060:爆破!
「ふむ……」
俺は父に、クレアがバレル炭坑に居るかもしれないという話を伝えた。
もちろんsilentwalkなどの妖精スキルの話は省き、家の裏口から誰にも見られないように出た、という設定で説明したのだけども。
「残念だが、その説を信じて捜索部隊を動かすのは難しいだろうな……」
まあ11歳の子供の出したトンデモ仮説だし、そりゃ仕方ないだろう。
「私に話したのは、行って良いのか伺いを立てるためだろう?」
「父さんっ!」
「自らの信念に従い行動する息子の邪魔などするものか。行ってこいクリス!」
「ありがとう!」
すぐに俺は3人の仲間と共に家を飛び出し、ホース・タンプ社に向かった。
会長に状況を説明したところ、早馬1頭と馬車1台は確保出来たので、俺が早馬に乗ることにした。
「それじゃ、俺が先にリースの町に向かうから、セフィルたち3人は馬車で追いかけてくれ」
「分かった。俺たちは1日遅れで到着するだろうから、もし先にバレル炭坑に向かうなら宿にそれを伝言しておいてくれ」
「ああ、それでよろしく!」
~~
リースの町からバレル炭坑までは馬車で約3時間。
かつてはこの炭坑そのものが大きな町だったため、他の地域に行くための中継地としても機能していたらしいけど、崩落してからは誰も住まなくなり、馬車も通らなくなったらしい。
盗賊が住み着かないように近隣の街から傭兵が派遣されているらしいけど、単に無人じゃないというだけで、そこに人々の暮らしは無いのです。
だんだん岩山が見えてきた。
あそこにパパとママが…。
遠くに見える土砂の山が…。
あれ? 何だろう? あれ???
何だか苦しい…!
………
……
…
『やっぱり人間は、とても弱い生き物だ……』
『さようなら、愛してるよ』
『この想いだけは、絶対に消させない!!』
…
……
………
「クレアちゃん! 気をしっかり!!」
気づいたらイーノさんが私の両肩を掴んで心配そうに見つめていた。
「あれ? 私は…?」
「いきなり悲鳴上げるんだもの……。辛かったら引き返しますけど、どうしますか?」
「悲鳴…? 私が…?」
私の答えを聞いて、青ざめるイーノさん。
「PTSD……? いえ、素人判断は危険ですね。引き返しましょう!」
「大丈夫です…」
「でも……」
「本当に大丈夫だから! だから、お願いしますっ!!」
私の目を見つめたまま真剣な顔のイーノさん。
「……わかりました。でも次にさっきみたいな事があったら、絶対に引き返しますからね?」
「はい…」
しばらく無言が続く。
「ところで…」
「?」
「イーノさん、いつもの喋り方ってやっぱり演技だったんですね…」
「うっ!」
ちょっと恥ずかしそうに下を向くイーノさん。
「貴女こそ、いつもの不思議ちゃんキャラは?」
「うっ!」
二人で顔を見合わせる。
「色々…ありますよね…」
「そうだねー。いろいろだねー」
二人は久しぶりにたくさん笑った。
・
・
「ここが…バレル炭坑…」
土砂崩れの痕もだけど、所々が黒く変色しているのが気になる…。
「あれは、ばくはじっけんのあとだねー」
『いっぱいしっぱいー』
なるほど、あれが成功すれば坑内に入れるのか…。
「あの…今回は成功しそうですか…?」
「クレアちゃんという、めがみさまがいるから、だいじょうぶ!」
『めがみさま~』
「私なんかが女神様だなんて…ラフィート様に怒られるよ…」
…あの方の場合、怒るどころか『私はそんなコト気にしませんよ~』とか言いかねないのだけど。
「でも、きょうはおそいので、いっぱくしてから、じっけんしまーす!」
『きょうのやどは、ちゅうとんちー』
ちゅうとんち、って何だろう???
・
・
なるほど、傭兵さん用の臨時の宿舎があるのですね。
「かよわいおんなのこふたりでのじゅくは、あぶないからねー」
『え、女の子って誰が?』
私の口からとんでもない台詞が!
ロザリィさん、それはいけないっ!!
「言いたい事があるならハッキリとお姉さんに言ってごらんなさい?」
「いきなり素に戻らないでくださいっ! あと、今のは私じゃないですっ!!」
この人に年齢の話は御法度だと、今度クリスくんにも忠告しておこう…。
・
・
次の日。
雲一つ無い晴天! まさに夏の青空です。
「じっけんびよりだねー」
『はればれー!』
イーノさんと妖精さんも元気です。
「私もお手伝いしますので…よろしくお願いします…」
そして実験準備が始まりました。
バレル炭坑の入り口に、何だか粘土みたいなものを置いていくのですが、ちゃんと決まりごとがあるそうで、イーノさんの指示に従って置いていきます。
「しんかんのつくりかたがわからなくて、まほうきばくしきになっちゃった」
神官の作り方って何だろう…?
『わたしがまほうで、どかーんってやるよ!』
妖精さんが空中で両手を前に突き出すポーズをしている。
なるほど、魔法起爆式か。
話をまとめると、この粘土みたいな塊に何かを付け足したかったけど、それが出来なかったので、魔法を使って爆発させる、みたいな感じだと思う。
「『できたー!』」
イーノさんと妖精さんが両手を挙げて喜ぶ。
私は、嬉しさよりも緊張の方が大きいかな…。
「じゃあみんな、はなれてー」
『ばくはつするよー』
3人でかなり遠くまで離れると、イーノさんが妖精さんに指示を始めた。
「いっくよー!」
『ライトニングボルト!』
妖精さんの手から放たれた電撃がまっすぐ炭坑に吸い込まれ…その直後、凄まじい地震が起きたかと思ったら、土砂が空高く吹き上がった!
「うわヤバっ! どうしてこんなに威力が…!?」
イーノさんの喋り方が素に戻っていることから察するに、かなり大変な状況なのは間違いなさそうだ。
うーん、念のため…
「extra protection!」
私たちの頭上に虹色の壁が広がる。
「おぉー、すごーい」
『おぉー、きれーい』
「いや、妖精ちゃんは驚いちゃダメだからね!?」
などと言っている最中に、頭上でドカン!と大きな音がした。
上を見上げると、巨大な岩が虹色の壁の上で砕けていた。
「もしコレを…使って無かったら…」
「あのいわが……」
『わたしたち、ぺっちゃんこー』
ひえええ、用心しておいて良かったよー…。




