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057:プレゼント

「一体、"私"とは何者なのだろう?」


 今まで何となく考えないようにして生きてきたけど、最近はこればかり考えている。


「渡り人クリスの監視役」


 これはロザリィさんから託された仕事だ。

 仕事が「私」というのはどうかと思う。


「渡り人クリスの恋人」


 実はどちらかが告白したわけではなく、私から一方的に好意を寄せているだけ。

 ロザリィさんの記憶を経由して、私のコトを好きだと言ってくれたことは知っているけど、実は直接言われたことはまだ無い。

 果たして、これは恋人だと言えるのだろうか?


「渡り人クリスの足枷あしかせ


 正直、これが一番しっくり来ている。

 別の世界からやってきて、この世界で羽ばたこうとするクリスくんの足にしがみついて、飛べないように縛り付けているのは事実だ。


「もしも病気が治ったら、一生かけてこの恩を返そう」


 私はかつてそう誓ったはずなのに、恩返しなんて全く出来ていない。

 それどころか、彼に命を助けてもらっておきながら、自分の身勝手で彼を見殺しにしようとした。


 果たして、そんな自分が側に居ても良いのだろうか?



『この件について、私からは口出しする気は無いわ。しっかり悩んで、自ら結論を出しなさい。でも、リソースが減少するような考えをするようだったら本気で怒るからね』


「そんなコトは考えないよ…」


 それっきりロザリィさんはずっと黙ったまま。

 つまりロザリィさんは「自力で生きるための答えを探せ」と言っているのだ。


 本当にそんなものが見つけられるのだろうか…?


 もしかしてこんなコトに悩んでいるのは自分だけなのだろうか…?



「でも、さっきは助けてくれて……。ありがとう、ございます。クリス……さん」



 教室でクリスくんに助けてもらった時のメルフィちゃんの表情で確信した。

 あれは、私がクリスくんに対して抱いている感情と同じものだ。


 クリスくんは「やたらメルフィに目を逸らされるんだけど、俺なにか嫌われることやったのかなぁ」みたいな勘違いをしていたけど、あれはどう考えても、恥ずかしくて目を合わせられないだけだと思う。


