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023:正義の味方、参上!

 セフィルが転校してきて早十日。

 ついに今日から午後の魔法実習にセフィルも参加することになった。


「そういやセフィルって何属性?」


「ふっふっふ……これが俺様だっ!」


 バッ!と俺の目の前に出されたカードは……サンダーシンボルだ!!


「雷属性か! 俺の地属性は皆から万能だって言われるけど、やっぱ火とか雷でドカーン!って憧れるよ」


「おっ、さすがクリスは分かってるな! 日常生活で使い道が無いと分かっていても、電撃や火炎には夢があるよな!」

 俺とセフィルが同時にウンウンと頷く。


「試しに一発撃ってみてくれよ!」

「おう、いいぜ!」


 セフィルが詠唱を始めると、周りにスパークが散り始めた。

 雷属性は詠唱中もカッコイイのか!


「ライトニングボルト!!」


 セフィルの手から電撃が走り、空中に向かって拡散していく。


「うおおおお! かっけぇ!!」

「ふははははははっ! ちなみに家来に使ったら親父にクソ怒られたけどな!!」


 盛り上がる男子二人と…


『どっちもお子様ねぇ…』

「可愛い…ね」


 まったり眺めるクレアたち。

 のんびりした昼下がりだ。



「花よ花よ、荒れた大地を癒したまえ…グロー!」


 委員長が呪文を唱えると、花壇からポンポンポンポンッと双葉や花が出てきた。


「こ、これは!? クスノキに住んでる森の主が畑で踊ったアレだ!!」


「意味わかんねーよ! それにしても、やはりあの子は天使だ…。美しい…」


「あれも…地属性だね。やっぱり…便利」


 俺たち三人が感想を言っていることに気づいた委員長が、照れながら近づいてきた。


「えへへ…。昔からお花を育てるのが好きだったから、ついついこのスキル覚えちゃったんだ~。子供っぽいかなぁー、とは思うんだけどね~」


「そんなことは無い! とても素晴らしいことだと思うぞ!」


「そ、そうかな? 街中をお花でいっぱいにするのが私の夢なんだ~」


「それは素敵な夢だ。街だけと言わず国中、むしろ世界中いっぱいに!」


「世界中お花でいっぱいか~、いいなぁ~」


「微力ながら俺も協力するからな!」


「え、ホント!? ありがとう~」



「お前、委員長にぞっこんなのは良いけど、いつか城に帰る時にムリヤリ連れて帰ったりするなよ?」


「馬鹿者! あのような可憐な子にそんな無礼な事が出来るものか!」


『アンタ初対面の私に対してめかけにしてやるとか言ってたくせに、調子乗ってるとブッとばすわよ?』

「ひぃっ! あのときは本当に悪かったよ!」


 というわけで、いつもの帰り道。

 実は委員長も帰りが同じ方向なので一緒に帰ろうかと誘ったのだけど、残念ながら用事があるらしく、今回はお流れになった。


「ん? あの騒ぎは何だろ??」


 領主の館の周りに人だかりが出来ており、その中心には羽交い締めにされた男が居た。


「この領主は…! 特定の業者と癒着し、私欲を肥やしている! こんな不正をっ! …ええい離せ!! 許してはならないぃ!!」


 なるほど、告発かー。


『無謀ねぇ。ああいうのは信頼できる権力者と協力してやらないと、適当に罪をでっち上げて消されちゃうわよ』

「……っ!!」


 ロザリィの言葉にセフィルがやけに反応したな…。


「皆の者、このようなならず者の言うことを信じてはならぬ! むしろ、この者は我が屋敷に忍び込み、盗みを働こうとしたのだ!」


 羽交い締めにされたまま屋敷から引きずり出されたみたいだから、忍び込んだのは事実なのだろう。


「領主の屋敷に盗みに入るなど、万死に値する! 今この場で切り捨ててしまえ!!」


 領主の指示に従い、警備兵の一人が剣を構えた。

 おいおい、こんな面前で処刑とかマジかよ!?

 そして剣を振り下ろそうと構えると…


「パライズショット!!」


 セフィルのスキルが発動し、警備兵は剣を握ったままその場に倒れ込んだ。

 雷属性には対人麻痺魔法もあるのか。


「な、なな!? なんだ貴様ァァァ!!!」


 怒り狂う領主に向かってセフィルが一歩踏み出した。


「我が名はセフィル! 民の為の防衛遠征隊、隊長。雷撃のセフィルだ!!」


 ……え? 民の…なんだって?


