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045:卸問屋の物語 その3

 北教区から西の大通りを抜けて、道沿いにたくさんの商店が連なるエリアに到着。


「やはりデートと言えばショッピングだな」


 俺の言葉を聞いた途端、フィーネは困惑した表情になってしまった。


『私、お金持ってません…』


「んなこたぁ分かってんだ! 俺がおごるに決まってんだろうが」


『そんなの、いけません!』


「キミは何を言ってるのかね? デート、ショッピング、男が払って株を上げる、女の子喜ぶ、皆幸せ。どぅーゆーあんだすたん?」


『は、はい……』


 どうやら俺の理にかなった説明を理解してくれたようだ。


「んで、俺が思うに、フィーネには帽子が似合うと思うんだ」


『???』


「いや、髪の毛すげー綺麗なのに何も飾ってないのが勿体ない気がしてな。貴族って、なんかもっと頭にゴテゴテ付けてるイメージがあるんだけど……」


『うーん、よく分かりません……』



「いらっしゃ~い。あら勤労青年君じゃない~」


 この店の名前は可憐庭かれんてい

 リカナの社長が奥様の御機嫌取りに使ったり、クリスくんがクレアちゃんとイチャイチャするために活用しているらしく、とても有用だと評判のお店だ。


「えーっと、そちらの子は彼女さんカナ~? 貴女のお名前なんて~の……ヒャアーッ!? かかか、かのっ、彼女!!?」

 何この驚きっぷり。


「なんだよ、店長さんまで俺がデートするのはおかしいと思うの?」

 全く、失礼な話だ。


「す、すみません。ちょっと取り乱してしまって……。あの、本日はどのようなご用件でしょうか……?」


『私に似合う帽子を探しているのですが』


「はい! すぐにご用意いたします! 命に代えても!!」


 そう言い残すと、店長さんが奥にすっ飛んでいってしまった……。


「あの人にしては珍しい慌てっぷりだったけど、フィーネの知り合いなの?」


『ふふふ、どうでしょうね?』


 うーん…謎過ぎる。

 しばらくして、店長さんがたくさんの帽子を抱えたまま走って戻ってきた。


「あの……これらの商品がお似合いかと……」

『ほう……』


 種類が多すぎて絞り込むのが大変そうだ。

 そんな帽子の山の中、ひとつだけ雰囲気が違うモノがあった。


 引っ張り出してみると、大きなリボンの付いた麦わら帽子。


『あら、麦わら帽子ですか?』


「あっ、これは偶然紛れ込んでいただけでしてっ!」


 店長さんがアワアワしている。

 麦わら帽子なんて、平民が日常的に使うものだからなぁ。


「そんな、麦わら帽子だなんて! 貴女様は、めが…」


 そこまで言い掛けたところで、何故かフィーネが店長に目潰し!


「目がアアアァァ!!」


『なるほど……』


 悶絶する店長さんの手から帽子をヒョイと取ったフィーネは、自分の頭に麦わら帽子を乗せた。


『カトリさん……これ、似合いますか?』

「うおおっ!」


 何ということだ…。

 麦わら帽子なんて、俺らみたいな田舎者とか農家のおっさんが被るものだと思っていたが、フィーネが装備すると凄まじい破壊力だ……。


『うおおって、どういう意味なのでしょう。これダメですか……?』


「ち、違う! すごくいいっ! 店長さん、これをくれっ!!」


「お、お買い上げありがとうございますっ!」


『店員さん』


「はっ、はひぃ!!?」


『……ぐっじょぶです』



支出

 リボン付き麦わら帽子 19,800ボニー

[現在の所持金 65,535ボニー]




「それにしても、本当に似合ってるなぁ。イメージ通りだよ」


『そうですか? えへへ。この帽子、ちょっと気に入っちゃいました♪』


 帽子のつばを両手で持って、くるくる回るフィーネ。

 フィーネには帽子が似合うとは思ったが、まさかこれほどまでとは…。

 リボンのおかげで可憐さが強調されているのも大変に素晴らしい!

 これに白のワンピースあたりを合わせると最強の破壊力になりそうだ。


『…なるほど』


「なるほどって何が?」


『いえいえ、コチラの話で…。ところで、次はどこに行きますか?』


「そうだなー、もう少しこの辺を歩いて……おっ!」


 街の外れの広場で知った顔を見つけた。


「おーい、クリスくん、クレアちゃーん!」

『!』


 向こうもこちらに気づいたらしく、トトトッと小走りでやってきた。


「おっす、にーちゃんっ。…そちらの方は?」


「ふっふっふ! 聞いて驚くなよ……デート中だっ!」


 俺の言葉を聞いたクリスくんは「なん…だと…」と言いながら手に持っていたクレープを地面に落とし、それを見たクレアちゃんが悲鳴を上げた。


「どういう意味だよ。君も俺の怒りをアッパーをくらいたいのか?」


「いやいやいや、ホントごめんっ!」


 俺がクリスくんに迫っているのを尻目に、クレアちゃんがフィーネの前にテコテコ歩いて行ったが、何故かフィーネは帽子のつばを両手で引っ張って顔を隠している。


「お姉さん…どこかで会ったこと…ありませんか?」


 クレアちゃんの質問に、無言で首を左右に振るフィーネ。


「うーん…」


 首を傾げながら考え込むクレアちゃん。


「顔を見れば思い出せるかも…」


 クレアちゃんが帽子の下から見上げようと一歩近づくと、フィーネが一歩後退あとずさりした。


「クレア、お姉さんが嫌がってるんだから、そのくらいにしとけって」


 クリスくんの助け船にホッと肩の力を抜くフィーネ。


『アンタ何言ってんの? 真実を探求する者として、この女の顔を見ておかないと、気になって夜も眠れないわ』

『!!』


 いきなり口調の変わるクレアちゃん。

 その変貌っぷりに驚いたためか、フィーネは帽子で顔を隠したまま、俺の後ろに隠れてしまった。


『おにーさん、そこをどいて頂けるかしら?』


「いやいや、そういうわけには…。というか君、キャラクター変わってない???」


『女なんていくつも顔があるもん…よっ! ホーリーライトっ!』


 いきなり攻撃してきやがった!

