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039:あたらしい予感

 地下牢での戦いから1週間が経ったものの、一向に騒ぎの終わりは見えてこない。

 なんと言っても、王の側近達が死刑囚を使って人体実験をしていたという事実が、あまりにもショッキング過ぎたのだ。


 バロン騎士長やシーズたちの供述により、王の関与が無かったことは証明されたものの、王の側近が2名同時に失脚というのは前代未聞である。

 前の世界のように「ちょっと政治家が不祥事起こしたらすぐ辞任して、新しい人がトップになれば済む」という話ではなく、その影響はとてつもなく大きい。


 特に今回は主犯格の一人だったネブラが外務大臣であったため、この国における外交回りが完全にストップした状況になってしまい、和平交渉のため隣国に向かっていたセフィルの母と妹も急遽帰国することになったらしい。

 他にもゴタゴタが山ほど起こっており、この国が落ち着くには、まだまだ時間がかかるだろう。


 俺たちも……父からこっぴどく叱られた。


「前回は俺も不在だったし、クレアちゃんの容態が一刻を争う状況だったからまだ分かる! だが今回はーーー…!!!」


 とまあ、こんな具合だ。


 さすがに父の安全のためだったと言っても、命すら落としかねない危険な場所に子供たちだけで乗り込んでしまったのだから、怒られて当然である。



 エマのリソースリークに関してはアロ博士が「60年は生存可能」といった発言をしていたが、ロザリィ曰く……


『クレアみたいにリソースが急激に失われた前例もあるし、"悪意"がそのまま見逃してくれる確証が無いわ。一刻も早く特効薬ルナピースを投与すべきよ』


との意見で、治療することに決定。

 俺たちがモリス聖薬に訪問すると、なぜか新川さんと妖精ピクセラが留守番をしていたので、その日のうちに特効薬を調合してもらうことができた。


 ただ、支払いに関しては「セフィルの出世払い」でOKだったものの、王子の立場でありながら、わずか11歳で5000万ボニーもの大借金を抱えることになってしまったセフィルは、かなりブルーな顔をしていた。


 ちなみに新川さんが留守番をしていた理由は、ノーブさんから「爆発実験にお前が立ち会ったら失敗しそうな気がする」と言われて追い返されたのだそうで。


 その判断はとても賢明だと思います!



 だが、今回の事件はまだ全て終わったわけじゃない。

 地下牢での人体実験に直接関与したとされる容疑者は13人。

 アロ博士とネブラを除いて、現場で拘束されたのはシーズやバロン騎士長など計10人。


 つまり……1人足りない。


 エマ曰く、地下牢に連れて来られるまでの間、ずっと deepsleep という魔法で眠らされていたらしいのだが、それを聞いたロザリィが血相を変えた。


『妖精が誰にも姿を見られずに忍び込むために使う睡眠スキルよ……』


 今回の事件は未だ多くの謎を残したままである。


 

 そして俺たちは学園の皆に別れを告げ、今は神都ポートリアに帰る馬車に揺られている。

 馬車に乗っているのは俺、クレア、父、エマ、そして……


「次の街はダブルデートしようぜっ!」


 格好良さが遠く彼方に消え去ってしまったセフィルの姿。

 どうして王子様が俺たちの馬車に乗っているのかというと……?



………

……



「この度の失態、我が人生最大の不覚であった…」


 俺たちの前に居るこの人はセフィル父、つまり国王イサラータ15世だ。

 本来は俺やクレアのような平民には謁見えっけんすら許されない程の身分差があるわけだが、俺たちは今回の事件解決の功労者として呼ばれている。


 俺は「民のためのナンチャラ団の力で解決したことにすればいいんじゃね? 実際に主犯格のネブラを倒したのはセフィルで、バロン騎士長を倒したのも父さんだし」的なコトを伝えたのだが、即却下された。