「遅かったか……」


 横を見ると、いつの間にか父が立っていた。


「と、父さん!?」


「やれやれ…。アレには散々苦労させられたんだ…」


 つまり、クリスくんの父親は、セフィルのアレに付き合わされて1年も遠征していたということなのか…。

 父と一緒に眺めていると、セフィルがビシィッ!と指を差した。


「そこの男! 貴様はこの領主が悪を働いたと言うが、その証拠を述べよ!」

「えっ…」


 そのまま固まる告発人。

 危う処刑されそうになったところに男の子が突然出てきて、自分を切ろうとした相手に麻痺スキルぶっ放した挙げ句、そいつが自分に話しかけてきたら、そりゃ困惑するよね…。


「これだけの騒ぎを起こしたのだから証拠ぐらい見つけているのだろうな!!」

「はっ、はぃぃ!!」


 そう言って男がポケットにクシャクシャに丸めた紙をセフィルに手渡す。

 わめいている領主を無視してその内容を見ると、賄賂わいろのやり取りがハッキリと書かれていた。

 なんでまた、そんな致命的な証拠品を残したままにするんだろうなぁ…。


「そ、そんなものは偽物だ!!」


「偽物かどうかは調べれば分かることだ。それに真偽を決めるのは貴様ではない!」

 今度は領主にビシィッ!と指を差すセフィル。

「おのれ小童こわっぱ…。領主のワシに楯突いておいて、ただで済むと思うなよ…」


 悪党らしいセリフだなー…と思って様子を見ていると、父がセフィルの横に移動した。

 何やら小声で「やれ」「ですが…」「ここでやらずして…」などと聞こえた後、父が嫌そうな顔をしながら懐から紋章を取り出した。

 あれは…王家の……?



が高い!控えおろう!!」



 ……は?


「ここにおわす御方をどなたと心得る! 第三王子セフィル様であらせられるぞ!!」


 父の言葉と迫力に圧され、民衆達は一斉に地に膝を付けた。

 平民が無断で王家の名をかたろうものなら、有無を言わさず不敬罪ふけいざいで一発死刑となるため、たとえ小さな子供でも王族をかたるような真似はしない。

 しかし、明らかに身分の高い勲章を付けた武人ぶじんが、身なりの良い男の子の横に立って王家の紋章を掲げたのだから、この二人が本物かどうかは火を見るより明らかだった。


「ア、アワ、アワワワワワワワ…」


 そして領主は泡を吹きながら前のめりに倒れた。

 どうやらショックで失神してしまったらしい。

 告発した人も、王子に助けられたという現実味の無さに震えている。


 確かに、タメ語や罵詈雑言で一国の王子に接する俺たちがおかしいだけで、ふつうの民衆の反応はこれが普通なのかもしれない。


「そなたのおかげで民衆を苦しめる悪い領主を懲らしめることが出来た。礼言うぞ!」

 そして仁王立ちになると…



「これにて、一件落着!」



 待て! それは違う人だ!!



 海沿いの田舎街にセフィル第三王子が来たというだけでも大ニュースなのに、その王子が悪徳領主を懲らしめたという事実は、そりゃもう衝撃的だった。

 これだけ騒ぎになれば、いくら何でも王家が動くだろう。


 ……それはつまり、セフィルがここに居られる時間も残りわずかということ。


「いやー、ついついやっちまったー。でもやっぱ楽しいなっ」

 当の王子様はとっても満足そうである。


『やっちまったじゃないわよ。アンタ確実に城に連れ戻されるわよ?』


「おっ、やっぱ俺が居なくなるのは寂しいのかー?」


 懲りない王子の脳天にロザリィのチョップが突き刺さった。


「ってえなぁ! 街の連中は俺を見てめっちゃビビってたのに、お前ら何なんだよ!」


『最初に作られた印象と上下関係を後からくつがえすのは難しいのよ』

「俺が下ってコトか!?」


 コイツらの漫才も見納めだと思うと少し寂しいな…。


「それよりもお前、父さんに何やらせてんだよ…。つーか、あの口上こうじょうは誰から聞いたんだ…」


「ああ、アレか。カッコイイだろ? 俺が幼い頃に城下に劇団がやってきてな。あまりにも繰り返し見過ぎて、ポーズやセリフを丸暗記してしまったくらいだ」


 まさか御隠居まで輸入してしまうとは、渡り人おそるべし…。

 でも、わざわざ異世界で劇をやろうと思うくらいやる気があるのに、締めの言葉がまさかの遠山桜の人とは…。


 そもそも助さん角さんが一人二役とか、ファンから石投げられるぞ。



 次の日、学校にて。

 当然ながらセフィルが王子だと言うことは校内に知れ渡っており、周りから微妙な視線を感じる。


 今のセフィルの表情は……生前の「俺」が新人だった頃の、不自然な営業スマイルにそっくりだ。

 お客さんと話すために作り笑顔はするけど、内心は怖くて怖くて、自分の知らないことを聞かれたらどうしよう、怒られたらどうしよう、失敗したらどうしよう、そんなコトばかりが頭をグルグルしているような、そんな顔。

 つまり不安でたまらないのだ。


「なあセフィル」

「なんだよ…」


「お前、委員長がどう接してくるか不安なんだろ」

「っ!!!!」


 めっちゃ睨まれた。


「別に大丈夫だろ。アレは我らが天使様だぞ?」


 あっけらかんと言う俺に、目が点になるセフィル。


「そうか…そうだよな!」


 ようやくいつものイタズラ好きなクソガキの笑顔になった。

 うんうん、子供はそれでいい。



しかしその日、委員長は学校に来なかった。


次の日も。


その次の日も……。

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