028:王都探訪
ここは王都レヴィート。
この国の首都であり、城下町として栄えるこの国最大の都市だ。
俺にとってはルナピースを手に入れるために来た場所であり、セフィルにとっては故郷でもある。
「すごく…大きい…ね」
『大きいわね』
「…ツッコまないぞ」
俺のセリフにニヤリとするロザリィ。
この耳年増め!
そんなこんなでホース・マーク社に到着した。
「ここで一度馬車を降りて、迎えの馬車に乗り換えて城に向かうぞ。王子も準備をお願いします」
父に従って全員馬車から降りると、しばらくして迎えの馬車が来た。
来たのだが…前にホース・タンプ会長が乗っていた「下品な馬車」と同じタイプのデザインだった。
カラーリング、装飾品、デザインなどあらゆる要素が懲りすぎており、この馬車に乗るのが許されるのは、灰かぶりのお姫様くらいだろう。
俺の表情で内心を察したのか、セフィルが恥ずかしそうにしている。
「前までは特に気にならなかったのだがな…。この外装は酷いな…」
荒波に揉まれ、王子様は逞しくなりました。
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城内まで下品な馬車で移動し、降りた俺たちはそのまま父とセフィルの後ろをついて行く。
前の二人が堂々と歩くのに対し、俺とクレアは完全に「初めて都会に来た田舎者」状態に。
「すごい…綺麗な服…」
と、城に出入りする貴族の姿に目を奪われたり。
「すごい、あのカーテンは100万ボニーはくだらないな…」
と、歩きながら価格査定していったり。
俺のは職業病だから仕方ないんだよ!
まあ、端から見れば子供ふたりがキョロキョロしてるようにしか見えないだろうから問題無いだろう。
しばらく歩くと謁見の間に到着した。
広い部屋の中央には近衛兵や側近たちが並び、一番奥の玉座には国王イサラータ15世が鎮座していた。
歳はまだ四十代だろうか…となると、先代は若くして亡くなったのかもしれないな。
「父上、ただ今帰還しました」
セフィルがとんでもなく他人行儀な挨拶を済ませ、続けて父が国王に対して様式的な挨拶をしている。
俺とクレアについても、予定通り「セフィル王子が飽きるまでの遊び相手」として紹介してもらった。
「リュータスも御足労だったな……。それに、君たち二人も、我が息子の我が儘に付き合わせてしまい申し訳ない。今しばらく付きやっておくれ」
「勿体ないお言葉です…」
俺も形式的に返しておいた。
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『国王って言うからにはトランプのキングみたいなのをイメージしてたけど、何だか人の良いオジサマじゃないの』
「あれは人の良いとは言わん。お人好しと言うんだ」
セフィルに呼ばれた俺とクレアは、城の中央にある中庭に来ている。
「王たるもの民を信じることは大切だが、だからと言って全て信じて鵜呑みにすれば良いというものではないんだ。確かに優れた家臣にも恵まれる人格者ではあるのだが、一度悪党に目を付けられると今のような状況になる」
「セフィルが前に、王が聞く耳を持たない…と言っていたけど、どちらかというと家臣を信頼し過ぎて、悪意を認めたくないというのもあるかもなぁ。俺の前居た世界にも、自分の信じる者が否定された時に一切聞く耳を持たず、盲目的に信じ続ける奴らがたくさん居たからな。たぶんコレは世界に関係なく人類に共通してるんだと思うよ」
「私も…クリスくんのことを悪く言う相手は…嫌いになると思う」
溜め息をつく三人。
「どちらにしても、一度証拠の現場を見ておきたいのだけど、独房に忍び込むことは可能なのか?」
「残念ながら、確認できたのは一回きりなんだ。その後にコッソリ忍び込んだ時はドアだった場所が単なる壁になってたし、原理は分からないけど隠蔽する仕組みになっているみたいだ」
確かに、人権をガン無視で命を奪う実験場なんて、明らかになろうものなら関係者全員処刑確定コースだものな。
そんなドアを閉め忘れて王子に侵入されるなんて、敵の中には相当なうっかりさんが居るのかもしれない。
「とにかく、敵の尻尾を掴むために少しでも情報を集めよう。王子であるセフィルはともかくとして、俺とクレアは端から見れば単なる田舎の子供だ。城のコトを質問したところで、好奇心の強い子供にしか思われないだろう」
『まさか中身が30過ぎのおっさんとは誰も思わないよねぇ』
ケラケラ笑うロザリィとそれを睨む俺を見て、セフィルが感心している。
「それにしてもお前すげえな」
『ん? 私???』
「いや、クレアの方だ。いくら命の恩人で見た目が同い年だとしても、中身が自分の親と同じくらいの年齢だと分かってて、それでも惚れてんだろ? すげーなぁって」
セフィルの言葉に、俺の方をジーッと見て頬を染めるクレア。
「お子様には…分からない」
「同い年だろうが! つーかお前もお子様だ!!」
そしてジーッと俺を見ていたクレアの口元がニヤリとした。
『むしろ、コイツの方がスゴいわよ? 自分の娘くらいの歳の女の子に恋愛感情を抱いてんだから、どこからどう見ても犯罪よ!!』
「はっ!? そう言われてみれば!!」
「それを言うなァ! 内心めっちゃ気にしてるんだから!!」
改めて言われるとかなり困ってしまうが、転生というフィルターを外すと倫理的に大変マズイ構図になる。
「大丈夫…。ロザリィの記憶には…実の兄妹とか…男同士とか…凄い例がたくさんある。私たちなんて…序の口」
「ロザリィてめえ! 子供になんてモン見せてんだ!!」
『うっさいわね! お互いに自分のコトとして記憶しちゃってるから、防ぎようが無いのよ!』
なんて厄介な仕様だ…このままではクレアが!
『ちなみに夜の方も、知識だけはエキスパばばばばば!!』
「ばばばばば…」
さすがにそれ以上は言うなとクレアから妨害が入りました。
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一日目の夜。
さすがに王子の遊び相手だと言っても同室で寝泊まりするわけはなく、ちゃんとしたツインの客室が用意されていた。
ちなみに父は王子の側近なだけあって、ちゃんと一人部屋が用意されているそうだが、それは客用ではなく単身赴任者などの駐在員向けのものらしい。
「すごいお部屋…だね」
「全くだ。以前見た悪徳領主の屋敷も相当だと思ってたけど、比べものにならないなぁ」
内装から装飾品まで超ハイグレードとしか言えないシロモノで、俺たちみたいな田舎者には不釣り合いすぎること、この上ない。
「クレアから見て、この城はどう思う?」
我ながらずいぶんと大雑把な質問だと思うが、こういう時のクレアの感性はバカにできない。
「……お后様が…居なかった」
「!?」
そういえばそうだ。
謁見の間にあれだけ人が集まって、国王自ら王子の帰還を迎え入れながら、そこに母親の姿が無い……。
セフィルに確認しておきたいところだが、故人という可能性を考えると、微妙に気が重いなぁ。
俺の考えていることを察したクレアも、少し困った顔をしている。
「まあ、その時が来ればセフィル自身が話してくれるだろ。さあ、明日に備えてさっさと寝よう」
「そうだね…それじゃ、おやすみなさい…」
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「…マ……エマ…」
誰……?
「もう大丈夫だよ、エマ……」
おとうさん……!
「本当だ…。ぜんぜん痛くない…っ」
私の言葉を聞いた父が、泣きながら強く抱きしめてくる。
「ちょっと痛いーー」
「おお、ごめんよー」
そう言うと、父と娘は笑い合った。




