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053:リトルシスタープリンセス

「じゃあ…私たちはそろそろ…」


「お? そうするかなー」


 にーちゃんとラフ…じゃなかった、フィーネさんの二人の関係が少し気になったけど、クレアに促されて俺も立ち上がった。


『それでは、またお会いしましょう』

「二人とも、またなーっ」


 見送られながら俺達はオープンテラスを後にした。



「ビックリだね…」


「まさか再び会うことになるなんてなぁ」


 俺がそう言うとクレアは首を左右に振った。


『この男が気づくわけないでしょうに……』


「ロザリィまで何だよー。分かるように言えよー」


 クレアが少し考えるような仕草をした後、口を開いた。


「フィーネさんは…カトリさんのコトが…好き…」


「まあ、わざわざ貴重な休みを使ってまでデートするくらいだし、少しはそういう感情はあるだろうけど……」


 クレアは再び首をフルフル。


「少しじゃなくて…あの顔は…本気」


 クレアの言葉に俺も息を飲んだ。


「マジ……か……?」

「マジ…」


「相手は人間だぞ?」

「凄いね…」


 うわーーーー! これは本当に凄いぞ!


 例えるなら、造型師が自分の作ったフィギュアを気に入りすぎて恋愛感情を抱くようなものだ。

 フィギュアと違って、姿形が似ていて意志疎通も出来るのだから、一概に同じとは言えないのだけど。


「にーちゃん、散々モテないとか言ってたくせに、まさか世界最強の相手から好かれるとはなぁ」


『あのデレっぷりを見る限り心配ないと思うけど、破局したり、あの男が浮気でもしようものなら……』


「世界が…終わる…」


 ……何だか"悪意"以上の脅威が誕生した瞬間を目の当たりにしてしまった気がするけど、気を取り直して俺たちもデート再開しようっ。


 そう思い立ったその時!



「ハアァ!? カネ持ってねえだと!!?」



 何だか凄いデジャヴを感じる声が聞こえた。


 クレアも全く同じことを思っているのか、嫌そうな顔をしている。

 声をした方を見ると、長い金髪の女の子が店主と言い争いをしていた。

 俺たちより少し年下くらいだろうか……?


「このわたしに対して無礼な……! って、あの! 引っ張らないでっ」


 女の子は腕を捕まれて引きずられていく。

 この光景も何だか見覚えがあるなぁ。


「……なあ?」


「うん…」


「アレ、助けないと駄目かな……?」


『うーん……』


 結局、今回も俺が代わりに支払いました。



「本当にありがとうございました」


 確かセフィルの時は、助けた後も罵詈雑言を撒き散らして騒いでいたけど、この子はそこまで非常識ではないようだ。


「このお礼は必ず……」


「いやいや、気にしなくていいって」


 俺がやり取りをしている横でクレアがジーッと俺を見ている。


「前は…食事代の返済を求めたのに…女の子相手だと求めない」


「見るからに年下の子に、そこまで要求できないって」


 でも正直な話、女の子相手だからというのも理由の一つではある。

 それを言うとクレアが不機嫌になるから、口が裂けても言えないけど。


「申し遅れましたが、わたしの名前はメルフィといいます」


「あ、俺はクリスだよ」

「私は…クレア…」


 こんな感じで簡単な自己紹介を済ませると、俺は本題に入ることにした。


「ところで君、見ない顔だけどお父さんお母さんは近くに居ないのかい?」


 メルフィは一瞬考えるようなそぶりをして……


「父母はいません」


 ずおおおおお…!!

 まさか俺はまた地雷を踏んだのか…?


 確かに前の世界でも医療技術が未熟な頃は人がバンバン死んでたらしいし、七五三だって、その年齢までに死ぬ可能性が高かったからこそ作られた文化らしいけど、世知辛すぎておじさん困っちゃうよ!


 そんなコトを考えている俺の表情から考えを察したのか、女の子がアワアワし始めた。


「あっ! 違います! 両親共に存命です! この近くに居ないだけです!」

「あー、良かった…」


 隣のクレアが「しょーがないなぁ」みたいな顔をしているのが気になるけど、地雷を踏んだわけじゃなくて安心した。


「でも、君みたいな小さな子が一人で遠出はちょっと危ないと思うんだけど…」


「人を探しているのです。神都ポートリアに暮らしているとお聞きしまして、馬車を乗り継いでここまで来ました」


 んんんん? このパターン、前も見た気がするぞ???


「探している人って、リュータスって名前かな?」

「誰ですかそれ?」


 パターン変わりましたー!


