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065:君の名は?

「非道い夢を見た…」

「左様でございますか」


「紗代、ここはどこだ……」

「サヨ? お客様、ここはライン公国の王城の客間で御座いますよ」


「お客様だと!!」


 勢いよく起きあがると、目の前の娘は仰天してひっくり返った。


「うぅ…、痛いですー」


 倒れた娘は変わった姿をしているが、どうやら侍女らしい。


「すまない、寝ぼけていたようだ」


 手を差し伸べると、少し遠慮しながらも掴まって立ち上がる娘。


「申し遅れました。私はカトリ様の身の回りの御世話をさせて頂くことになりました、チアと申します」


 チアと名乗る娘は深々と頭を下げた。

 見たところよわいは十五程度だろうか。

 妹と同じくらいの印象だ。


「そこまで堅苦しいのはしょうに合わない。もっと気楽に接してくれないだろうか?」


「あはは、わかりました。それでは、こんな感じでどうでしょうっ?」


 先程よりも明るく、年相応な雰囲気になった。


「ああ、それで良い。妹と同じくらいの娘に先程のように接されるのは余り好かんのだ」


「なるほど! それじゃ、何か用事があったらいつでも呼んでね、お兄ちゃんっ」


 …自分はそこまで妹を模倣もほうしろとは言っていないのだが、否定する前に走り去ってしまった。


『すごいねカトリ。初対面の女の子にあの呼ばせ方は正直引いたよ』


「なっ、誤解だ! ……なんだ、貴様か」


 初対面でいきなり自分を攻撃してきたエクレールが現れた。


「先程の面妖めんような術は何だ? 一瞬、稲妻が見えた気がするのだが…」


『ご名答。あれは電撃で対象者を痺れさせる魔法だよ。本当はもっと派手なのをやろうかと思ったけど、いきなりキミを殺してしまう危険性があったから自重したんだ』


 あっけらかんと恐ろしい事を言ってくれる。


「妖精とやらは、何奴どいつもそんな攻撃的な奴ばかりなのか?」


『攻撃的だなんて心外だよ。小人こびとみたいな低俗なヤツらと同類扱いされたのがちょっと不満だっただけさ。女性に対して失礼だと思わないのかい?』


 ……?


「誰が女性?」

『ボクだよボク!』


 ……?


