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042:ちょっと一息 その3

~クレア&ロザリィのターン~


「そんじゃ、ゆっくり休めよ~」


「ああ、ありがとうな! 委員長もすまないけどよろしく」


「うん、いってくるねー」


 セフィルくんとエマちゃんがリカナおじさんのお店に出発し、クリスくんのお父さんも寄り合いに行ってしまったので、家の中はクリスくんと私の二人きりです。



 二人きり……二人きりかーーーっ!



 本当は一緒にお話しして過ごしたいところなのです。

 でもでも、今日はクリスくんを癒やすのが目的なので、ぐっとこらえて我慢です。


「クリスくんは…お昼までゆっくり寝てていいよ…?」


「え!? ああ、俺が昼までゴロゴロしたいって言ったからか。うーん…」


 クリスくんは椅子に逆向きに座り、背もたれにあごを乗せたまま脱力中。

 これは別の世界で暮らしていた頃の癖なのかな?


「それじゃ、お言葉に甘えて寝室で休んでくるよ…」


「うん…いってらっしゃい」


 首を傾げながら寝室に行くクリスくん。

 はてはて? どうしてあまり嬉しそうじゃないんだろう?


『アイツどうせ、俺一人だけ休んでていいのかなー?とかそんなコト思ってんのよ。せっかくみんなが休んで良いって言ってんのに、そんな強迫観念で働き過ぎて死ぬなんてバカのすることよ』


「そんな、バカだなんて…」


『実際アイツはそれで一度死んでるからね』


 ……それは分かっている。

 とても信じられないけど、人は働き過ぎると死んでしまうらしい。


『今までずっと見てきて、アイツはとにかく働くことに関しては抜群に高い能力を持っているのは分かったし、異常なまでに人の心を掴むのも上手だけど…』

「……」


『休むことに関しては最低最悪にドヘタクソよ! 致命的にね!!』

 

二人でウーン……と考え込む。


 まあ独りで悩んでいるようにしか見えないのだけども。


「一体どうすればクリスくんを癒やすことが出来るのかな…?」


『今こそ、歴代の妖精達が継承してきた知識を活用する時よっ!』



 ここはファンシーショップ可憐庭かれんてい


「いらっしゃいませぇ~。あらクレアちゃん、こんにちは」


「あの…こんにちは…」


 ヒラヒラフリルな服装の店長さんが出迎えてくれた。

 でも、なぜだか私の周りをキョロキョロと見回しています。


「…おや? クリスくんの姿が見えないのだけど、おひとり~?」


「はい…実は折り入って相談が…」


 その瞬間、店長さんの目がキュピーン!と光った。


「何かなっ? 奥手なクリスくんを野獣にする方法を知りたいとか!?」


「あの…いえ…そうではなく…」


「もしかして、自らけものになってクリスくんを!? なんて大胆なコ…!」

「違います!!」


 この人、苦手ですーーーーー!


「実はーー……」



 ここは街一番の富豪マダム・バテラーヴのお屋敷。


「ようこそクレア様。……あら? 今日はクリス君と一緒じゃないのですね」


「こんにちは…シーナさん。実は一人で来たのには…理由がありまして…」


「ほほう!」


 キュピーン!

 シーナさんまで可憐庭の店長さんみたいな目を…いったいどうして…?


「貴女が一人で来たということは、クリス君にナイショで何かを成し遂げたいと考えているのでしょう? そんなオモシロ……ごほんっ。そんな魅力的なイベントを逃す理由はございません。当家のメイド一同、全力を尽くす所存です」


「そ、そうですか…」


 今日のシーナさん、いつもと雰囲気が違う……。


「それでは改めまして、どういったご用件でしょう?」



『あと一つブツが手に入れば完璧なんだけどねぇ…』


 ロザリィさんがまだ納得出来ていないらしく、街の中を散策しています。


「それは絶対に必要な物なの?」


『絶対に絶対に絶対よ! それが足りないと、この作戦は肉の入っていない青椒肉絲チンジャオロースになってしまうわっ!』


 ロザリィさんの知識によると食べ物のようですが、意味が分かりません。


『私の探しているブツは大陸南西にあるワラントっていう国の名産品らしくてね。多分、貿易商から入手出来るはずなのだけど……』


 そんなコトを言いながら街の北教区を歩いていると、教会の前に露店が並んでいるのが見えた。


「ここの教会は私たちのところと違って賑やかだね~」


 露店を眺めていると、いきなり私の身体からだが走り出した!

