのだが…」


 中央広場の噴水を眺めながら途方に暮れる。


「私たちがなるべく目立って、見つけてもらうのが一番手っ取り早いのかなー?」

「目立つねぇ…」


 一瞬、昨晩の定食屋での一件が頭に思い浮かんだが、さすがにもう一度やれと言われても無理だ。

 自分でも何故あんなに盛り上がったのか、未だに理解できない…。



「ハアァ!? カネ持ってねえだと!!?」



 辺りに男の怒鳴り声が響いた。


「そういうコトは食う前に言いやがれ!!」


 どうやら屋台で食い逃げをしようとした奴が居るらしい。

 犯人は…チアと同じくらいの年齢で、金髪碧眼きんぱつへきがんの青年だ。

 話を要約すると、飯代が払えないので物々交換を願い出ているようだ。


「クッソ! この世界の奴らどいつもこいつも!!」


 この世界!?

 慌てて駆け寄り、二人に話しかける。


「そこの店主、食事代を代わりに払うから、その青年と話をさせてほしい」


「あ、ああ。飯代を払ってくれるんなら文句ねえよ…」


 お金を受け取ると、青年の腕を離した。


「あ、ありがとう、助かっ…」


 青年がお礼を言おうとしたが、エクレールの姿を見た瞬間に目を見開いた。


「見つけたああああああああ!!!」



「申し遅れたな。俺の名前は…本当はアッシュと言うのだが、この世界ではレヴィート王国の第一王子フォスタということになっている」


「ことになっている? それに王子とは……?」


 確かに、自分の目の前に居る青年の容姿はこの世界の住人のようだが…。


「俺は王子を生存させる目的で呼び出されたんだそうな」


 全く何が言いたいのか分からない。


「すまないが、自分にも解るように説明してくれないか?」


「俺は中身だけ前の世界からやってきて、この王子の体に入っているんだよ」

「なんと…」


 妖精の秘術はそんな事まで出来るのか……。


「どうやらこの王子様は生まれつきリソース…まあ、命の源みたいなヤツが不足してたんだと。二子にし以降ずっと女の子ばかりらしく、このまま王子が死んじまったら王位継承も危ういみたいでな。王子が亡くなる直前に苦肉の策として俺を呼び出したんだそうな」


 何と不憫な……。


「だから、ライン公国としては魔王討伐よりもさっさと俺に子作りしろとクソうるさくてな。面倒になって逃げてきた」


「逃げてきたって…。そのまま魔王を倒してお前が元の世界に戻ると、王子は死んでしまうのではないか?」


「へっ、そんなの知った事か。人を誘拐同然で連れてきておいて、ガキ作れと言う方がおかしいだろ?」


 まあ、それは否定出来ないな……。

 自分も、まだこの状況を納得出来ているわけではないのだ。


「うーん、それで跡継ぎが居なくなっちゃって国が混乱するのは、良くないと思うけどなぁー」


 珍しくチアが会話に割り込んできた。


「ほう、お前の侍女か。じゃあ、俺と跡継ぎを作ってみるかい?」


「跡継ぎを作る? ……なななな、何て事をっ!?」


 意味を理解し、顔を真っ赤にするチア。


「なんだお前、一丁前に知識だけはあるようだなハハハ!」



『パライズショット!』



 後ろからエクレールの放った一撃で、フォスタがすっ飛んでいった。


「おおおぉいっ!!」


『ボク、そういう女を見下してる男が大嫌いなんだよねー』


「だからと言っていきなり攻撃する奴があるか!」


 自分とエクレールが言い合いをしている中、チアはフォスタに駆け寄って介抱している。


「大丈夫ですかっ? しっかりっ」

「ああ…。すまない…。失礼な事を言った俺に…君は優しい子だな」


「確かにさっきは驚いたし、嫌な気分になったけど、だからと言って貴方が傷ついて良い理由にはならないよっ」

「ありがとう…」


 よく分からないが、話が良い方向にまとまってきたらしい。


『雨降って地固まるだねっ』

「雨を降らせた奴が言う事か……」



「改めて今後とも宜しく頼む」

「こちらこそ」


 自分とフォスタが握手を交わしていると、エクレールが急に周りを見渡し始めた。

 それを見たフォスタが一瞬身構えたのを見て思わず苦笑してしまった。


「どうしたエクレール?」


『いや、監視役の妖精はどこだろうと思ってね』


 ああ、確かに。

 フォスタは中身(魂?)だけ呼ばれたと言っていたものの、自分達には必ず監視役の妖精が付くはずなのだ。


 エクレールが問いかけると、フォスタの鞄がモゾモゾ動き出した。

 だが、留め金が引っかかって出られないらしい。


『あー、ボクの勘が当たってたみたいだね…』


 呆れ顔のエクレールが鞄の留め具を外すと、中から黄色い服を着た妖精が出てきた。



『じゃーん!』



 じゃーん、って何だろう?


「コイツが俺の妖精、シルフィだ。変わった性格だけど、腕は確かだよ」


『か、かわったせいかく…ガーン…』


 ガーン、って何だろう??


「そういえば、どうしてシルフィは鞄の中にずっと隠れていたんだ?」


『ひ……』


 ひ?


『ひやけがイヤで……』


「『………』」


 変わった性格という意味が理解できた。



「お帰りー。どうやら、お目当ての相手が見つかったみたいだね?」


 女将さんに迎えられ、二階の部屋に到着。


「うわっ! 随分と広い部屋に泊まっているのだな……」


「…色々あってな。おかげで仲間が全員揃っても宿の心配をしなくて済むのだが」


 この部屋は何と驚きの寝台六床!

 もう一人の仲間が見つかってもまだ余るくらい広々している。

 女将曰く、こんな部屋に泊まる奴は滅多に居ないから、全く問題無い! だそうだが。


「後は南西のワラント国の渡り人か……。その人がこの街を目指してくれれば助かるのだが……」


「残念ながら俺がこの街に来て三週間程経つけど、それらしき人は見かけなかったな。まあ、見かけてたら全力で捕まえてると思うけど」


「……三週間って、寝床ねどこはどうしていたんだ?」


「城の宝物庫から拝借した宝石を売り払った金でどうにか食いつないでいたけど、さすがに途中で尽きてな。カトリが来なかったら危なかったよ」


 一国の王子が食い逃げで逮捕だなんて、大騒ぎになるだろうからな……。

 あそこで出会えて本当に良かった。


「でも、もう一人の渡り人が女の子だったら良いねぇ。私、お友達になれたら良いなぁ~」


 チアが何気なく呟いた言葉に、男二人が顔を見合わせて、部屋の角に移動した。


「その可能性は考えてなかったな……」


「でも男二人と女二人が同室ってどうなんだ?」


「いや、二人がちゃんと理性を保ってだな……」


「四人全員で……」

「っ!?」


「いや、何でもない…」

「だがな…!」


 盛り上がる男二人。


『全く、これだから男は…』


『ウチのごしゅじんは、たまのこし!』


「あはは…」


 結局、合意無しで手を出そうものなら成敗するから、男二人は間違いを起こそうなんて考えないように! というエクレールの一言で方針が決まった。

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