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003:妖精は語る

『ハッ!? ここはどこ! 私は誰!!』


「Zzz…」


『ちょっとちょっと! 起きて起きてっ!! 起きてってばっ!!!』


「…んーーーっ…」


 先ほど俺のエルボーの直撃で一発KOしてしまった妖精さんが、俺の頬をベシベシ叩いてくる。

 夜中にいきなり叩き起こされたせいか、超絶に眠い…。


「10代前半の子供にとって睡眠は大事なんだがなぁ」


『アンタ30過ぎのおっさんでしょうが!』


 あー…この妖精、恵比寿(ヤツ)の関係者だな…。


「なんだ、一緒に来られないからって部下をよこしたのか。それにしても七福神が妖精を派遣って、人選おかしくないか?」


 宝船の周りを優雅に飛ぶ妖精をイメージしてみたが、酷い違和感だ。


『何言ってるか分からないのだけど……。アナタのように別の世界からやってきた人のことを私達は"(わた)(びと)"って呼んでるんだけど、妖精族はそういった人を監視する義務があるのよ』


 なるほど、この世界では異世界から来た人間をそう呼ぶのか。


『例えば、未知の力を使って街を襲って虐殺したり、俺は魔王だフハハハハ!とか言って世界に宣戦布告するようなバカには、コレでザクッ!とね』


 そう言うと妖精は宙を舞いながらレイピアで攻撃モーションを取る。


「アウターゾーンで少年を襲ってたヤツを彷彿とさせる物騒な妖精だなぁ。ミザリィに来てもらわにゃイカンな」


『あれ? 私、名前言ったっけ??? でもちょっと惜しいわね。私の名前はロザリィよ』


 渡り人の監視役の妖精に渡り鳥と同じ名前を付けるとは……。

 妖精の国のお偉いさんは狙っているのだろうか。


『まぁ、真っ当に生きていればそんなことにならないわよ。別にアナタが別の世界からやってきた渡り人だぞっ!みたいに名乗ったとしても特に罰則は無いしね』


「あれま、そういうのは極秘扱いとかじゃないのな。秘密を漏らしたヤツは世界の意思の力によって消される…みたいなイメージだったんだけど」


 人間界にやってきた魔法使いは、秘密を知られてしまうと魔法の国に帰らなければならないとか、消えて泡になってしまうとか、そういうバッドエンド的な展開が多いことを考えると、かなり寛大だと思う。


『むしろ、俺は別世界から来たんだァ!とかイタイこと言ってると、周りの人はドン引きよ。まだアンタの年齢なら周りの人も理解してくれるでしょうけど、あと数年してからそんなコト言おうものなら、確実に黒歴史扱いで一生言われ続けるわよ』


 あー、中二病の文化はこっちの世界にもあるのかー…。


『でも納得いかないのは、そういうイタイこと言う奴らのことを人間達は妖精病って呼ぶのよ! 確かに力の強い聖職者や魔術師じゃなければ私達が見えないのだけど、それにしても妖精病ってありえなくない!? 超失礼だと思わない!!?』


「はいはい、落ち着け落ち着け…。どーどーどー」


『フンガーッ!』


 バカみたいに好戦的な妖精が俺の監視役って、マジ不安なのだが…。



『ふぅ、ちょっとヒートアップし過ぎたわ…。それはさておき、話を戻すけど…戻すけど…。……』


 訂正。バカみたいではなく、コイツはバカだ。


「確か、心配しなくても大丈夫、みたいな事を言ってたが……」


『あ、そうそうそれそれ! アナタ達の世界と違って、こちら側の世界はリソースが少ないからねぇ』


「リソース???」


『命を生み出す資源に限りがあってね。要するに、生まれてくるための条件がとてつもなく厳しいの。常に枯渇状態だから、誰かが死なない限り新たな命が生まれるコトすら出来ないのよ』


 つまり、母親が赤ちゃんに生まれてほしいと望むことは、誰かが代わりに死ぬことを願うということを意味してしまうのか…。

 うーむ、なんだか世知辛い世界だなぁ…。


『普通に生きていてもあまり実感出来ないのだけど、もう一つ厳しい条件があってね。未来に向かって生きようとする意思を放棄、つまり絶望して死にたいとか思ったりすると急激にリソースが減って、そのまま命が尽きちゃったりね……』


 うげー、それだと年末進行のデスマーチ中に会社で死にたい死にたい言ってた同僚は、皆バンバン死んでしまう。

 死にたいと考えるだけでホントに死ぬとか、物騒過ぎるだろう。


『もちろん、ちょっと気分が落ち込んだくらいでいきなりバタッと倒れるようなことはないし、人間達もこの仕組みを理解してるわ。親から子に生きようとする意思の大切さはしっかり教えてるし、この世界の人達は未来に夢を見て生きることを当然だと思っているわ』


 そう言われてしまうと、何だか複雑な気分だ。

 死にたいと願うだけで死んでしまう世界の人間は、前向きに今を生きている。

 俺がかつて暮らしていた世界はそんな不条理で死ぬことはないけど、この世界の住人ほど未来のことを考えて生きていただろうか……。


『だからと言って、全ての人が幸せを感じて生きているわけではないの。残念ながらクリスくんみたいな子も……ね』


 ロザリィが俺の目を見て悲しそうに呟くが、その目線は俺を通してクリスくんに語りかけているように見える。


「んで、結局この子はどうなったんだ?」


『リソースが尽きた後は天に召されて、創造神ラフィート様……つまりこっちの神様がちゃんと命の大切さを諭してから、生まれ変わるのを待ってる状態かな。たぶん10年以上は順番待ちになるだろうけど』


