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036:エマ

『こんにちはエマさん』


 私が目の前の少女に声をかけたものの、その子は困惑しながらキョロキョロしている。


「あの……、ここはどこですか?」


 私の前に連れてきた人間たちが、いつもこういう反応なのは、きっと周りが真っ暗なのが原因だと思う。

 前に一度『花畑とか夕暮れの海とかじゃダメですか?』と聞いたことがあるのだけど、理由を聞くことすらなく却下された。


『私の名前はラフィート。貴女たちが創造神や女神と呼んでいる者です』


 この説明もテンプレ化してきているので、そろそろ違うパターンを考えたいと思ってはいるものの、私がこの空間に人間を呼ぶのは、死んでしまった時か人類の未来に重要な影響を及ぼすときだけ。

 下手なコトを言うとこの世界が終わってしまうリスクもあるので、あまり迂闊うかつな事は言えないのだ。


「どうして私が女神様の前に……?」


『これから貴女は、世界の未来に関わる重要な選択をすることになります』


「!!」


 正直な話、本当はハッキリと『この後の選択をミスるとたくさんの人が死ぬよ』って言いたい。

 前に会ったロザリィという名前の妖精さんが私の本音を見破ったらしく『ラフィート様も大変ですね…』とか言っていたけど、個人的には彼女のストレートな感情表現には、かなり憧れている。


 女神が妖精に憧れるとか言っちゃ駄目なんだけどね。


「わ、私はどうしたら……???」


 少女は泣きそうな顔でオロオロしている。

 私は少女の頭にそっと手を置いた。


『貴女が窮地きゅうちに陥った時、手を差し伸べてくる方が現れますから、その手を取りなさい。あらかじめ言っておきますが、命を大切にしなさい』


 少女はハッと私を見上げたが、そろそろお別れだ。


『それではご多幸を…』



~~



 これ以上シーズには戦闘の意思はないと判断し、俺たちは奥に向かった。


「地下にこれだけ大規模な空間を作ってるのは驚きだな…。後々に都市地下開発をする時にすげー困りそうだけど」


『少なくとも城の地下を掘るようなバカな開発はしないと思うけどねー』


 そりゃそうか。

 そんなコトを話しているうちに、今までよりもかなり広い空間に出た。

 ここはまさに「実験室」の様相で、本やガラスの器などがあちこちに転がっている。


 奥には怪しく光る14本のガラス瓶があった。

 その場に居たのはアロ博士、荷物を運ぶ4人の兵士、そして…


「ハァイ、来ましたねクソガキ共ォ!」


 セフィルを目の敵にしているネブラだった。


「俺様をクソガキ呼ばわりとは、不敬罪(ふけいざい)で斬首するぞクソぼっちが」


 セフィルの挑発に青筋を立てるネブラ。

 コイツ打たれ弱いなぁ……。


「まぁ良いでしょう! ワタクシのグレェェートな力でアナタたちをォ…!」

『godhammer!!!』


 まだ喋っている最中だったネブラは、ロザリィの魔法で壁に叩きつけられてその場に倒れた。


「口上の真っ最中に攻撃するとか、ズバットかお前は」


「俺、コイツのコト嫌いだけどさすがに同情するわー」


『さっきのクソ兵士に対するイライラが多少スッキリしたわ!』


 まったくご愁傷様だ。


「さて…冗談はここまでとして。ついに大ボスとご対面だな」


「アロ博士…だっけか? アンタの悪事もここまでだぜ」


「諦めて…投降しなさい…」


 俺たち3人の言葉に対して、背中を向けて俯いたままのアロ博士。



「15人だ……」



「「「『?』」」」


「1人の人間からリソースを全部絞り出せば、それを移植されたリソースリーク患者は計算上4年は生きられる。15人の死刑囚が居れば、リソースリーク患者を60年もの間、生存させることが可能だ」


『悪魔の所業ね』


「そもそも人が人を裁く時点で十分おこがましいと思うのだがね」


詭弁きべんね。反吐へどが出るわ』


 ロザリィの言葉にアロ博士はハハハ…と笑って振り向いた。


「私はようやくここまでたどり着いたんだ! 貴様らのようなガキ共に邪魔されてなるものか!!」


 その瞬間、アロ博士の周りにあった「14本のガラス瓶」が一斉に発光しはじめた。


『holy arrows!』

「ホーリーシールド!」


 シーズに撃ったものと同じ形の矢を大量に撃ち込むが、博士の目の前で全て消失した。


「私にも良心の呵責かしゃくというものはあってだね。15人分全て人様の命を頂こうとは思っていないのさ」


 ガラス瓶は14本で、博士は15人分と言っている……。

 その言葉でようやく「この博士の目的」が理解できた。


「このおっさん、自分の命もろとも誰かにリソースを渡そうとしてるぞ!!」


 次にその意味に気づいたロザリィが天井へ両手を伸ばした。


『bright!』


 ロザリィの魔法で部屋を照らすと、奥に横たわる女の子の姿が見えた!