 なんと言っても、メルフィちゃんにとってクリスくんは、自らの命も省みず助けてくれた命の恩人なのだ。

 ここ数日で兄への想いに踏ん切りがついた様子だったし、このままクリスくんへの恋愛感情に変わるのも時間の問題だろう。


 以前の私なら、それに気づくや否や全力で妨害したに違いない。


 なんて最悪な女だ……。



~~



「第1回、どうにかしてクレアを元気にしよう会議~!」


 司会進行はセフィル。

 メンバーは俺、エマ、メルフィの計4名だ。


「……んで、どうするかね?」


「司会のセフィルくんがいきなり丸投げしちゃダメだよっ!」


 いきなり夫婦漫才が始まってしまった。


「うぅ、わたしのせいで……」


 隣の席でメルフィがシュンとしている。


「まあ過ぎたことは仕方ないさ。今はどうにか慰める方法を考えないとイカンのだけど、全く思いつかなくてさ…」


 それにしても、元30代後半の大人が、自分の3分の1以下の年齢の子供に恋愛相談とか、情けなくて涙が出そうだ……。


「定番のデートは?」

「誘ったけど断られた」


 セフィル撃沈。


「ふたりきりの時間をつくる!」

「ほぼ相づちと無言のまま2時間だったよ…」


 エマ撃沈。


「きせいじじつを!」

「君、それ意味分かってないでしょ?」


 メルフィ撃沈。


 皆で色んなアイデアを出し合うけど、どうにもまとまらない。


「はっ!!?」


 何かにセフィルが気づいたらしい。


「クリス、お前は人の恋愛には的確なアドバイスが出来るのに、自分の時は全く駄目だな!」

「うっ!」


 ぐうの音も出ない。


「前に俺が委員長にフラれた時に出したアイデアを思い出せ!」

「アイデア?」


「プ、レ、ゼ、ン、ト、だよ! 確か入院中のクレアに髪飾りをプレゼントしたとか言ってただろ? それだよそれ!」

「ふたりの思い出! ステキだねっ!」


 なるほど、一理あるな。


「んじゃ、久しぶりに可憐庭かれんていに顔出してみるかなぁ」

「可憐庭???」


 メルフィが首を傾げている。


「ああ、俺たちがよく使っているお店でな。いわゆる雑貨屋さんというヤツだ」


「雑貨屋さん! 本で読んだことがあります! 行ってみたいです!」


「王族なだけあって、雑貨屋なんて行くこと無いだろうしなぁ」


 俺の言葉にセフィルもウンウンと頷いている。


「そもそも行商が売りに来るし、衣装は全て家来が用意するからな。成人前の王子や王女が自分で考えて何かを購入するなんてコトは、まずあり得ないんだよ」



 俺たちは久しぶりに可憐庭にやってきた!


「いらっしゃいませぇ~。こんにちはクリスくん~……ふぅ」


 いつも通り店長さんが出てきた…けど…。


「あの、店長さん…妙にやつれてません? どこか悪いんですか?」


「う、ううんっ。ちょっと最近お仕事が忙しくてね~。お客さんから心配されるようじゃダメねぇ…」


 商売繁盛なのは良いことだけど、あまり働き過ぎるのは良くないなぁ。

 まあ過労死した俺が人のことを言えないんだけどさ。


「はあああぁ……! すごいぃぃ……!」


 そんな労働問題なんてつゆ知らず、メルフィの喜びっぷりが凄い。

 お年頃の女の子、それも雑貨店に人生初来店と来たもんだ。


「クレアちゃん以外の女の子を連れてくるなんて、君も罪な男ねぇ」


「今はそれ結構デリケートな話題なんで勘弁してください……」


「あら? クレアちゃんとケンカしたの?」


「そういうわけでは無いんですけどねぇ」


 どうやって説明したものやら……。


「この店に初めて来た時に買ったヤツに似てる髪飾りってありますかね?」


「うーん。似てるのなら……」


 そう言って店長さんが持ってきたのは、俺の指定したものと瓜二つの形で、色と装飾石が異なるタイプだった。


「前回は黒いリボンに青い石だったけど、今度のは水色のリボンに黒い石ね」


 一瞬エレメントサーチで石を鑑定しようかと思ったけど、店長さんが驚きそうだし、クレアに怒られた記憶が蘇ってきたのでやっぱりやめた。


「じゃあ、それをプレゼント用に包んで……」


 と喋っていたら、カウンターの上に小さな手が乗った。


「これ、いくらですか……?」


 メルフィが持ってきたのは、人工石の付いた安物の指輪だった。

 こんなもの買わなくても、将来的には何万倍も高価な指輪が手に入る身分なのだけどなぁ。


「うーん、コレ意外と高くてねぇ。4万ボニーだけど、お嬢ちゃん払える?」

「はうっ!」


 払えないらしい。

 そもそも、食事代が払えなくて困っていたのを俺が助けたのだから、所持金は限りなくゼロに近いだろう。


「ったく……。それもプレゼント用に包んでください」


「あら~、キミもやるわねぇ~」


「からかわないでくださいよ……」


 ため息を吐く俺の横で、メルフィが不思議そうな顔をしている。

 指輪から先に包み終わったらしく、それを先に受け取ると、そのままメルフィに手渡した。


「はい、お姫様に献上品だよ」

「???」


「指輪欲しかったんだろ?」

「わ、わたしのために???」


「そりゃそうだろう……」

「わーいっ! クリスさん大好き~っ」


 俺からラッピングされた袋を受け取ってピョンピョン跳ねて喜ぶメルフィ。

 クレアにもこのくらい喜んでもらえたら良いんだけどなぁ。


支出

 おもちゃの指輪40,000ボニー×1個

 綺麗な髪飾り50,000ボニー×1個

[現在の所持金 2,097,152ボニー]

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