 ひえぇ…。俺がポンポンッ!と転生してこっちにやってきたことを考えると、前の世界は恵まれてたんだなぁ。


「でもそれだと、俺が割り込んで他に待つ人を追い越したことにならないか?」


『それもご心配なく! アナタの魂はちゃんとあっちの世界のリソースを使って作られたものだし、肉体なんて単なる入れ物だからこっちの世界に負担をかけることもない。安心してクリスくんの代わりに長生きしなさいっ』


 なんだか急にお姉さんぶった言い方になったけど、さっきのバカ評価を払拭するには至らないなぁ…。


「とにかく俺は気にせず生活して、非人道的な行動をしなければOKってことだな」


『ええ、私の手を煩わせるようなコトをしなけりゃ何でもアリよ!』


 そう言いながら両手を腰に当てて、エッヘン!とポーズを取る。


「あと、続きは明日にして、今日は寝ていい…? この体には夜更かしがキツ過ぎる…」


『あっ! ゴメンね! そっかー、子供だもんねぇ』


 子供の体はこういうトコ不便だなぁ。



 ガンガンガンガンッ!!

 けたたましくフライパンをぶっ叩く音が部屋に響く。


『朝~、朝だよ~。朝ご飯食べて、学校行くよ~』


「……おはよう」


 コイツが居るおかげで遅刻することは無さそうだ。目覚めは最悪だけども。

 台所のテーブルの上には…何もない。


「さすがに朝食までは準備してくれないかー…」


『どんだけ甘ったれてんのよ…』


 呆れ顔のロザリィを横目に洗面台に向かう。

 鏡の前に小さい布が置いてあるが、どうやらこれが歯磨きらしい。


「そういや歯ブラシが発明されたのは西暦1400年代だっけか…」


『そんな高級品、庶民は買えないわよ』


 医療レベル低いのに歯ブラシはあるのか…。

 やっぱこの世界、わけがわかんねぇな。



「ごちそうさまでしたっ、と」


『ゴチソサマ? 何だか面白い響きね』


「ああ、こっちの文化は食後に何も言わないのか。"いただきます"は普通に発音出来たけど、たぶん頂戴するという意味で変換されたか…ブツブツ」


『渡り人ってホント不思議。ふふっ』


 そう言うと目の前でクルクルと旋回する。


「ところで、お目付役をやるのは俺が初めてなのか?」


『初めてというか、渡り人がやってくると同時に私達は生まれて、過去の妖精達が蓄積した知識や知性を与えられるの。それで、監視対象が天寿を全うして亡くなると、リソースとして回収されて消えちゃうみたい』


「ホント世知辛いなぁ…。それにしても、生まれてすぐにそんだけフルに活動できるとか、妖精は万能過ぎるな…」


『お、私の凄さをやっと理解したのね。もっと誉めて良いのよっ』


 昨日に引き続き再びエッヘン!のポーズ。


「……妖精ってのは皆ロザリィみたいな感じなのか?」


『私みたいな感じ、ってどういう意味なのかしら…。でも、答えはノーよ。監視対象に合わせて調整されるらしいわね。他の子には会ったことないけど、ドMな坊やにはお色気ムンムンな女王様タイプが付くとか…』


「チェンジ!」


『なんですってぇっ!!!』


 逆上したロザリィに首を絞められて危ういところだったが、俺のギブアップに満足したのか、どうにか解放してくれた。


「そういえば、学校に行く時間をどうやって判断するんだ? この世界のどこにも時計が見当たらないんだけど…」


『私達はお日さまの位置とか気温でだいたい把握できるけど、人間達は街の中央にある大時計台を見ているみたいね』


 確かにクリスくんの記憶を思い出そうとするとそれっぽい景色があるが、かなり記憶が朧気おぼろげだ。

 この子はほとんど時計を見ないまま生活していたのだろうか……。


『あと、もうすぐ朝1回目の鐘が鳴るんだけどそれは始業10分前の鐘ね。もし家でその音を聞いちゃうと、子供の足にはツライと思……』


 カーン、カーン、カーン…。


 うん、そういうフラグを立てるような発言をされた時点で覚悟してたよ。



「ハァハァ…病み上がりに走らせるとか…ゼェ…ありえねぇ…」


 何週間も入院してたためか、そもそもクリスくんの体力がなさ過ぎるのか、驚く程スタミナが持たない。

 生前の運動不足な中年の身体の方がまだマシなくらいだ。


『さて、ここからは人目もあるし、しばらく黙っとくね。うっかり私に話しかけたりすると、周りから白い目で見られるかも…』


 おお、こわいこわい。

 というわけで校門前にやって来た。

 門の右上にコウモリの羽の生えたモノアイっぽいヤツがこっちを見てるのがめっちゃ気になるのだけど、レイアウト的に監視カメラとか登下校カウンターかな??


「オハヨウ! オハヨウ!」


 おお、喋った! なるほど挨拶マシンみたいなものか。

 "なんたらトレイン"みたいな円運動をすると、モノアイの目線が俺の動きに追従してくるのがムダに楽しいな。

 …って、危ない危ない。そんなことに時間使ってたら遅刻してしまう。


 それじゃいっちょ行ってみますか!!

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