 どうやらロザリィさんに操られているらしい。


「えっ、えっ?」


 お古の演劇小道具バザーの露店に飛び込むと、私の手がひとつの商品を掴んだ。


『おじさん、コレくださいっ!』


 ロザリィさんが見つけたのは、モコモコのフワフワで……。



『ついに見つけたわ。ミッションコンプリートよ!!』




 というわけで自室に戻ってきました。

 私のベッドの上には、手に入れたアイテムが並んでいます。


「これ本当に? 本当にやるの???」


 ロザリィさんから作戦内容は聞いたけど、全くもって理解不能でした。

 妖精さんの文化はよく分かりません……。


『大いなる意思が、これで彼のハートも一撃必殺と言っているわ……』

「一撃必殺……って、それのどこが癒やしなの!?」


『どうやら遥か昔、メイドの娘が渡り人に対してこの作戦で挑んだ結果、彼から大変喜ばれたという記録が残っているようね……』


「なるほど。過去の実績があるのなら信用しても……良いのかなぁ?」


 この装飾品に一体どんな意味があるのかは分かりませんが、ここまで来たらやるしかありません。


 いざ勝負!!


~~


「あっふ……」


 欠伸あくびをしながら窓の外を見たところ、どうやら昼過ぎのようだ。

 うーん、ちょっと寝過ぎたかな……。


 でも、ぐっすり昼寝をしたおかげで頭がスッキリした。

 そういえばこの世界に来てから、昼寝なんてしたこと無かったな。

 昼休みに15分睡眠を取ると業務効率が跳ね上がると聞いたことがあるし、午後の授業の前に一眠り…なんてのもアリかもしれないな。


 ちなみに子供の頃、アニメの主人公が草むらで昼寝するシーンに憧れて実際に真似をしたことがあるのだけど、首回りがやたらチクチクするわ、尻と背中がやたら濡れて泥臭くなるわと、えらい目にあった。


 どうしても外で寝たいのなら、ベンチの上をオススメしたい。



 コンコンコンッ



「クリスくん…起きてる……?」


 ノックの音の後にクレアの呼びかけが聞こえてきた。


「ああ、今ちょうど起きたところだよー。入っておいで」


 ガチャ……とドアノブが回った音はしたけどドアは開かない。


 なんだかドアがガタガタ揺れているような……。



 はて???


「クレア、どうかしt…」

 声をかけようとしたその時、バンッ!と、ドアがいきなり開かれた。


 まず初めに目に入ったのは「メイド服」だ。

 このデザインはシーナさんと同じタイプだから、きっとマダムの誕生日会の時に俺が着たヤツか、それの予備だろう。

 小柄なクレアにちょうどピッタリで可愛らしい。


 次に目に入ったのは「ホワイトブリム」だ。

 要はメイドさんが頭に付けている白いヒラヒラしたアレ。

 確かマダムのところのメイドさん達は付けていなかったはずだが…。

 一体どこで入手したのだろう?


 そして最後に目に入ったのはモコモコフワフワな「ネコ耳と尻尾」だ。

 栗色ロングの髪型にとてもフィットしていて可愛らしい。

 確かマダムのところのメイドさん達は付けていなかっt……。


「………」

「ご…!」


「………」

「ごしゅじんさまっ!」


「………」

「だーいすきっ…ニャン!」


「………」

「………にゃん」


「これでいつ死んでも思い残すことは無い……」

「クリスくーん!!!?」



 それから俺とクレアはリビングに移動した。


 厳密には、一撃必殺でノックアウトされた俺を介抱しようとしたクレアが俺を抱き起こそうとして、理性がどうにかなりそうになった俺が慌てて部屋を脱走し、クレアがそれを追いかけてきた…という状況なのだけど。


「クリスくんには…効果無い…?」


『むしろ効き過ぎよ。あんなに葛藤かっとうしながら逃げる姿なんて初めて見たわ』

「うるせぇ…」


 今はロザリィが偉そうな顔で腕組みしながら突っ立ってくれるおかげでどうにか直視できるが、恥ずかしがりながら上目遣いで見られると、俺の精神が耐えられない。


「癒やしになればと…思ったけど…ダメだったかな…」


 シュンとする姿も凄く可愛い! ……じゃなくて!


「俺のことを思ってやってくれたんだろ? 嬉しいに決まってる!」

「良かった…」


 安心したのか、少しだけ笑顔に戻ってくれた。


「でも…クリスくんが大変そうだし…今回限りで………」


 俺はクレアの両肩に手を乗せ、首を左右に振った。


「クレア……」

「クリスくん……」


「これからも時々よろしくお願いします!!」


『この道に目覚めてしまったのね……』

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