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037:セフィルとエマ

 ロザリィの張ったシールドに凄まじい勢いで小石が衝突し、火花が飛び散っている。


『ったく、人間のくせにとんでもないモンを生み出してくれたものね』


 どうにかシールドを保持しながらも苦言を吐くロザリィだが、その額には冷や汗が見える。

 防御魔法の内側に居た俺たちはどうにか無傷で耐えているのだが、外側に居たネブラは無事では済まないだろう。


「そもそも、この乱射は何のスキルなんだよ。確か委員長は俺と同じ地属性のはずだろ?」


 俺の言葉に対し、ロザリィはシールドの向こうに居るエマを睨みながら答えた。



『サンドブラストよ……』



 ははは、俺がダメージジーンズ作るために覚えたネタ魔法は、委員長が使うとマシンガンになるのか。


「この世界の女連中は、おっかねえ奴らばっかだな」


 俺の皮肉にロザリィも苦笑いする。


 しばらくしてサンドブラストの嵐が治まり、少し様子を見てからロザリィはシールドを解除したが、俺たちの前に広がっていたのは瓦礫の山と化した洞窟だった。


「委員長……」


 セフィルが心配そうに見つめる先には、壊れたベッドにもたれ掛かりながら立つエマの姿。

 うつむいているため表情は分からないが、恐らく泣いているのだろう。


「嫌だよ…どうしてこんなことになったの…? 私のせい、私のせいなの…? うぅぅ………」


 エマの嗚咽おえつに静まりかえる室内。


「死にたい……」


 そう漏らした瞬間、エマを中心に猛烈な爆風が広がる!


『Extra protection!!!』


 爆風がこちらに到達する前に、どうにかロザリィのシールドが間に合った。

 先ほどの一撃よりは威力は弱いものの、今度は風圧が凄い!

 シールドの内側にいるのにビリビリと振動が響いてくるのが分かる。


「今度は何のスキルだよ…。地属性なのに、なんで風が吹いてんだ……」


『……あれは、あの子が生きる意思を放棄して発生したリソース減少。スキルですらないわ……』


 ひとつの身体から16人分のリソースを一斉放出すると、ああなっちゃうのか…。

 全く、何もかもスケールがデカ過ぎるな。


「くそっ! あのままだと委員長が……!!」


 セフィルがシールドの前に飛びだそうとするが、俺とクレアが腕を掴んで引き留める。

 命を散らす嵐が吹き荒れる中、ロザリィが顔を上げて叫んだ。



『アンタは何で死にたいワケ!!』



 ロザリィの呼びかけと同時に風が止み、再び辺りが静寂に包まれた。


「私のせいで…たくさんの人が……」

『アンタが殺したわけじゃないでしょう!』


「でも、私の身体に…」

『アンタの身体に満たされているリソースが人の死で得られたものだから? だから死にたいの?』


 エマがビクッと震えた。


『甘ったれんじゃないわよ! この世界の生き物は全て、誰かが死ぬことで解放されたリソースから出来てんの! アンタにとっては不本意かもしれないけど、アンタの身体にはたくさんの人の命が詰まってんのよ!!』


 ロザリィがシールドを解除し、エマを見つめながら口を開いた。


『それを自分一人のわがままで無駄にするなんて、絶対に許さないからね…。アンタは、死んでいった人たちの命と想いを背負って、生き続ける義務があんのよ!!』


 ロザリィは叫び終わると、その場にへたり込んだ。



「私はどうすればいいの……?」


 俯いたまま俺たちに問いかけるエマ。


「貴女は…」


 クレアが口を開いた。


「創造神…ラフィート様から…何を言われたの?」


 ハッ!とクレアを見つめるエマ。


「貴女が窮地きゅうちに陥った時……手を差し伸べてくる方が現れますから……その手を取りなさい……あらかじめ言っておきますが……命を大切にしなさい」


 その言葉を聞いてクレアが微笑む。


「それでいい…」

「でも……!」


「私たちの学校に…帰ろう?」

「私のせいでたくさんの人たちが……。私は…許されるの…?」


 エマがベッドを離れて踏み出そうとしたその時、エマの目の前の瓦礫がれきが盛り上がった!



「許されませェェン!!」



 こ、の、ク、ソ、野、郎!!!


 瓦礫の山から出てきたゾンビ男、もといネブラ。


「大事な場面で邪魔すんじゃねえ! 空気読めよ!!」


 俺の怒声に対して、手を開いてやれやれ…といった手振りで返してきた。


「おやァ? 奇跡の生還を果たしたワタシに随分と冷たいお言葉デスネ!」


「てめえのは単なる死に損ないだ!!」


『ここで息の根を止めておいた方が良さそうね…』


 ロザリィが殺意を放ちながら踏み出そうとしたが、セフィルが手で制した。


『…何よ?』


「バカな家来を粛正しゅくせいするのはお偉いさんの仕事さ」

 ザッザッ……と瓦礫の上を歩いてエマのもとへ向かうセフィル。



「よう! 久しぶりだな、委員長」

「セフィルくん…」


「正直なところ、まだ失恋から立ち直れてねーんだけどなっ」

「ご、ごめんなさい…」


「つーか、せめて告白くらいさせろよ! 言う前に撃沈とかキツイわ!」

「ごめんなさい……」


「まあ、それはいいんだ」

「え、いいの?」


「いや、よくない!!!」

「どっち!?」


「この俺様がフラれっぱなしで良いわけあるか! あんなもん無効だ!」

「えええええっ!!?」


「だから…その……な…………」

「……」


「えーっと……………」

「……」


「俺と一緒に来いっ!!!」

「うんっ!!!」


 エマが一歩を踏み出して、両手を広げたセフィルの腕の中に飛び込んだ。



「おー、良かった良かった」

「王子様がお姫様を迎えに…なんてステキな展開…憧れるね」

『久々にイイもの見れてスッキリしたわー』


「ナアァァァにイチャイチャしくさってんですかアァァ!!!」


 今まで空気だったネブラがいきなり発狂した。


「何だよ、ぼっち野郎は黙って消えろよニフラム!ニフラム!」

「嫉妬…かっこ悪い…」

『せっかくいい場面なんだから、空気読みなさいよクソぼっち』


「ぼっちぼっち五月蠅うるせエェェェエエ! ニフラムって何だァ!!! それとそこの女! 二度も言い方変えて罵倒とか、頭イカレてんのカァァ!!!」


 激しく声が裏返りながらキレるネブラ。

 まあ、クレアとロザリィの事情を知らないヤツからはそう見えても仕方が無い。

 地団駄じたんだを踏んだネブラが、瓦礫の山のてっぺんからエマを指差した。


「そもそもォ! そこの小娘は大量の命を飲み込んだバケモノですよォ!!」


 ネブラの暴言にエマが一瞬震えたが、セフィルが強く抱きしめた。


「俺はそんなコト、別に気にしねえぞ? アイラブ委員長だ」


 セフィルがぶっきらぼうに言い放つと、ネブラがぐぬぬぬ……とうなりながら拳を握る。


「この小娘のためにどれだけの人がァ…!」


「周りの大人達が勝手に実験しただけだろうが! どう考えても被害者じゃねーか」


 セフィルの正論に、俺とクレアはウンウンとうなずく。



「覚悟しろよ、このクソぼっち野郎!」

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