「セフィルという名前の人なのですけど……」


 あー、そっちかー、そっちのパターンかーー。



 恐らく、この子はセフィルの妹だと思う。


 前に王都で夜中にセフィルと語り合った時に話題に出た通りの容姿だし、8歳にしては妙に発育が良い気はするけど、この年齢の子は男子よりも成長が早かったりするもんだ。


 ただ、一番問題なのは「王女様が独りでこんな田舎町に来ている」という事実だ。


 いきなりこの子の正体を見破ると警戒して逃げられるかもしれないし、ここに来た理由がセフィルのように事件性の強いものだったりすると、見失った隙に誘拐される危険性もある。

 となると、正体に気づいていないふりをしてセフィルのところまで誘導するのが無難だな。


「今頃セフィルは店番の手伝いしてるだろうから、連れて行ってあげるよ」


「店番???」


 いつもは土曜日に俺がリカナ商会で働いているのだけど、最近はちょくちょくセフィルに代わってもらっていたりする。

 厳密には「セフィルがふと5000万ボニーの借金を思い出して、働かないとやってられない気分になった時」に交代しているのだけど、一国の王子らしからぬ理由に、不憫過ぎて涙が出そうだ。


「ほら、あそこだよ。おーい! セフィルー!」


 俺が指を差した先には、リカナ商会の玄関で荷物を運んでいるセフィルの姿。

 こちらに気づいたセフィルが一瞬笑顔になったと思いきや、即座に焦りの表情に変わる。


「スピードアシスト! サンダーブレード!!」


 いきなりスキル全開で店の外にセフィルが飛び出した!

 え、何っ? 何なの???

 困惑する俺とクレアをよそに、セフィルとメルフィが対峙する。


「お久しぶりですわ、お兄さま」


「ああ、元気そうで何よりだ」


 そう言った瞬間、メルフィがセフィルに飛びかかり、空中でスキルを発動させた。


「グラビティ!」


 メルフィの拳に黒いもやのようなものがまとわれ、そのままセフィルのサンダーブレードにめり込む!


「ぐっ!!」


 その状態からメルフィを突き飛ばしたセフィルは、そのまま地面を蹴ってサンダーブレードを横凪に払ったが、黒い拳に受け止められた。


「さすがはお兄さまです」


 どこかで聞いた台詞だが、たぶん兄妹喧嘩で使う言葉ではなかったと思う。

 って、そうじゃない!


「ちょっと待てお前ら! こんなところで暴れたら迷惑だろうが! なんでいきなりバトルアニメみたいな展開になってんだ! 」


「「バトルアニメ???」」


 兄妹が同時に反応したのが面白いけど、今はそれどころじゃない。

 とりあえず通行人の皆様には何故か俺が平謝りして、事なきを得た。



 リカナ商会の受付カウンターには奥さんに出てもらい、俺たちは応接室に集まった。


「改めまして皆様へ御挨拶を。第三王子セフィルの妹、第二王女メルフィと申します」


 セフィルの妹で第二王女ということは、この国は女性に王位継承権が無いようだ。

 だからこそ、俺たちが王都滞在中に王妃と共に隣国に向かっていたのだろうけど。


 それにしても、神都ポートリアは片田舎の港町でありながら、王子、王女、異世界人、妖精、さらには女神様まで大集合という凄い状況になっているのか…。


 ここまで来れば、魔王軍幹部なポンコツ店主が身を潜めて暮らしていても驚かない自信がある。


「俺とクレアはさっき自己紹介した通りだ。改めてよろしく」


「私はエマって言います。メルフィ…ちゃん、って呼んでいいのかなぁ?」


「本当は駄目だとは思うのですが…。身分を明かすわけにはいきませんし、ひとまずはその呼び方でお願いします」


 この微妙な言い回しから察するに「お前たちみたいな下民に名前を呼ばれるのは不本意ですが、仕方ありませんね」的なニュアンスのようだ。


 セフィルもそれに気づいており、ジェスチャーで「ごめんっ!」のポーズをしているのだけど、そもそも俺たちとセフィルの関係が特殊なだけであって、本来は庶民がメルフィをどう呼ぶかなんて悩むことすらありえない話だから当然だ。


 王族はこの国において絶対的な存在であり、俺たち平民はその使い捨ての駒であるのが普通なのだ。

 以前、そのことをセフィルに指摘したことがあるのだけど……


「王族の身分の上に作られた薄っぺらい人間関係に比べて、今この街でセフィルとして生き、それでつちかった繋がりそのものが俺にとって宝物だからな。せっかくお宝を手に入れたのに手放すバカは居ないだろ?」


 ……だそうで。


 食い逃げで捕まった挙げ句、店をぶっ潰してやると言って逆ギレしていた頃を考えると、信じられないくらい人間的に成長したなぁ。

 それに、この考え方は商売人としてとても大事なコトだったりする。


 ちょっとリカナ商会の店先に立たせるだけで仕事をマスターしてしまう器用さなどを考えると、きっとセフィルの天職は「商人」なのだと思う。

 残念ながら第三王子という立場がその生き方を許してくれないだろうけど、もしもこの国に経済産業大臣という役職が生まれた時は、セフィルがそれを担うことを期待したい。


 まあ、そんなコトを面と向かって伝えるのは恥ずかしいし、とても言えないのだけどね。


「んで、メルフィが一人でここまで来たのにも驚いたけど、そもそもどうやって城を抜け出したんだよ?」


 セフィルがいぶかしげな顔でメルフィに尋ねるとニッコリと笑顔で……


「優しい門番さんが通してくれました」


 俺とセフィルが顔を見合わせる。


「そんな馬鹿なっ。いくらなんでも……」


「優しかったので無抵抗でしたわ」


 メルフィの言葉を聞いて、セフィルが苦虫を噛み潰したような顔に。



 何だか嫌な予感がする……。

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