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051:危機からの脱出!

「なんですって!!」

「ひぃっ」


 バンッと机を叩いた音に、侍女が怯える。


「お兄さまは既にこの城には居ないと、そう仰るのですね?」


「は、はいっ! 国王様曰く、王子は……人ならざる悪を倒すため、自分と同じ正義の心を持つ仲間と共に行く! と言い残して出て行ってしまったそうで…」


「そうですか……」


 少し冷静になってきたわたくしは椅子に腰を下ろし、考える。


「お兄さまの向かった先はご存じで?」


「大陸西部の神都ポートリアという港町のようです。どうしてあんな遠方に向かったのかまでは……」


 それを聞いたわたくしは、椅子で足を組みながら目をつぶった。


 さて、どうしましょうか……。



~~



 今日も、午後の魔法実習の時間がやってきた!

 俺とセフィルが固唾かたづを飲んで見守っている目線の先には、クレアとエマの姿。


「ホーリーシールド!」

「サンドブラスト!」


 エマの放ったサンドブラストは全てクレアのホーリーシールドに受け止められた。

 空中で静止した砂粒をクレアが人差し指と親指で摘まんでチェック…。


「うん…大丈夫だと思う。クリスくんのと…ほぼ同じ」


 クレアの言葉を聞いて、エマが飛び上がって喜ぶ。


「やった! できた! できたよ! うわーーーーんっ!」


 エマが嬉し泣きをする姿を見て、周りの生徒たちも微笑んでいる。

 セフィルは俺たちに背中を向けているけど、ありゃ絶対泣いてるなー。


 端から見ると、魔法が不得意な女の子が一生懸命練習して、ついに成功したように見えるのだけど、その実は真逆。

 エマは例の事件のせいで、魔法の威力が常人の16倍以上になってしまったため、手加減無しでぶっ放すと災害レベルの被害が出てしまうのだ。


 威力が16倍だと困るのなら、魔力を16分の1に絞って出せば等倍……と思ってしまうのだけど、実はコレがとんでもなく難しいらしい。

 ロザリィ曰く「巨大なタライに水を満タンに入れて、そこからコップ1杯だけぐのをイメージして頂戴」だそうで、その例を聞いて納得できた。


 クレアは何の苦労もせずに魔法を自由に使っているように見えるのだが、実はロザリィがその辺の調整を的確にコントロールしているらしく『感謝しなさいよね!』とか言ってて、正直ウザかった。


 どちらにせよ、エマは自らの力で一歩を踏み出すことに成功したのだ。

 心から祝福してあげたい。



 だが、女子ふたりが一生懸命に努力している中、俺とセフィルは指をくわえて見ていたわけではない。

 俺たちの努力の結晶をとくと見よ!!



~クリスのターン~



 俺が新たに習得した魔法は「スワンピング」と「ファーティライザー」の2種。


 前者は追っ手を振り切るために地面を沼化する刺客用スキル。

 後者は畑に使うと収穫量が増えたり野菜が大きくなったりする、ラジオCMでよく耳にしていたHBホニャララみたいな効果が得られる農家用スキルだ。


 どうして刺客用スキルと農家用スキルを同時に取得するんだ? と、先生たちは俺が奇行に走ったのではないかと心配していたが、これには深い理由わけがあるのだ。


「というわけで、完成品がコチラです」


 そう言いながら、俺は泥の入ったガラス瓶をテーブルに置いた。


『なにこれ?』


「泥パックだ」


『……は?』


 スワンピングで生成した泥がやたら目が細かく手触りも良かったので、もしや…と思って実験的に作ってみたのがコレ。

 野菜が大きくなるのだから、健康にも良いんじゃね? くらい安直な考えでファーティライザーで土質をいじってみたところ、意外と良い感じの仕上がりになった。


 完成したブツを見た「ゆるふわウェーブ先生」が真っ先にその有用性に気づいてくれたのでサンプル品を提供したところ、正直引くほど喜んでいた。


 メディラ病院の看護師おねえさんやメイドのシーナさんなどで人体実験……もとい、ご協力を頂いた結果、お肌のケアや保湿効果もバッチリ確認できたので、今は可憐庭かれんていとリカナ商会に並べてもらうよう目下もっか交渉中である。


 ちなみに原価はビン代だけなのでせいぜい7,000ボニー程度。

 販売価格は5万ボニーくらいを想定しているので原価14%だ。


 ボッタクリ? いえいえ、こんなの前の世界の美容化粧品のヤバイ利益率に比べれば、足下にも及びませんよ。


『アンタ、働きたくないでござる~とか言ってたくせに、根っからの商売人ね…』



~セフィルのターン~



「戦闘用スキルこそ至高である!」


「お~~~、ぱちぱち~」


 俺は商売人のサガでついついネタに走ってしまうけど、やはりド派手な技は雷属性のセフィルに軍配が上がる。


「我が力よ、雷となりて……」


 セフィルが詠唱を始めると同時に、周囲にコロナ放電のような光が散って超カッコイイ。


 他の雷属性の生徒たちはカッコイイと言う程の放電は起こらず、地下牢の戦いではセフィルのサンダーブレードがネブラの魔力4倍ホーリーシールドすら破ってしまったと考えると、そもそもセフィルの魔力量が常人とは比べものにならない程に桁違いなんだろう。


 そんなコトを考えているうちに詠唱が終わったようだ。


「いくぜっ、サンダーケージ!!」


 けーじって何だっけ? …と思った瞬間、俺とクレアの周りを囲むように雷のおりが現れた。


「うおっ、ビックリしたっ! なるほど、鳥カゴのケージかー」


 指先で少し触れるだけでもピリピリと痛いので、これを抜けるのは難しいだろう。

 アクションゲームでよくある「電気がビリビリしてる通行禁止バリケード」みたいな見た目もなかなか良い。

 逃げようとする敵をこれで拘束出来るし、実用面でも問題無い。


「さすがセフィル、カッコいいスキルを選ぶセンスはピカイチだな!」


 俺の感想を聞いて、得意げに鼻を擦るセフィル。

 しかし、そんな感じで盛り上がっている俺の横でクレアが呆然としていることに気づいた。


「どうしたんだ?」


「クリスくん…この檻…出られない…」


 ……え?