 あと、ナンチャラ団と言ったことに対しても、セフィルにかなり怒られた。


「私は正直、セフィルには正義ごっこを卒業して国政の場に着いてほしかったのだが……」


 国王に「正義ごっこ」呼ばわりされた瞬間、セフィルの顔が「お前、この場でクーデター起こしたろか?」みたいなヤバげな表情になったが、エマと目が合うとすぐにデレデレ顔に戻った。


 ……コイツはもうダメかもしれない。


「お前が正義を貫き通した結果として、悪を倒すことが出来たのだ。我がまなこは曇っておったのかもしれぬな……」


 ここで急にセフィルの顔が素に戻り、同時に国王がセフィルの方を向いた。

 コイツ絶対、いつも国王の話の最中に変顔へんがおやってるな…。

 いくらなんでもタイミングが神がかってるし、笑いをこらえる家臣の姿が目に浮かぶようだ。


 実際、さっきから父は隣でプルプル震えている。


「国王様……」


 セフィルが口を開いた。


「ご存知と思いますが、今回の主犯と思われる者が一名逃亡を続けております」

「うむ」


「その者はどうやら人にあらず、人の弱き心に付け込んで操る化け物かもしれません」

「なんと!?」


 それは俺も初耳だ。


「事実、このエマという美しい娘が、未知の魔法で眠りに落とされていたようです」


 さり気なく「美しい娘」とか言ってんな。


「うー…む……」


「ですが、ここに居る者達はいずれも強者揃いです。剣士リュータスは私の右腕として数々の実績を残しており、魔術師クレアは非常識…いや、非情に高度な魔法を駆使して凄腕揃いの我が国の衛兵たちを倒しました」


 セフィルの言葉に国王が絶句する。


「このような幼い少女が屈強な大人を倒すとは信じられん…」


 俺的にはクレアに「非常識」とか言っちゃうセフィルが信じられんです。

 隣から「ふーん…非常識…ね」とか聞こえてくる呟きが怖くて怖くて……。


「そして今回最大の功労者が我が親友、クリス・エリアスです!」


 …何で俺???


「実は今回の潜入作戦の発案者は彼なのです」


「なんと! それは本当か!?」


 国王が俺の方を向いて驚愕の表情を浮かべているが、正直なところ俺の名前を出された理由がイマイチ理解出来なくて、俺自身も驚愕している。


「地下牢近くの倉庫に隠れて衛兵の会話から情報を収集し、関与の疑いのある者を見つけたら怪我をしたと装って近づくなど、一流の諜報員も顔負けの手腕を発揮し、結果的に我々の中から一人も死傷者を出すことなく、作戦を成功させたのです」


 確かに事実なんだけど、何だか釈然としないな…。



「だから、私もこの者たちと共に……真の悪を倒したいのです!」



……

………



「ふはははバカ親父め、まんまと引っかかりやがった!」


「国王をバカ呼ばわり…不敬罪ふけいざいで…死ねばいいのに」


 ちなみにクレアは「非常識」と言われたことをまだ怒っている。


「まあまあクレアちゃん、そろそろセフィルくんを許してあげても…」


「王子様とラブラブな…お姫様は…余裕ですね」


「えっ、えっ、えええっ!?」


 往路はセフィルの失恋ムードで地獄だった馬車は、復路で真逆の状態になってしまったわけだが、仕事に明け暮れたせいで嫁に逃げられた父にとって、あまりにも酷な環境だ。



 そして、色々な意味で長い戦いが終わり、ついに我が家に帰ってきた!


 さすがに馬車での長距離移動はいくらなんでも身体の負担が大きすぎる。

 しばらく遠出はしたくない……。

 だるい……眠い……。

 働きたくない……。


「じゃあ…お茶入れてくる…ね」


 トトトトッと早足で台所に向かっていったクレアを見て、ウチの嫁は働き者だなぁとしみじみ思う。


 そんなことを考えながら椅子へ逆向きに座り、背もたれの上にあごを乗せて脱力しながら玄関を見ると、セフィルとエマが何か話している姿が見えた。


 あいつら、さっさと入ってくれば良いのに何やってんだ?



