047:ラブレター その2
『silentwalk!』
ロザリィのスキルで気配を消した俺たちは、父の部屋の前までやってきた。
ここの廊下は見通しがよく、ピンポンダッシュをしようにも、子供の足では逃げ切る前に姿を見られてしまう。
いくらsilentwalkで気配や声を消せると言っても、直接見られてはスキル効果が失われてしまうので意味が無いのだ。
都合良く通路に段ボールが落ちていれば良いのだけど、そもそもこの世界に段ボールは無い。
だが、俺たちはこの問題を解決できる手段を持っている。
ドアの隙間に手紙を差し込んでから、ノックを3回!
ちなみにノック4回は礼儀を重んじる場用だけど日本ではマイナー! ノック2回はトイレ用!
面接会場でうっかり2回やらないように、よい子は気をつけろよ!
「任せたぞ二人とも!」
『「スピードアシスト!」』
ロザリィとセフィルのスキルが発動し、それぞれが一人ずつお姫様抱っこで相方を抱えて逃げれば良い!
それはつまり……!
「ちょっと怖いかもしれないけど、しっかり掴まってろよ!」
「うん!」
ラブラブな王子とお姫様。
「ちょっと怖いかもしれないけど…しっかり掴まっててね…」
「………」
女の子にお姫様抱っこされる俺。
あ、コレ思ったよりも精神的に辛いわ…………
・
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「さて、これで無事にリュータスに手紙が渡ったな」
俺の精神的ダメージを考慮すると、無事とは言い難い状況なのだけど、ひとまずミッションクリアだ。
『後は大聖堂で結末を見届けるだけね!』
「本当に見ちゃって良いのかなー…」
エマは困ったような顔をしているものの、その表情からは好奇心が溢れんばかりだ。
お年頃の女の子として、この結末は気になること、この上ないだろう。
「よし、それでは俺たちも大聖堂に行くぞ!」
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王都大聖堂は、かつての国王イサラータ1世が創造神ラフィートを崇めるために建造した、この国最大の教会だ。
最大と言うことは礼拝に来る人も多いわけで……
「めっちゃ人が居るんだけど…」
『まさか、この人混みの中で大々的に告白するつもりなの…? それで既成事実を作って逃げられなくしようって魂胆なら、相当な悪女ね…』
俺たちは途方に暮れながらも、大聖堂の隅っこで待つことにした。
そして丁度、夕方5時に二人の姿が現れた……
「父さん…」
「目の前に居る方が…お義母さん…」
「クレアァァ…」
「冗談…冗談」
全く冗談に聞こえないから困る。
「でも、この位置じゃ何を言ってるか聞こえないねー」
「まあ、これだけ人が居るんだし、仕方ないだろう」
そんなセフィルたちを見たロザリィが、人差し指を振りながら『ちっちっち…』とか言い始めた。
『directivity!』
ロザリィが魔法を唱えると目の前に光球が浮かび、そこから二人の声が聞こえてくる。
「「………」」
「ロザリィちゃん、すごい!」
『エッヘン!』
エマは感動しているけど、俺とセフィルは微妙な顔をしている。
お互いに意志疎通はしていないけど、考えていることは同じだろう。
「「下手なコト言えねえな…」」
~~
「お久しぶりですアンナ様」
目の前の少女はアンナ・トゥーリ。
以前、セフィル王子と共に誘拐組織を壊滅させた時に救出した、貴族の一人娘さんだ。
「貴方は私の命の恩人です……」
「いえ、私はセフィル王子殿下の指示に従い行動しただけですので……」
私がそう伝えるとアンナは目を瞑り、祈りの姿勢になった。
ここは創造神ラフィート様に祈る場なので、私に祈られるのは困ってしまう。
「あの時はちゃんと言えませんでしたが、改めてお伝え致します…」
「………」
「このアンナ・トゥーリ、貴方様に大変感謝致しております。この恩は一生忘れません…。貴方様をお慕い申し上げております」
「そんな、勿体ないお言葉です…」
しばらく無言が続く。
「明日にはもう帰られるのですね」
「ええ、またセフィル王子殿下の子守り生活がまた再開します」
そう言い目の前の少女と笑いあう。
「また王都に戻られましたら、我が屋敷にお越しくださいませ」
「ありがとうございます。是非とも…」
そう伝えると、アンナは足早に去っていった。
~~
え、終わり?
「まあ、こんなものだろうな」
セフィルもため息ひとつ。
「ああ、叶わぬ恋、よよよ…」
「お父様…大人…」
エマとクレアも不思議な反応をしている。
どうやら状況が分かっていないのは俺だけらしい。
「お慕い~って、あなたが好きですって意味じゃねーの? なんであっさり二人とも別れの挨拶してんの???」
俺の言葉に3人がため息をつく。
な、なんだよう……。
「トゥーリ家と言ったら、この辺では知らぬ者が居ないほどの貴族で、あのアンナという子はそこの一人娘だ。そんな家の娘を、子持ちの平民になど嫁がせるものか。となると、リュータスがあの娘と結ばれるためには、駆け落ちくらいしか方法は無い。誘拐犯から娘を救った勇者が、その娘を誘拐して行きました~、なんてバカげた話しが許されるわけないだろう」
うっ……。
「お前とクレアの場合、内面的な関係は複雑だと言っても、表向きは単なる平民同士だ。俺と委員長も、兄貴たちならともかくとして、第三王子の俺はある程度自由に出来るんだよ。妾なんて取る気はさらさら無いしな」
妾なんて取る気は…と言った瞬間ロザリィがピクッと反応したけど、さすがに空気を読んで黙ったままだ。
ここで『私を妾にするって話しはどうなったのよ?』とでも言おうものなら、エマのサンドブラストで大聖堂が崩壊しかねない。
「だから、あの手紙の子は叶わないと分かってて手紙を書いて、あの場にクリスくんのお父さんを…うぅ、悲恋だー……」
エマがうるうると泣き出してしまった。
「身分と年齢の壁は…大きい…ね」
少し悲しげな顔をするクレア。
俺はクレアの頭をポンポンっとすると……
「俺たちなんざ、別世界同士だぞ? 壁どころか世界まで飛び越えて付き合ってるんだから最強だろ?」
俺の楽観的な意見に、クレアも笑顔になった。




