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038:王者の剣

『クリス、ちょっとちょっと…』


 ロザリィが俺の袖を引っ張る。


「なんだよ、今いいトコなのに…」


『今更なんだけど、セフィルひとりでアイツに勝てる確証はあるの…?』


 ………。


『私が目の前で手を振り上げるだけで怯えるヘタレなのよ…?』


「それは過去のトラウマを起因とした条件反射だと思う」


 うーん、あれだけ自信満々に飛び出したのだから大丈夫だよな……。


「もしもここで…セフィルくんが負けたら…?」


 クレアの言葉にやたら不安になる俺。

 セフィルのコトは信じている、信じているのだけど…。


 念のためサンドブラストを撃つ準備をしておこう!



~~



 アイツら好き勝手言いやがって!

 確かに、初対面でいきなりクリスに食事代を立て替えてもらったり、ロザリィに吹っ飛ばされたりと、俺の印象は散々たる状況だ。


 でも、今回くらいは俺にカッコつけさせてくれよな!


「ちょっと危ないから離れててくれ」


 名残惜しいけど、委員長にはクリスたちのところへ避難してもらった。

 それじゃ、全力でいくぜ!



「サンダーブレード!!」



 これが我が愛刀だ。

 その実体は無く、拳の中から電撃が剣の形に伸びている。


 クリスが目をキラキラさせて「光の剣かっけえ! ガウリイだ!」と言っているのが、とても心地よい。


 ……でも、ガウリイって誰だ?


 ロザリィは「フーン」みたいな顔で暇そうにしているが、ヤツにこのロマンは分かるまい。


「ホホゥ! 噂には聞いていましたが、それが王子様の武器でございますか! チンケでありますネェ!!」


 そう言うとネブラは両手を勢いよく振り上げ……


『ホゥリーラアアイ!!』


 気持ち悪い発音と共に、ネブラの両手の上に巨大な光球が出現した。


「実のところ、ワタシも実験体でしてねェ! 3人ばかり美味しく頂きましたヨォ!」


 そう言いながらホーリーライトをキャンセルし、再び両手を下げてから俺を見てニヤリと笑うネブラ。


『何だか見てるだけで腹立ってきたんだけど』

「クリスくん…アレ撃っていい?」

「二人とも落ち着いてっ…」


 うーん、アイツらがいちいち騒ぐせいで格好がつかねぇな。

 そんなコトを考えている内に、もう一人の援軍が到着した。


「待たせたな皆! ぬぉっ、なんだこの惨状はっ!?」


「遅かったじゃないかリュータス副隊長。バロン騎士長はそんなに手強かったか?」


「あんな実戦経験の少ない若造に苦戦なんてしませんよ…。峰打ちで倒すのに時間がかかっただけです」


 軽く言っているが、バロン騎士長は国王の側近なだけあって、その腕は一流だ。

 そんな相手に対して、殺さないよう手加減しながら倒せてしまうこの男の化け物っぷりには思わず笑ってしまう。


「さて、俺もいっちょ頑張りますか。あ、リュータス副隊長殿は手出ししなくていいぞ?」


 俺はサンダーブレードを構え直し、ネブラと対面した。



~~



「セフィルは本当に大丈夫なのかなぁ」


 どうにも、普段のロザリィに怯えている姿が頭をぎってしまう。

 これだけ盛り上げておきながらネブラにやられようものなら、目も当てられない。


「大丈夫だと思うぞ?」


 父があっけらかんと言った。


「???」


「王族というのは、基本的に庶民よりも優れた能力を持っているんだ」


 そう言うと父はその場に腰を下ろした。


「セフィル王子は遠征隊をつくって俺と一緒に旅をしていたが、決して実績がゼロだったわけじゃないんだ。そもそも、王子自身が弱かったら国王様が旅を許すわけ無いだろう?」


 父に言われてハッと気づいた。

 そもそも、セフィルは今まで俺たちの前で一度も戦う姿を見せていない。

 ロザリィの規格外な強さのせいで気づかなかったけど……


 もしかしてセフィルは……?


「王子は俺より強いぞ」



「スピードアシスト!!」



 セフィルはスキルを使った直後、有り得ない速さで前に飛んだ!


『電撃スキルを自分に使って筋肉を直接操作したのね…。そんなムチャクチャなやり方、よく思いついたわねぇ。』


 ロザリィが呆れ顔で呟く。

 一瞬でネブラの前に到達したセフィルが、全力でサンダーブレードを振り下ろす!


