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035:道に迷った男の話

 王族のための隠し部屋跡と思われる洞窟をしばらく進むと、机や棚などの什器じゅうきの他、壺やたらいなどが並べられた場所に辿り着いた。

 机の上がぼんやりと輝いて見えるのだが…。


「………」

「………」

「『………』」


 全員無言のまま…いや、絶句している。


 机の上がぼんやり輝いていたのは、そこに乗っているガラス瓶が光っているからなのだが、中には青白い炎がフワフワ浮いていた。


「ロザリィがクレアにリソースを渡した時の魔法陣の光と同じ色だ……」


 俺の呟きにロザリィが苦虫を噛んだような酷い顔になる。


『これ全部、人間の魂よ。何もかもゴッチャになってて純度は酷く低いけど、ひとつひとつがリソースの塊みたいなものね』


 ロザリィらしからぬ感情の無い淡々とした喋り方から、その怒りが伺える。



「ギャアアアアア! ァァァ…ァァ……」



 奥から聞こえてきた悲鳴に、俺たちは慌てて駆け出す。

 一番広い部屋に着くと、そこには誰も座っていない椅子と、先ほど見たものと同じガラス瓶がひとつ。


 そして……!


「おやおやおやァ? これはこれは誰かと思えばセフィル王子ではありませんカァ!」


 微妙にムカつく悪党っぽい喋り方をするコイツは……!


「ネブラ外務大臣。前からお前のことは大嫌いだったが、まさかこんな極悪非道な実験に手を出す程の外道だとはな…」


 セフィルの言葉に「ケッ!」と吐き捨てるネブラ。


「他にもバロン騎士長の姿も見えるな! 我が国のお偉いさん連中は、恥というものを知らないのか?」


 セフィルが挑発するもバロン騎士長は全く反応せず。

 さすがに三下のネブラよりは大ボス的な感じだ。


 兵士も含めると敵は…13人。

 それに対して俺たちは子供3人。


 その状況からか、敵兵連中はほぼ全員が油断しきっている。

 しかしその中でただ一人、シーズだけは俺を見て驚愕していた。


「どうして君がここに…」


 このチャンス、活かさせてもらうぞ!


「情報提供ありがとうシーズさん! おかげで僕たち、この実験場の秘密を全て手に入れたよっ!」

「なんだと!?」


 俺とシーズの会話に周囲がざわつく。

 このチャンスを逃してなるものかっ!


 リオン魔法学園の地属性クラスの奴らに散々ディスられた我が必殺奥義を食らえ!


「(余計なことを考えながら)レベリング!」


 地面が波打ち、兵士達がその場に倒れた。

 本来はイメージに合わせて整地するための魔法だけど、あえてイメージを崩すコトでこんな芸当も出来るのである!


「今だ! ロザリィやっちまえっ!」


『holy spread!』


「「「ぐわぁっ!」」」


 初見のスキルだが、どうやらホーリーライトの上位版のようだ。

 光弾が拡散し、名無しの兵士3人に命中した。

 運良く光弾が当たらなかった兵士達もまだ混乱したままだ。


「おのれシーズ、裏切ったな…!」

「違う! 俺は何も……!!」


 そんな中、バロン騎士長だけは冷静に行動していた。


「アロ博士! 貴方は奥に避難してください!」


 バロン騎士長がいざなうと、白衣の男と4人の兵士が箱を抱えて奥に移動し始めた。


 それに気づいたロザリィが光の弾丸を放つ!


『ホーリーライト!』

「ふんぬっ!!!」


「撃ち落とした!?」

 バロン騎士長の振るった剣の一撃でホーリーライトが消滅した。


あなどるなよ小娘っ 」


 その勢いのまま体当たりを狙うバロン騎士長。


『ホーリーシールド!!』

「ぐはぁっ!!」


 ロザリィのカウンターが決まり、バロン騎士長を弾き飛ばした。


『降参しなさい。貴方は私には絶対勝てないわ』


「降参…降参か…! 小娘が、面白い冗談だなハハハ……!」


 バロン騎士長が笑いながらゆっくりと起きあがる。


「騎士は命に代えても任務を守るものでな……」


 剣を構えると、突然向きを変えてセフィルの方に走り出した!


「!?」


 3人とも一瞬反応が遅れてしまい、ロザリィも詠唱が間に合わない!


「セフィル!!!」


 バロン騎士長の剣が振り下ろされたその時、黒い影が凄まじい勢いで飛び出して剣で受け止めた。


「ふぅ、遅かったな。さすがに今回はピンチだったぞ」


 セフィルが笑いながら影に話しかける。


「そのピンチはいつもあなたのせいですけど…ねっ!!」


 気合いを込めてバロン騎士長の剣を弾き返すと、その人は真っ直ぐ敵を見据えながら口を開いた。



「民の為の防衛遠征隊、副隊長…疾風のリュータス見参!」



「父さん…!」


「まったく、また相談無しとは…。今度は帰ったら説教だな…」


「えええ…!?」


 不可抗力なのだけどなぁ……。


「なるほどリュータス殿、全て貴方の差し金ですか…?」


「だったら良かったんだけどな、俺が気づいたのはずっと後だったよ。このガキたちは自力でここまでたどり着きやがった。まったく、将来有望だ」


 父の言葉に「ククク……」と笑うバロン騎士長。


「俺は今からコイツらを相手にするから、お前ら3人で先に行ってこい」

「!!」


「詳しい状況は分からんが、あの奥に何かあるのだろう?」

「父さん…」


「貴様、無能力者の分際で、我々を一人で相手だと? そんなに死に急ぐことはあるまい」


 そんなバロン騎士長の挑発を鼻で笑い飛ばした直後、戦闘が始まった!



