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026:王子・委員長の事情

 おはようございます!

 出発の朝だと言うのに、ロザリィのイタズラのせいでドキドキしている俺です!

 さっきからクレアに話しかけても上の空だし、やはり生まれ育ったこの街を離れるのは色々と考えることもあるのだろう。


「ごめんくださいー。ホース・タンプ社の者ですー。リュータス・エリアス様ご依頼の馬車1台、到着致しましたー」


 御者の呼ぶ声にそれぞれが荷物を持ち、立ち上がる。


「よし皆、出発するぞ!」


 父の声に従い、俺たちは馬車に乗り込んだ。



「はぁ…」


 さっきまではクレアの様子がおかしかったけど、今度はセフィルがため息をついている。


「城に戻るのが…イヤなの…?」


「セフィルがそんなことで落ち込むわけ無いだろ? どう考えても、委員長にお別れが出来なくて落ち込んでるに決まってる」


「おおおおおおお、お前は! …まあ、そうなんだけどさ」


 そう、結局のところ委員長は体調を崩してしまい、長いこと休んだまま最後まで会えずじまいだった。

 要するに、お年頃のボーイは初恋の子と離れるのが寂しいのだ。


「まあ、今生こんじょうの別れじゃないんだし、会いに来るのが難しいなら権力をフル活用して城に召集させれば良いんじゃね?」


「だからそういう呼び方はイカンと何度も…!」


「私は貴方の強制召集で何度も呼ばれておりますが…」


 すかさず父がツッコミを入れ、ぐむむ…と唸る王子様。


「治安のための遠征と、一途な恋愛を一緒にするな!」


「恋愛…。セフィルくん…委員長のこと…好きだと認めた…ニヤリ」

「ぎゃああああああああ!!!」


 頭を抱えて前に突っ伏す王子様に、御者さんも苦笑い。

 すみません、騒がしい馬車で…。



 しばらく馬車を走らせると、学校の前までやってきた。

 校門のモノアイが馬車に向かって視線を追従してくるのが面白い。

 そんな観察をしていると、見覚えのある人影が見えた。

 もしかして裏門の前に居るあの子は……?


 俺がそれを判断するよりも早く、セフィルが馬車から飛び降りた!


 慌てて御者が馬車を止め、父がセフィルを捕まえるために降りようとするが、俺とクレアがすかさずブロック!


「何をするかっ!?」


「ここは行かせてやってくれ!」


「お父様! お願いします!」


 俺だけでなくクレアまでも声を荒げる状況に、ただ事では無いと察した父は「ふむ…」と言いながらその場で胡座あぐらをかいた。


 裏門の前には、セフィルと委員長の姿があった。



「よ、よう!」

「こんにちは、セフィルくん」


 いつもの笑顔、いつもの委員長。


「あのさ、俺のこと…もう、知ってる…よな?」


「うん、王子様…。すごいなー、一目見るだけでも凄いことなのに、私なんて初対面で背中ツンツンしちゃったよー」


 王子様と知ってても自分をセフィルくんと呼んでくれるのが嬉しくて「ヘヘヘ…」と嬉し笑い。


「でも、今日でお別れなんだね…」


「ああ…。親父から帰ってこいって言われちゃってさ…」



 しばらく無言になる二人。



「私の夢…覚えてるかなぁ」


「当然だろう! 世界中を花でいっぱいにする! とても素敵な夢だ…」


「嬉しいなぁ」


「俺と…」


 一緒に…と言う言葉を伝える前に、委員長はうつむきながら口を開いた。


「セフィルくんがお城に帰っても…。私のコト…忘れないでほしいな…」



 決別の言葉。



 理由はどうであれ、委員長は「セフィルと違う道」を選んだ。

 それから長い沈黙が続き、セフィルが口を開いた。


「当たり前だ。俺は気に入った"家来"のコトは絶対忘れない。お前の夢を叶えるためなら、城の奴らを総動員してでも助けてやる!」


「もう、そういう乱暴なコトはしちゃダメだよ~」



 そう言って二人で笑い合ってから「じゃあな」「またね」と別れた。




 その後の馬車の空気は、それはもう最悪だった。


「俺、もう立ち直れねーよ……」


「初恋なんてそう上手くいくもんじゃねーから! なっ!」


「私は…クリスくんが初恋…」


「嬉しいけど、今はソレ言わないでくれるかな!?」


「委員長は天使だからな…。俺みたいな権力しか取り柄の無いダメ男が、そんな天使様を伴侶はんりょにしようとすることがそもそも烏滸おこがましかったんだ…」


 ……空気が重い。

 さすがにコレを弄る気にならないのか、父が居るから警戒しているのか、ロザリィもずっと無言だった。



 一日目の馬車終着地点は宿場町セサイ。


 前回来たときはクレアを救うために気が立っていたため、食事と就寝だけで済ませてすぐに馬車に乗り込んでしまったが、今回はセフィルの気分転換も兼ねて町を見てみよう。

 ……じゃないと、失恋ショックの余波で俺たちまでダウンしてしまう。


「じゃあ父さん、クレアとセフィルを連れて町を見てくるよ」


「ああ、あまり遅くならないようにな」


 父は王子の気分転換も兼ねていると察してくれたようだ。


「二人とも行くぞ!」



「別に観光なんて興味ねーんだけど…」


 セフィルが不満そうにぼやく。


「ここでお前が買うのは、委員長に似合いそうなアクセサリと便箋びんせんだ」

「!?」


「委員長は別にお前を嫌いとフッたわけではなく、城に行く意志が無いことを表明しただけだろ? 今あの街を離れるわけにはいかない事情があるのかもしれないし、そもそも親を置いて娘一人で行くのは難しいんじゃないかな? 王子であるお前に来いと言われたら逆らうわけにもいかないし、それを防ぐためにあらかじめ布石ふせきを打ったのかもしれないぞ?」


 まあ、あくまで仮説なんだけど。


「だったら、諦めずに手紙なり贈り物なりでお前の意志を伝え続ければ良いだろ? それとも、お前の委員長への想いは一回フラれて諦める程度だったのか?」


 さてさて、どう反応するかな。


「…………そうか、そうだよな! そもそも王子である俺様がフラれる時点で、何かの事情があると考えるべきだったな!!」


 えーっと、それはちょっと違うと思うんだけど。


『この男、さらっと権力を振りかざしたわよ』


「さすが…ワガママ王子の名は…伊達じゃない」


 ロザリィとクレアが冷静に突っ込むものの、熱い想いにたぎる王子様の耳には届かないようだ。

 でもまあ、元気になって良かった良かった。



 そして、移動二日目に立ち寄ったリースの町でのこと。


「バカかおめーは! 偽物に決まってんだろうが!!」


「オリハルコンだよオリハルコン! 成分分析にかけてみたいと思うのがロマンだよ! わはははーっ」


「たぶん、そのいしは キャルコパイライト じゃないかなー?」


 あの特徴的なしゃべり方の3人組はもしかして…!

 俺が近づこうとしたところで、その中の一人がこちらに気づいた。 


「クリスくんじゃないか!」

「よう! 久しぶりだな」

「やっほー、げんきー?」


 なんと、W3…もとい、新川さん達3人とバッタリ遭遇したのだ。

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