「ホゥリーシィィィルド!」


 ネブラのスキルが発動し、セフィルの攻撃が防がれた。


「少し驚きましたヨォ! もう少し遅かったらワタクシ真っ二つでした! だがしかーし! 我がホゥリーシィルドには、手も足も出ないでショオオ!!」


 下品な笑みを浮かべるネブラ。

 しかし、セフィルも笑みを浮かべている。


「三下のホーリーシールドはショボいな…。俺の知ってるヤツは、シールドって言ってるくせに攻撃判定付きの反則スキルだったからな」


 セフィルが横目でこちらを向くと、ロザリィがコホンとわざとらしく咳をした。


「それが何だと言うのデス! アナタがこのシールドを破れない事実は変わりません……ヨゥ!!」


 ネブラがホーリーシールドを張ったまま身体をスイングすると、そのままセフィルは弾き飛ばされ、洞窟の壁に叩きつけられ……ない。

 どうやら、サンダーブレードを壁に突き刺して衝撃を分散したらしい。


「ったく危ねえな…」


 地面に着地すると、セフィルは再びサンダーブレードを構え直した。


「ヒヒヒヒ! 次はコチラからも攻撃させて頂きまショウ!! ホーリィルルルルルアイ!!!」


 巻き舌で詠唱しながら大量のホーリーライトを放つネブラ。

 しかしセフィルはその猛攻に対してサンダーブレードで全て撃ち落としながら突き進んでゆく!


「フヒィ! 頭イカれてるんですカァ!!?」


「数が多くとも、そんなクソ遅いホーリーライトが当たるものかっ! 俺の知ってるヤツは速すぎて目視すら出来なかったからな!」


 やっぱりセフィルが横目でこちらを向く。


『アンタ根に持ち過ぎよっ!! さっさとその三下のぼっち野郎を倒してしまいなさい!』


「ぼっちぼっちうるせえええェェェ!!」


 発狂したかと思いきや突然脱力し、両手をだらんと下げた。


「ヒヒヒ………」


 不気味な笑みを浮かべるネブラに対し、セフィルはスピードアシストの加速で飛び込んでいく。

 再びサンダーブレードを振り下ろそうとした瞬間……



「ブラインディィィング!」



 洞窟が強烈な閃光で包まれ、視界が真っ白になった。

 このスキルは……。


目眩めくらまし…相手から一時的に視力を奪う魔法…」


 不意打ち用ってわけか……ネブラが好きそうなスキルだな。


「ちっ!」


 至近距離で食らったセフィルは、恐らく完全に視界を奪われた状態になっているだろう。


「サァ王子様! この状態でどうやって私と戦うおつもりですか……ネェ!!」


 ネブラがそう言うと、何かがぶつかって地面に倒れる音がした。


「ぐっあ…っ!」


 どうやらネブラがセフィルを蹴り飛ばしたようだ。


「セフィルくん!」


 エマが心配そうに声をかける。


『そろそろヘルプに入る頃合いかしらね…』

「そうだな…」


 俺たちが動きだそうとしたが……


「このバカ野郎を粛正しゅくせいするのは俺の仕事だって言ったろ?」


 ゆっくりとセフィルが立ち上がった。


「満足に目も見えナイこの状況で! 立ち上がるアナタの方がバァカですヨ!!」

 ネブラが両手で天を仰いだ後、ゆらりと動いた。


「ホゥリーシィィィルド! アンドォ! ホゥリーラアアイ!!」


 ネブラは片手でシールドを張りつつ、もう片方の手で特大ホーリーライトを作り出した。


「ワタシはこれからアナタを一撃で葬り去るホゥリーライトを放ちます。そしてアナタご自慢の武器を確実に防御するシィルドも張ります。どうやって攻撃しますカァ!!」


 ネブラの挑発に何も答えないまま、再びセフィルはスピードアシストで飛び込んだ。


「学習能力ゼロですネッ!!」


 ネブラがホーリーライトを放とうと腕を大きく振った瞬間!



「レイピア!!」



 セフィルのサンダーブレードが鋭い細剣さいけんの形に変化し、ホーリーシールドごとネブラの額を貫いた。


「な…ゼ……」


「そんなデカいホーリーライトを抱えたまま同時にホーリーシールド使ったら、力が分散するに決まってるだろう。魔力が何倍あろうとも、そんな半端なモノで俺の刃を止められるものか」


 サンダーブレードをブウンッと音を立てて振り下ろし、崩れ落ちるネブラに背を向けるセフィル。

 

 コイツ、すげーカッコイイかもしれな……



「どうだ委員長! 俺に惚れ直しただろ!」



 サンダーブレードをブンブン振り回しながら、すごい自信満々の顔で帰ってきた。

 どうして最後にそんなオチを!?


「それでこそ…セフィルくん…ぐっじょぶ」

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