050:セフィルの日常
今、わたくしはすごくワクワクしている!
お母様から「結婚相手に会いに行く」と言われた時は、この世の終わりかと思うほど落ち込んで、思わず通りすがりの大臣に「消えろクソぼっち野郎!」と暴言を吐いてしまったけど、その大臣が本当に失脚してしまったらしい。
おかげでこの旅も取りやめになり、今はとても嬉しい気分で帰路についている。
しかも側近曰く、城にお兄様が帰ってきたとのこと!
前回お会いした時なんて、旅から帰ってきたと思いきや、夜中のうちに失踪!
結局、1年以上もお話が出来ていないので、さすがにそろそろ我慢の限界だ。
「お兄さま、待っていてくださいね!」
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「へっくしっ!」
セフィルがなかなかダイナミックなクシャミをかまして、指で鼻を擦っている。
「セフィルくん、風邪ですか?」
「いんや、誰か噂でもしてるんじゃねー?」
なんとこの世界にまでその迷信が…! というか、それ伝来させたの絶対、日本人の渡り人だろ……。
この世界の人々の吸収の良さといい、前の世界の奴らの侵食性の高さといい、色々考えさせられてしまうなぁ。
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学校に着いてすぐに、セフィルとエマは二人で花壇に向かっていった。
クレア以外の3人は同じクラスなのだけど、どうやら俺が癒しを求めた日に、エマが「森の主がやるアレ(魔法の名前忘れた)」を全力で発動させて、花壇全体とグラウンドの一部をヒマワリ畑にしてしまったため、その罰として水やりを毎朝しているらしい。
セフィルは嫌がるかと思っていたのだけど、エマと二人きりでイチャイチャ出来るのが嬉しいらしく、毎朝幸せそうだ。
「クリスくん…それじゃ…また後でね」
2つ隣の教室のクレアとはここでお別れ。
俺は一人で自分の教室に向かった。
「おっす、おはよう!」
「おはよー!」
「おいっすー!」
俺は教室に入って、友人連中と挨拶を交わす。
「いやあ、今朝もあの二人はラブラブだねー!」
女子たちの目線の先には例のヒマワリ畑。
いやはや、見せつけてくれるねぇ。
………
……
…
王都での事件の後、エマの自宅は調査のため立ち入り禁止になった。
当然ながらクラスメイトたちもそれを知り、その流れからエマの父が事件の首謀者であるという情報も拡散していった。
エマが実験の被害者であり、体内に15人分のリソースが格納されている…といった真相までは出回らなかったものの「重罪人の娘」というレッテルは、噂に尾ひれ羽ひれを付けるには十分過ぎる理由だった。
- 実は加害者だけど子供だから見逃してもらえた。
- 実は学校に通っていたのは実験台を探すため。
- 実はこの学校にも誘拐された被害者が居る。
しかし、そのコトに気づいたエコール校長が全校生徒を集めて、次のように生徒たちに告げたのだ。
「あの子がどんな人間なのかを知っている人は、あなたとどんな風に接してきたのかを思い出してみなさい。それでも罵りたい人はそうしなさい。しかし、学年もクラスも違う、一言も話したことのない、見ず知らずのあなたは、彼女を責める資格はありません。まずは、彼女を責めてしまった自らの心を責めなさい」
もちろん全ての生徒が改心するわけは無いけど、この言葉はクラスメイトたちの目を覚ますには十分だった。
余談だが、初日にセフィルが「もし委員長を悪く言うヤツが居たらぶっ飛ばしてやる!」とか言いながら教室に入ったのに、エマに向かって泣きながら抱きついてきた女生徒たちにセフィル自身がぶっ飛ばされていて、男子たちに笑われていた。
…
……
………
「おっす」
「おはよっ!」
朝の予鈴ギリギリにセフィルとエマが入ってきた。
「王子様はお姫様と重役出勤かい? ゲヘヘヘー」
「うっせ、不敬罪で死刑にすんぞっ!」
「うわー、こえ~」
悪友たちとセフィルの漫才も風物詩になりつつある。
もしも国王や王族たちにこんな姿が見られようものなら大騒ぎになりそうだが、幸いここは王都から遠く離れた海沿いの田舎街。
かつてワガママ王子と呼ばれ疎まれた男の子は今、充実した毎日を過ごしている。