「お前、メスだったのか」


 その直後、前回よりも強力な稲妻で再び気を失った。



『キミはもう少し言葉に気をつけた方が良いと思うんだ』

「まあ今回は自分が悪かったと思う」


 結局、朝から騒いでいる間に昼になってしまった。

 意図せずに連れて来られたとはいえ、客の立場でありながら、昼まで寝ていたと思われそうで心配だ。


『そもそも、男の子がボクみたいな服装してたら変じゃない?』

「いや、人間とは文化が違うものかと……」


 エクレールの服装は黄緑色の薄手の服で、腰の周りに布がヒラリと巻かれている。

 言われてみれば女物おんなもののような服装ではある。


 胸元を見ると……一応、あるものはあるのだが……。

 これはオスと見間違えたのは仕方あるまい。


『何か今、凄く失礼なコトを考えなかった?』

「気のせいだろう」


 また攻撃されてはたまらないので、さらりと流す。

 随分と遠回りをしてしまった気がするが、そろそろ本題に入ろう。


「結局、自分はこれからどうすれば良いのだ?」


『うーん、闇の城にいきなり乗り込んで魔王を倒してしまうのが最短なのだけど、やっぱり他の渡り人と合流するのが無難じゃないかなー』


「渡り人?」


『ああ、キミのように別の世界から連れてきた人たちのコトをボクたち妖精はそう呼んでいるんだ。人間たちにもそう呼べと言っているのだけど、なかなか浸透しなくてね』


 渡り鳥のように遠くから飛んできたていで名前を付けたようだが、確か渡り人とは流浪人るろうにんといった意味だったはず。

 強制的に連れて来られた上に放浪者呼ばわりというのは、何とも不服である。


「要は自分と同じ境遇の二人を探せと言うことか」

『本日二回目のご名答っ』


 しかし、国王の指し示した地図を見たところかなり広い大陸のようなので、当てずっぽうで二人を探すのは無理がある。

 まずは城や街で手掛かりを得るべきだろう。


 しかし、城内の者に聞いても他国の情報を知る者は居らず、国王ですら「他国の国王に従者を送っていて、協力を呼びかけている」と脳天気な返事をする始末。

 こうなれば自分の足で情報を集めるしかあるまい。


 まずは先ほどの侍女に尋ねてみるか…。



「あら、どうしたのお兄ちゃん?」


 開口一番これである。


「口調は馴れ馴れしいままで良いから、普通に名前で呼んでくれないだろうか…」


 自分の提案に少し残念そうにうなだれるチア。

 何故だ……。


「私一人っ子で、お兄ちゃんに憧れてて嬉しかったから。ちょっと残念かな…えへへ」


 止めろ、我が実妹が駄菓子屋で強請ねだる時と同じ目をするのは……。


「む、無理に止めろとは言わない……」

「ありがとうお兄ちゃんっ」


『弱ぇーー…』


 面目ない……。

 そんなやり取りをしつつも、渡り人二人を探す為の情報収集に、街へ出たいとチアに伝えたところ、快く案内をしてくれることになった。



「わざわざ案内までさせてしまって申し訳ない」


「いえいえ、これもお仕事だから大丈夫だよ。遠出する時も、私が馬車の御者として頑張るから言ってね」

「馬まで扱えるのか?」


 この世界の侍女は随分と多芸なのだなぁ。


「あ、実家が牧場だからね。他の子たちはさすがに無理だよ~」


 なるほど納得した。

 チアに連れられて城下町までやってきたが、魔王の手下に怯えて暮らしているかと思いきや、街の様子は至って平和そうだ。

 むしろ自分の故郷よりもずっと……。


「呪いのせいで魔王の手先から一方的に蹂躙じゅうりんされていると思っていたのだが、街の様子は普通だな…」


「魔族は夜にしか行動しないみたいだし、姿を見られなければ襲われないから、昼間はこんな感じだよ?」

「……何?」


 今までの話をまとめると…何とも不可思議な状況が見えてきた。


「じゃあ何だ。魔王の呪いにより、この世界から暴力沙汰が無くなり、人間は夜遅くまで出歩かなくなり、早く家に帰るようになったと?」


「まあ、そういうことだねぇ。でも、酒場はやってるよー。街中まで魔物が侵入してるくコトなんて、滅多にないから」


 引きった顔のままエクレールを見ると、はぁ…と溜め息を吐いた。


『キミの言いたいコト、すっごく分かるよ…。ボクたち妖精も、魔王の狙いが全く分からないんだ。魔王が呪いをかけてから人間同士の争いも無くなったしね。その目的と真相を聞き出すために、大妖精が渡り人の監視をさせている、なんて事情もあるみたいだし…』


 もう魔王を放置したままの方が世界が平和なんじゃないか? と思ってしまうが、それでは元の世界に帰れない。

 とにかく魔王に会わなければならない事に変わりはないのだ。



「そんな奴をレヴィート王国領土にある港町で見たって噂なら聞いたな」

「本当かっ!」


 街に出て、他の街と交流のありそうな御者や商人などに片っ端から声をかけていたところ、ついに貿易商から有力な情報が手に入った。


「ああ、丁度一仕事終えたし、良かったらお前らを乗せていってやろうか?」


 渡りに船とはまさにこのことだ。


「宜しく頼む。しかし国を渡るとなると、かなりの移動距離だと思うのだが?」


「ああ、かなりゆっくり走らないと馬車が駄目になっちまうし、いくつも街を経由するから、十日前後は覚悟してもらわないと…」


「なんだ、たったの十日か…。山道をずっと歩けと言われるなら厳しいが、馬車で街を経由するのなら全く問題ないな」


 自分の言葉に、チアやエクレールが驚きの表情を浮かべる。


「お兄ちゃん…」

『前の世界って、どんだけ過酷だったの…』


「うーん……」


 自分が最後に居た場所が過酷だっただけで、生まれた国は普通だったのだがなぁ。

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