「サンダーケージには…解除方法が無いの…」


 その言葉を聞いてバッとセフィルの方を見るが「ははは……」と言いながら苦笑い。


「えーっと、ホーリーシールドで檻ごと吹っ飛ばしたり……」


「私一人なら出来るけど…でも全力を出すと…クリスくん死んじゃう」


 以前、ロザリィの一撃でセフィルが宙を舞った姿が頭に浮かぶ……。

 この檻の中だと、ホーリーシールド+サンダーケージに挟まれて、ゆで卵カッターのように……ヒェッ!


「地下牢で使ったエクストラなんちゃらは?」


『こんだけ人がたくさん居るのに使えるワケないでしょ。めっちゃ虹色に輝きながら私とアンタがサンダーケージを突き破って出てきたら大騒ぎよ』


 ダメだこりゃ。


「セフィルくん、これってどのくらい経つと消えるの…?」


 心配そうなエマに対して、セフィルはばつが悪そうに…


「ご、5時間……」

「持続時間、長っ!!!」


「そもそも…逃げる相手を拘束するためのスキル…。そんなにすぐ切れたら…困る」


 ですよねー…。

 というわけで、俺とクレアは見世物小屋の珍獣状態のまま5時間過ごすことになった。



~1時間経過~


『ここから出たら、アンタ覚悟しときなさいよ…』


「セフィル! 今すぐ遠くへ逃げるんだ!!」



~2時間経過~


「ビリビリの隙間に指をこうやって入れて…ウルトラ電流イライラ棒~…」


「クリスくんの言ってることが…わからない」


 空中放電と違って、導体に誘導する特性は無いみたいだ。



~3時間経過~


 だんだんクレアの顔色がおかしくなってきた。


「まさか……」


「おし………なんでもない…」


 お花摘みですね! わかりますん!


「どどどどどど、どうしよう……!!」


 クレアの表情を見る限り、ここから2時間も我慢できるとは思えない。


 俺は大慌てで「よい子の魔法(教科書)」を開いて、地属性で何か良さそうなものが無いか探す。

 ディ……これだ!


 今まで1回も使ったコトが無い魔法をぶっつけ本番で挑むのはかなり危険だが、背に腹は代えられない。

 ぐったりとしたクレアをお姫様抱っこで抱え、スキルを発動させた。


「ディギング!!」


 スキル発動と同時に発生する浮遊感。


 二人の足下がポッカリ空洞になり、掘った土がケージの外側に移動した。

 これ上手く利用すればケージを突破して物を渡したり出来そうだなー。


「くぁwせdrftgyふじこlp;@:!!!」


 クレアが謎の叫び声を上げたものの、どうにか80cmほど落下して着地成功。

 でも、着地の衝撃で脚と腕がめっちゃ痛い!!

 この浅さでこんなに痛いなんて、ラナを抱っこしたまま着地するあのシーンの再現は絶対無理だと思う。


 クレアの顔を見ると、真っ赤にしたままこっちを見つめていた。


「……ちょっと出…ううん、なんでもない」


 今、何だか危険な発言が聞こえた気がするけど、きっと気のせい!

 ここから選択肢は2つ。


 1.さらに横穴を掘り進め、サンダーケージの下を抜けて脱出する。


 2.今この場で出せと指示する。


 ……無いわー! 2だけは無いわー! そもそも何を出せというのか!?

 と、頭の中でツッコミながら横穴を掘るためにディギングを使うと…


「地中にまで攻撃判定あるのかよ…」


 地面の中までビリビリしていた。



~4時間経過~

 

「私…ここを出たら…クリスくんと結婚するんだ…」


「今、なんで死亡フラグを立てた!?」


 あまりのお花摘み欲求に耐えられなくなったクレアが危険行動に走るのも時間の問題だろう。

 どうすればいい…どうすれば…!


「クリスくんっ!!」


 エマが真剣な目でこちらを見つめている。


「うまくいくかは分からないけど……!」


 そして詠唱を始めると同時に、周りの木々から危機を察知した野鳥が一斉に飛び立つ。

 一体、何を……?



「アースクエイク!!」



 エマの凜とした声が響いた瞬間、凄まじい揺れとともに足下で地割れが起こり、サンダーケージの檻の幅が広がった。


「クリスくん、今だよっ!!」

「うおおおおおおっ!!」


 エマの掛け声と同時に、俺は火事場の馬鹿力でクレアを投げ飛ばした。


「ひゃああぁああぁっ!!!」


 ズザーーーッと地面に滑走しながらも、ついにクレアがサンダーケージを突破した!


「ひーんっ!!」


 擦り剥いた膝にヒールをかけながら、一目散にお花摘みに向かうクレアを見て一安心。


 すぐにサンダーケージのビリビリが等間隔に戻ってしまって俺は抜けられなかったけど、男の子の雉撃きじうちは長時間我慢出来るから大丈夫なのだ。



 その後、マウントポジションでセフィルを殴打するクレアの姿が目撃されることになるのだが、それはまた別のお話。

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