「お父様…大丈夫…かな」


 後ろが気になるのか、走りながらチラチラ振り返るクレア。


「大丈夫だろう。あそこで、過去を懐かしむ話でもしようものなら死亡フラグだったけど、無言で切りかかってたし」


『なるほど。それなら大丈夫ね!』


「いや、何がなるほどなんだよ! 何なんだよ死亡フラグって! 何で大丈夫なのか全然わかんねーよ!?」


 セフィルだけが状況を理解できていないようだが、今は説明している暇はない。

 3人で通路を走っていると、見覚えのある人影が現れた。



「ここから先には行かせないぜ…」



 シーズだ。


「おじさん…」

「おにーさんだ」


 この人、こだわるなぁ……。


「しかしマジで驚いたよ…。まさか子供3人でここの秘密にたどり着いちまうなんてなぁ」


「どこかの誰かが地下牢のドアを開けっ放しにしてくれたおかげだよ」


 セフィルが呆れながら言うと、シーズは目を見開き、それから笑った。


「そうか、やっぱりあの時に忍び込んでたのはお前だったのかー」


 シーズの言葉に今度はセフィルが驚く。


「視界の隅っこにチラチラ見えててな…。もしも王の家来ならその場で斬り殺そうかと思ったが、明らかに人影が子供の姿で躊躇ちゅうちょしちまった。どうせここで見た事を誰かに喋ったところで、誰も信じないだろうと高をくくってたわけだが…まさか正義の王子様とは」


 そう言って、ハハハ……と笑う。


「おじさん…」

「おにーさんだ」


「…俺はアンタが悪人には見えないんだけど、なんでこんな悪魔の所業としか思えないような狂気の実験に手を貸したんだ?」


 俺の質問にシーズは溜め息を吐いてから口を開いた。



「……リソースリークって知ってるか?」



 ……よく知っている。

 それは「悪意」と呼ばれるヤツが作り出した、人を死に至らしめる病。


「この実験に関わってるのは皆、家族や大切な人をリソースリークで失った奴らばかりだ」


「……」


「特効薬もあるが、なんと5000万ボニーという超ボッタクリ価格でな」


 ボッタクリどころか原価割れの赤字売りなんだけどな。


「我々庶民がそんな高価な薬をどうやって買えと言うのだ?」


 俺は買ったけどな。


「結局、俺の妹は死んじまった。少しずつ弱っていく妹に対して俺は何も出来なくて…、自分の無力さを呪ったよ」


 ……。


「でもそんな絶望の中、お偉いさんが死刑囚を有効利用して、リソースリーク患者を助ける未来の技術の開発に成功したときたもんだ! だったら…」



『もうそれ以上、喋らないで頂戴』



 ロザリィがうつむいたまま右手を前に出して指鉄砲の形をつくる。


「おじさん! 伏せろ!!」


 俺の言葉に反応してシーズが屈んだ瞬間、今まで居た場所を光の矢が貫いた。


「ロザリィ! コイツから聞きたい情報がまだあるんだ! いきなり撃つヤツがあるか!」


『……別に、アロ博士とやらを締め上げて吐かせれば良いでしょう?』


 冷淡な声に一瞬ゾクッとなる。


『そもそも一番ムカついてるのはアンタでしょ?』

「まあな……」


『じゃあそういうコトで……』

「だから撃つなって!」


 シーズは地面に両膝を着いてうつむいた。


「どうして俺が……」


「今までこの実験のために不当な理由で処刑された者たちは、全員同じ事を思っただろうな」


 シーズの震える声に対して、今まで黙って聞いていたセフィルが代弁してくれた。


 ここから先は俺が言うよ。


「おじさん…」

「…」


 さすがにもう、おにーさんと呼べとは言わなくなった。


「俺も身近な人がリソースリークでさ…」

「!?」


「その子を救いたくて、俺は父さんに殺される覚悟で家具やら何やらも全部売り払ったんだ」

「……」


「それからたくさんの人たちの力を借りながら必死にお金を貯めて……」

「……」


「自力で特効薬ルナピースを手に入れたんだ」

「な…んだと…!?」


 驚愕の表情を浮かべるシーズ。



「そして、その薬で一命を取り留めたのが…そこにいる子だよ」



 俺の指を差した先にはクレアの姿。


 目の前の男の子は、自分が買えないと諦めた特効薬を自力で購入した。

 目の前の女の子は、妹と同じ病気の生還者だった。


 その2つの事実に耐えられなくなったシーズは、その場に泣き崩れた。


「貴方は大切な人を守れなかったつぐないのために、この実験に関わっているのかもしれないけど。その人は絶対にこんなコトをやっても喜ばないよ」


 シーズは項垂うなだれたまま頷いた。


「クリスくん……」


 今まで黙っていたクレアが口を開いた。


「……本当に…ありがとう」


 色んな思いはあるけど、ひとつだけクレアに伝えられる言葉がある。


「お安いご用さ」

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