061:記念写真
「これはひどい」
ロザリィさんが頭の中で『セントエルモス!』とか騒いでいるけど、気にしないことにした。
「土砂は取り除けたけど…」
炭坑の入り口は、すっかり大穴に。
周囲にあった建物も見事に吹き飛んでいた。
「あー、しまつしょ…がっくし…」
『おこられるー、しくしく』
うーん、爆発が強すぎるのも実験失敗なのですね…。
「とにかく…中に入ってみよう」
奥の方は真っ暗で何も見えない。
「うーん、明かりを…付けよう」
「えっ! クレアちゃん!待っ…」
『bright!』
「ヒイィィ!!!」
炭坑の中が明かりで照らされた。
何だか凄い悲鳴が聞こえたけども…。
「よ、よかったぁ……」
イーノさんがヘナヘナとその場にへたり込んでしまった。
「え? え…?」
「長いこと入り口の塞がれていた炭坑には、可燃性ガスが溜まっている場合があります」
「???」
『ひをつけるとドカーン! たんこうくずれるー、ぜんめつー!』
「うわーーーーっ!!!」
私は、なんて恐ろしいことを!
「お、おわかりいただけた、だろうか…」
まだイーノさんは震えていました。
ごめんなさい…。
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通路は意外と広く、人が歩ける道と線路道が整備されていた。
「トロッコで せきたん や どしゃ をはこびだしていたみたいだね」
入り口付近の線路は先ほどの爆発で吹き飛んでグニャグニャに曲がってしまったけど、内部の線路はまだ普通に使うことができそうだ。
一本道をしばらく歩いていると、分岐路に出た。
看板に書いてある文字を読んでみると…
「さらに深層へ掘る道と…このまま掘削するルート…?」
「おそらく、じょうそうをほりつくして、しんそう に かくちょうしたんだとおもうよー」
『しんそうは、しんそうにー』
妖精さんに突っ込みたい気分になるのは、ロザリィさんの本能なのかしら…。
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「うーん、ここからさきは、だめだね」
深層に入りしばらく進むと、通路が水没したり天井が崩れている場所に出た。
「ここで爆薬を使うのは…?」
「たんこうくずれるー」
「理解しました…」
「まあ、ここからは、たんこうふのしごとだよ」
イーノさんが、俯いた私の肩をポンポンと叩く。
…ここまで来て諦める?
諦めてこの炭坑を脱出して、私はどこに逃げるの?
私はもう…
『大丈夫だから……』
またこの声だ…。
ロザリィさんとは違う不思議な声に後押しされた私は、再び顔を上げて前を向いた。
「ディギング!」
クリスくんの命を奪いそうになった呪いの魔法を放ち、正面の土砂が拡散され通路が広がる。
「レベリング!」
崩れそうな天井を補強し、私は一歩踏み出す。
私は……前に進むことにした。
「すごい…」
『わたしたちのじっけん、むだー?』
「ううん…。わたしたちのやっていることも、とてもたいせつだよ。むだなじっけんなんて、ないよ」
『そっか~』
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ひたすら地属性魔法を連射しながら突き進んだので、そろそろ魔力が底を尽きそう。
『普通の人間はそもそも連射出来ないんだからね?』
「うん、分かってる…」
崩落した通路を無理やりこじ開けながら進んでいるので、いつ何が起きるか分からない。
イーノさんと妖精さんには念のため分岐路近くで待機してもらい、私は独りで進んでいる。
「ディギング!」
「レベリング!」
何度このスキルを繰り返しただろうか…。
「ディギング!!」
そして魔力が尽きた。
「はぁ…はぁ…」
『今日はここまでね…。一旦戻りましょう』
「せめて…あの奥だけでも見てから…」
私が踏み出した先は、それまでとは雰囲気が違った。
異様に焦げ臭く、壁の色まで今までと違う…。
『ここで爆発事故があったみたいね…。恐らく、閉じ込められた人たちが逃げようとして 魔法を使ったのだと思うけど…』
ロザリィさんの言葉で、イーノさんがひどく怯えていた姿を思い出した。
幸いbrightの魔法は明るくなるだけの効果だったけど、もしも私が迂闊に火属性スキルを使っていたら同じ状況になっていたかもしれない。
ふつうの人なら恐ろしくてできないようなコトがこの場所で起こった。
閉じ込められた人たちは、どんな気持ちだったのだろう。
そう思うと…とても怖い。
さっきまで自分はどうしてあんなに勇ましく突き進めたのだろう…?
急に怖くなった私は、その場に蹲った。
「クリスくん…助けて…」
地面に手をつけた時に、何かが指に触れた。
「鎖…?」
持ち上げると、鎖の先には煤ぼけた丸い金属。
なんだろう、ネックレス…?
『これ2つに割れそうね』
「ロケットペンダント…?」
端っこの留め金をずらすと、中には写真が入っていた。
そこに写っていたのは楽しそうな3人の家族。
父親は逞しい腕で娘を抱き上げている。
母親はそれを見て微笑んでいる。
長い髪の娘は両手を広げて笑っている。
ずっと後ろには小さく見える大時計台。
写真の裏にはこの持ち主によって書かれた一文があった。
~記念すべき日の家族~
「アルフ」
「フィオル」
「クレア」




