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062:生還者

 ここにパパとママが居た…?

 ゆっくりと立ち上がった私は前に進もうとしたものの、強い抵抗に遭う。


『引き返しなさい』

「いや…」


『間違いなく、貴女のパパとママはここで最期を迎えたのよ』

「奥に行けば…逢え…」


『ここから先に行こうとする行為は、前進ではなく単なる現実逃避だわ。もし先に進んでパパとママが見つかったとしても、それは既にリソースとしてこの世界に回収された亡骸よ…』


「そんなコト言われなくても分かってるよ!!」


『……』


「どうすればいいの…クリスくん…」


 私はその場に立ったまま俯いていた。


 グラッ


 視界が揺らいだ…?

 いや、これは…地震!?


 上を見上げると、天井にヒビ割れが見えた。

 時間経過ごとにそのヒビが大きくなっていく…。


「レベリング!」


 咄嗟とっさに両手を挙げて唱えたけど、何も起こらない。


 そっか、さっき魔力が切れたんだった…。



 呆然としたまま立ち尽くす私。



 もう走っても逃げられない…。



 このまま終わるの…?



 最期に愛しい人の名を…



「クリスくん…!」








「あいよっ!!!」







 え……?

 後ろからいきなり抱きしめられた。


「ったく、いくら魔力が多いからって言っても、無計画にポンポン撃つなよ」

「え…?」


「そもそもレベリングはちゃんと使えば掘削くっさくだって出来るんだ。魔力消費のデカいディギングと交互に撃つとかバカかお前は?」

「えーっ!?」


「それに、俺がレベリング覚えたのは、いつかお前と一緒にここに来たときのためだったのに、一人で行くなよなー」

「はうー…」


「うっし、そろそろ限界だ。ちーちゃん、やるぞ!」

『あいあいさー!』


 彼は私を左腕で抱きしめたまま、頭の上に乗せた妖精さんと同時に右腕を高く突き上げた。


『「レベリング!」』


 今までヒビだらけだった天井が均され、壁の爆発の痕も消えて綺麗になった。


「おまえすげーな!」

『きみもすげーな!』


 わはははは!と笑い合っている。


 呆然とそれを眺めていると、頭の上に何かがポフッと乗せられた。

 手に取ると、それは水色リボンの髪飾りだった。


「プレゼントを渡すのに、ずいぶん遠回りしちまったな」

「うん…」


「その…気づいてやれなくてゴメンな」

「ううん…。私の方こそ、いっぱい迷惑かけて、ごめんなさい…」


「帰ろうぜ、俺たちの家に」

「うんっ」



『クレアさん、よく頑張りましたね』



「「!!」」


 私たちの前に現れたのは…創造神ラフィート様…。


「もう少し早く来て助けてくれてたら、全力疾走しなくて済んだんだけどなー」


「あわわわわっ! クリスくん、そんなコトを女神様に言っちゃダメだよっ!」


『ふふふ、勇者様が必死にお姫様を助けに行こうとしてるのに、それを女神様が救出しちゃダメでしょ?』


 ラフィート様はイタズラっ子っぽく笑いました。



『改めまして、クレアさんはよくぞここまで一人で辿り着きました』

「はい…」


『先ほど貴女が手にしたロケットペンダントは、貴女のお母様がいつも肌身離さず持っていたものです』


「どうしてママのロケットがここに…? ママは避難していた人を誘導して死んだって…」


『貴女のお母様は、街の人々の避難誘導を済ませた後、お父様を探すために炭坑に引き返しました』

「「!!」」


 じゃあ、この場所は…


『クレアさんのご両親はもっと奥で再会し、ここまでやってきたところで崩落に巻き込まれました。お父様が他の方々を先に行かせて、最後に脱出しようとして逃げ遅れた…というのは、生存者の方々がお話した通りですが…』


 つまり、さっきまでこの場所にあった爆発の痕は、閉じ込められたパパが命がけで脱出に挑んだ結果…ということ…。


 自分たちが今ここで死んでしまったら、病にせている私まで死んでしまう。


 私を救うために自ら命も投げ出し、その結果ここで息絶える無念さは想像もできない…。


「パパぁ…ママぁ…うぅぅ………」


 そんな両親のことを考えていたら悲しくて…。


『やっぱりクレアさんは人の心の痛みが分かる、お優しい方ですね。あの時も、自分が死んだことよりもクリスさんを悲しませることを心配して泣いてましたから……』


 とても優しい慈愛の微笑み。


「ラフィート様、どうにか…。パパとママに…私はこうして元気だと伝えて頂けませんか? 私は幸せだと…伝えて…ぅぅ…」



「待った甲斐があったな……」

「ええ、あなた……」



 っ!!

 顔を上げるとそこには……。


「えっ…? えっ……???」


『僅かな時間ですが、頑張ったよい子に女神様からのプレゼントです。ホントはこんな贔屓ひいきしちゃダメなんですけどね。みんなにはナイショですよ?』


 そう言うと、女神様はまた舌を出してウインクした。


 私はゆっくりと二人のところへ歩き出して、そして気持ちを抑えきれずに駆け出して飛びついたっ。


「逢いたかった…! 逢いたかったよぅ…! パパ…ママ!!!」



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