 フィーネを右腕で抱き寄せながら緊急回避っ!


「くそっ、女子供だからって容赦しないぞ!」


 怯える女性を腕で抱き寄せて左手で子供に指を差しながらこのセリフ。

 まるで俺が悪役みたいだけど、今はそれどころじゃない!


 行くぜ必殺……!


「ファイアウォール!!」


 俺のスキルが発動し、俺とクレアちゃんの間に炎の壁がそびえ立つ。


「すっげー! にーちゃん炎使いだったのかっ!!」


 クリスくんが目をキラキラ輝かせている。

 やっぱり子供なだけあって、見た目の派手なスキルはウケが良いなぁ。


「俺は元々、王都の大隊所属の魔術師だったんだよ!」


 俺の言葉にクリスくんが「おー!」と、はしゃいでいる。

 へへ、おにーさんを見直してくれてもイイんだぜ!


「俺がこんなガキンチョに負けるわけが……」



『スピードアシスト!』



 ……何それ?

 俺が判断するよりも先に、クレアちゃんが凄まじい速度で炎の壁を突破してきた!


「マジかよぉぉぉ!!?」


『チェックメイトよ!』


 クレアちゃんがニコッと笑った瞬間、俺の体が宙を舞った。

 あー……俺は今、空を飛んでいるー……。


 ドサッ


~~


 ロザリィの馬鹿! 全力でやりやがった!!


『カトリさん! 大丈夫ですかっ!? カトリさーーんっ!!』


 にーちゃんとデート中だった女の人が、泣きながらにーちゃんを介抱している。

 どうすんだよこれ……。


『グヘヘヘ~。さーて、お嬢さん~。お顔を拝見~~っと~』


 クレアの身体でそういう下品な笑みを浮かべるの止めて欲しいんだけど……。

 そんなコトを思っていると、女の人が詠唱を始めた。


『アークヒール!』

 謎の回復魔法をにーちゃんにかけて……


『スピードアシスト!』

 ロザリィと同じスキル名を叫び……跳んだっ!?


 一瞬でロザリィの前まで跳躍し、まさかのアイアンクローッ!!


「『あだだだだだだっ!!!』」


『ロザリィさん……』


 ロザリィを知っている!?

 この声はまさか……!


『ま…まさか…あなたは……』


『確かに貴女の力は歴代の妖精達の力を継承し、今やこの世界で敵は無しといったところでしょう。ですが、その力は嫌がる人に無理強いをするためのものではありません』


『はっ、はひぃ!』


 アイアンクローの構えのままさらに続ける。


『クレアさん……』


「ひいっ」


『貴女もロザリィさんの悪ノリに付き合わないで、いけないことはいけないと言う信念を持ちなさい』


「ごめんなさい! ごめんなさい!! ごめんなさい!!!」


 やっぱりアイアンクローを維持したまま、こちらを向く。


『そしてクリスさん』


「えっ! 俺もですか!?」


 先ほどまでの冷淡な雰囲気とは変わって、ちょっと困った感じの笑顔で…


『カトリさんには、私の正体はナイショにしておいてくださいね?』


 と言いながらイタズラっ子みたいな笑顔でウインクひとつ。

 俺は無言のままコクコクと頭を縦に振った。



「はっ!! フィーネは!!?」


 可哀想なにーちゃん……。

 あれからラフィ…ごほごほ、フィーネさんは仕事に戻ってしまった。


「用事があるって、帰って行っちゃったよ」


「そ、そんなぁ…ガクッ…」


 orzの体勢のままうなだれるにーちゃんに、クレアがおずおずと近づく。


「あの…おにいさん…デートの邪魔をしてしまって…本当にごめんなさい…」


「なぁに、年下の女の子に負けちまった俺が情けないだけさ。やっぱ現場を離れて長いと体がなまっちまうのかなー…」


 いや、アレに勝てたらおにーさん人間じゃないよ…。


 それにしても、セフィル渾身のオリジナルスキルである「スピードアシスト」をあっさりとコピーしてしまうこの世界の女連中のポテンシャルの高さったら……。

 全く、肩身が狭いったらありゃしない!


~~


『ふぅ…』


 天界に戻った私は、今回の出来事を振り返る。


 私が前回あの世界に降りた時のことは二度と思い出したくない。

 神は人より上位の存在であると言うけども、人間達の嘆き悲しむ姿を見て、下級種だから……なんて理由で平然と居られるはずがない。


 かつて、あの世界は……地獄だった。

 私に祈りを捧げながら死んでいく人、神は死んだと嘆く人……。

 多くの血が流れ、その果てに忘れてはならない悲劇も起きてしまった。


 でも、今やあの世界は幸せで満ち溢れている。

 そんな世界をむしばむ悪意の陰謀は絶対止めなくてはならないし、それが神として私に課せられた使命だ。

 大丈夫、もう怖くない。


 ……そしてカトリくんのこと。


『まさか"あの人"と同じ名前を付けてもらえた子にバッタリ遭遇するなんて、これも運命かもしれませんね。ふふっ』


 そう言うと、私は頭の麦わら帽子のリボンをそっと撫でた。

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