 どうやら眠っているようだ。


『awake!』


 続けて放った魔法で女の子が目を覚まし、ムクリと起きた。

 あの子はまさか……!


「エマ!」「委員長!!」


 アロ博士とセフィルの声が重なった。



『なるほど…。アンタもリソースリークだったのね』


 ロザリィの呼びかけに、委員長…エマは眠り目のまま手を仰いでいる。


「こ…ここは、どこ…? 女神様は……?」


 んんん? ラフィート様は委員長まで召喚したのか。

 渡り人のケアだけでも忙しいだろうに、普通の個人までサポートしてたら身が持たないんじゃなかろうか。


「エマ! お前はそこでじっとしていなさい!」


「お父さん……」


 委員長の名前がエマだという事実よりも、あのマッドサイエンティストからこんな良い娘が育ったという奇跡の方が気になるが、今はそんなことより……!


「委員長! そんな実験に協力するのはもう止めてくれ!」


 セフィルの叫びに首をかしげるエマ。


「実験? 実験って何……?」


『あの子、ホントに何も聞かされないまま連れてこられたみたいね。まあ、あの子の性格なら、そもそもこんなコトには絶対協力しないでしょうけどね!』


 ロザリィが冷淡な目でアロ博士を睨む。


「貴様のような小娘に親の気持ちが分かるものか!!!」


 アロ博士が叫んだ瞬間、一斉にガラス瓶が破裂し、青白い火の玉が中央の魔法陣に吸い込まれる。


「本当は眠ったまま気づかぬよう使いたかったのだがな…。もう止められない…」

「お父さん…?」


 アロ博士がエマを抱きしめると、すぐにその場を離れた。


「エマ…達者でな…」


 アロ博士が魔法陣の中央に立ち、詠唱を完了させる。



「Resource transfusion!!!」



『!!!?』「!!!?」


 俺とロザリィだけがその言葉の意味に気づき、驚愕している。

 ロザリィが自らの命と引き替えに、クレアを生き返らせた時と同じ……。


 魔法陣が砕け、凄まじい光を放っている。



 14個のリソース…いや、14人分の魂とアロ博士の命がエマに吸い込まれてゆき、全てが終わった時、そこにアロ博士の姿は無かった。


『どういうこと……どうしてあの人が禁呪を……』


 呆然としたまま立ち尽くすロザリィ。


「お父さん! お父さん!」


 ひとりベッドに残されたエマは、まだ状況が理解出来ていないようだ。

 こんなの、どう説明すりゃいいんだよ。


「スンンンンバラシィィィ!!」


 しかも、こんな時にクソ野郎が目を覚ましやがった。


「ネブラてめぇ……」


「素晴らしィ親子愛ですよ! 感っ動デス!!」


 わざとらしい身振り手振りでエマの方を向くネブラ。


「自ら悪魔に魂を売り渡し、14人の魂を道連れに愛娘を救う! こんなお話、城下の劇場でも見たことありませんンン!!」


「魂……?」


 怯えるエマに対して下品な笑みを浮かべるネブラ。


「馬鹿野郎! それ以上言うんじゃねえ!!」


 セフィルの叫びも空しく、残酷な真実を告げられる。



「アナタ一人を生かすためにアロ博士を含めて15人! テストも含めれば数え切れないほどの人が死んだのですヨォ!!」



~~



 私がリソースリークを発症したのは5年前のこと。


 ベッドで寝たふりをしていると、お医者さんから「生きられるとしても3年が限界でしょう」と言われ、両親が取り乱す中、自分自身は他人事ひとごとのように、そっかー…と思っていたのを覚えている。


 それ以来、お父さんは人が変わったかのように研究に没頭し、しばらくしてお母さんが居なくなった。


 ある日、お父さんが兵隊さん達とやってきて「実験」をすると言った。

 私は寝て起きるだけと良いと言われたのだけど、コッソリ寝たふりをしていたら、バレてちょっと怒られたので、仕方なくそのまま寝ることにした。


 実験中にお母さんの夢を見たけど、どんな内容だったかはよく覚えていない。


 それにしても、目の前の変なおじさんは何を言っているのだろう?

 いつも通り、よく頑張ったねとお父さんが…


「15人!」


 私を抱きしめながら……


「数え切れないほどの人が」


 喜んでくれるはずなのに……


「死んだのですヨォ!」


 私は……





 私は……………



~~



 ネブラの心無い言葉に、怒りの感情が沸き上がる。

 そんな中、ハッと何かに気づいたロザリィが突然両手を前に出して叫んだ。


『Extra protection!!!』


 初めて聞くスキル名だ。


 そう思った瞬間、目の前には虹色に輝くドーム状の膜が広がり、同時に大量の石礫いしつぶてが弾丸のようにフロア内を蹂躙じゅうりんした。

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