~~



 どうやら私は、今日からクリスくんのお家でお世話になるようです。


 クリスくんのお父さんの話によると、私の暮らしていた家は一切近づくことができないらしく、戻って暮らすことは許されないそうです。

 理由を尋ねると辛そうな顔をしていたので、それ以上は聞かないことにしました。


 正直な話、もう分かっているのです……。


 お父さんの研究は人の命を冒涜ぼうとくし、結果的に多くの人をあやめてしまった。

 死に至る病を克服できるとしても、その方法がいけなかったのです。


 お父さんの罪はあまりにも重く、とても許されるものではありません。


 その重罪人の娘が私なのです……。


 私は……私は……!



「まだ自分が死んだほうが良かったとか思ってるだろ?」



 セフィルくんが図星を突いてくるので困ります。

 どうしてこんな私を好きで居てくれるのか全く理解できません。


「そもそもお前は俺の"家来"なんだから逆らう権利など無いんだ。俺がついて来いと言ったのだから、ついて来い」


 ぶっきらぼうな言い方だけど、その顔を見て思わず笑ってしまいました。

 真っ赤に照れながら言う言葉じゃないですよそれ。


「それと……これ!」


 顔を背けたまま、セフィルくんが右手を突き出してきました。

 なんでしょう……?


「プレゼントだっ! お前にフラれた後に……セサイの町で買ったんだ」


 さっきから照れっぱなしだったセフィルくんの顔がさらに真っ赤っかに……。

 私の手にアミュレットを放り込むと、そのまま走って家に入ってしまいました。


「久々に我が家に戻ったぞ! ただいまーっ!!」


「おせーよ! つーかココはお前の家じゃねえ」


 セフィルくんはそのままクリスくんとじゃれ合いを始めてしまいました。

 その行動が照れ隠しだと思うと、なんだか微笑ましいです。



 その日の夜。


 隣のベッドではクレアちゃんが寝ています。

 私がこの家で暮らすことが決まった時に、セフィルくんはクリスくんと、私はクレアちゃんと相部屋になりました。

 クリスくんのお父さんの一存でその部屋割りが決まった時、クレアちゃんが恨めしそうな顔で私を見ていたのが凄く気になりますが、一体何があったのでしょうか?


 そんなことを考えながら、ゆっくりと眠りに落ちて……


『お疲れ様でしたエマさん』


 再び黒い世界にやってきたようです。


「女神様…」


『私の力が及ばないせいで貴女あなたを苦しめてしまい、本当に申し訳ありません』


「そんな! 謝らないでくださいっ!」


『ですが、せめて貴女にお伝えしたいことがあるのです』


 そう言うと、女神様の左右の手のひらの上に光球が現れた。


『これらに手を触れれば、貴女が逢いたいと願っている方々の最期の言葉を聞くことができるでしょう』

「……はい」


 そして女神様が私の手の上に光球をそっと置くと、私の目の前には……



「お父さん、お母さん……!!!」




「……起きて…委員長…大丈夫…?」


 何だか身体がユサユサ揺れてます~~…。


「う、うーん……。おはよう、クレアちゃん」


 私を覗き込んでいるクレアちゃんの顔が、何だか凄く心配そうです。

 どうしたのでしょう…?


「委員長…泣いてる。悲しい夢…見たの?」


 言われて気づいたけど、私の両目からは涙が溢れていた。


「悲しい夢? ……ううん、悲しくないよっ!」


 ガバッと起き上がると、笑顔でクレアちゃんの方を向いた。


「おはよう! 今日も頑張ろうねっ!」


「あ…うん…おはよう」


 困惑するクレアちゃんの手を引いて、私は部屋を出た。


 正直なところ、どんな夢を見たのかは覚えていません。

 でも、ずっと心にかかっていたもやが晴れた気がします。

 これから先、どうなっていくかは分からないけど。


 ……一生懸命、生きていこうと思うのです。

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