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021:委員長は天使さま

前回のあらすじ

 父を訊ねてやってきたクソガキの正体が王子様だったよ!



「しかし、一人で此処ここまで来たのも驚きですが、どうやって城を抜け出したのですか?」


 相手が王族だけあって、さすがの父も丁寧語で話しているが、当の王子はと言うと…


「そんなことはどうでも良いだろう。しばらくこの家に厄介になろうと思ってな」

 とか言う始末。


「『……ちっ…』」


 えっ!? 今の舌打ちはクレア? ロザリィ? どっちだ…???


「お父様だけならまだしも…余計な邪魔者が…」

 おいおい邪魔者って……。


 どちらかというとクレアの方が不満に感じているようだ。

 それにしても、恋に燃える乙女は容赦が無いなぁ……。


「ですが王子……!」


「それに俺は王子と言っても、王位継承なんぞ興味無いしな。兵を引き連れて旅に出ても誰も困らなかったのだから、俺が一人で旅に出ても大差なんて無いだろう?」

「うぅむ……」


 立場上、帰れと強要できないためか、父は困り果ててしまった。


『アンタ、やっぱり反省が足りないようね。一発シメておかないと学習できないのかしら……?』


 おお、いきなりロザリィ無双か。


「くっ、いきなりキレんな! だが、これだけは譲らんぞ! このまま俺が居ることをバラしたら、リュータスに誘拐されたと供述してやるからな!」


「あっ、きったねー! 王子のくせにやり方がセコいぞ!」


「うるせー! 俺は決めたことは最後まで通す主義なんだよ!!」


『ホーリーシィィィ…』

「ひひぃぇぇ!!」


 ロザリィが目を光らせながら王子にジリジリと迫る。


「仕方ありませんね……」

 父は溜め息をつくと、立ち上がった。


「私からは王国へ連絡はしませんし、我が家で寝泊まりするのも結構です。ただし、捜索隊に見つかったり、街で王子を知る者が帰還を促した場合はそれに従ってください」


「それでよい。十分だ」


「ただし、一国の王子とあろう者が何もせずに日々自堕落に暮らすなんて言語道断! 私から話を付けますので、クリスとクレアと共に学校に通って頂きますぞ!」


「「「えー…」」」

「えー、ではありません!」


 そんなこんなで我が家でワガママ王子様をかくまうことになってしまった。

 それにしても、王子が行方不明となると大捜査網が敷かれると思うのだが、どうやって逃げ切るつもりなのだろうか?



「実は我が家には部屋が3つしかありません。王子にはどの部屋をお使い頂くべきか悩ましいところです……」


 父はしばらく腕を組んで悩んでいたが、何か思い立ったらしく俺の方を向いた。


「よし、ならば私とクリスが同室でーー」

「お父様っ…!!」


 結論を遮るようにクレアが勢いよく立ち上がる。


「私と…クリスくんを同室で…お願いします」


 わあ、大胆!


「いや…でもな。お前たちを信用しているが、若い男女が…」

「お願い…します」


 凄まじい気迫だ…。


「わ、わかった…お前たちを信じよう…」


 すごい、押し切っちゃったよ!!



 それから父は、王子が学校に通うための手続きをするために出て行ってしまった。

 家に3人残されたものの、一体どうしたものやら……。


「セフィル王子…」

 突然クレアに呼びかけられてビクッと反応する王子。


「な、なんだよ!」


「生まれて初めて…貴方に感謝の念を抱きました…!」

「言いたいことは分かるが、微妙に失礼なヤツだなお前!」



 ツギノヒー。

「えー、今日からこのクラスに新しい仲間が、えー、増えることになりました。えー」


 担任の言葉に男子たちが「ウヒョー!」とか「可愛い子だと良いな!」とか盛り上がってるけど、残念ながら転校生はクソ生意気な男子です。


「えー、入ってきたまえー」


 そして入って来た姿を見た瞬間、一気に男子連中は葬式ムードに。

 一方で今度は女子達が大盛り上がりだ。

 そんな中、転校生はボソッと…


「良かった…アイツは別のクラスか…」


 どんだけロザリィが苦手なんだよお前。


「えー、転校生のー、セフィル君だー。えー、みんな仲良くするようになー。えー、君はそこの席に座りなさいー」


 先生が独特な言い方でうながすと、セフィルは静かに席に着く。

 その後ろの席にいる委員長がセフィルの背中をツンツンッと突っつくと、ビクッ!とオーバーな反応をしてビビっている。


 アイツ、もしかして完全に女子が苦手になってしまったのでは…?

 王子様がアッー!とか、薄い本が厚くなってしまう売れ筋要素だが、これから一緒に暮らす者としては、そういうアブノーマルな性癖は持たないでほしいと切に願う。


「な、なんだよ?」


「転校してきたばかりで不安だと思うけど、困ったことがあれば何でも聞いてね? きっと仲良くなれるよっ。セフィルくんって呼んでいいかな?」


 委員長スマイル発動!


「あ、ああ…。ああ………」



「あの子は………天使なのか」


 午後の合同魔法実習中も上の空の王子様。

 厳密には、セフィルは今のところ午前のみの授業参加で、午後は暇潰しに眺めているだけである。


「王宮で様々な女を見てきたが、あれほど美しい娘は初めてだ…」


 いや、ロザリィのせいで女恐怖症になったところに、優しくされて感覚が麻痺してるだけだと思う。

 まあ、委員長が天使であるのは紛れもない事実なのだけど。


「おしとやかな女は素晴らしい!」


 幸い王子様は腐の道に進むことなく、新たな趣向に目覚めたようだ。


「私も…おしとやか…」


「貴様はミステリアスなだけだろうが!」

「むぅ…」


 そんな王子様とクレアの漫才を横目に見ながら、俺は新しい魔法の実験中。

 そのスキルの名はレベリング! ……要するに地均じならしだ。


 地面のコンディションを好きにいじれるので、石畳を敷く前の基礎工事をはじめ、畑を耕したりもできるうえ、その応用で地面に出っ張った岩を砕くコトもできるらしい。

 地属性魔法が重宝がられる理由はその汎用性にあり、安全かつスピーディに土木作業が行えるのが利点だ。

 つまり、この世界における建設業とは地属性魔術師ギルドそのものであり、評判の良い建設業者は腕の良い地属性魔術師を多く雇用している。


 実はクレアを救うために様々な企業に対して営業を行っていた時に、どうしても建設業へのアプローチだけがどうにも上手く行かなくて悩んでいたのだが、自らが地属性魔法を使うようになり、ようやく理由が分かった。

 前の世界での建設業に対する営業活動は、主に「安全対策」と「セキュリティ対策」が話の中心になるのだけど、この世界ではセキュリティの概念が全く根付いていないため、必然的に安全対策の話を振ることになってしまう。


 ところが、作業員達が安全な場所から作業できる魔法が存在するこの世界では、そんな需要が全く無かったわけで…。

 そりゃ提案アイデアがズレてたら売れないよなぁ。。


 それに、いつかは地属性魔法を使ってバレル炭坑の再開発支援や、亡くなったクレアの両親を探せたら…と個人的には思っている。

 さすがにこの事はクレアには内緒にしているし、仮に今すぐに実現して両親の遺体を発見できたとしても、今の彼女にその現実は重すぎるだろう。

 いずれ新川さん達が新型爆薬の開発に成功し、バレル炭鉱が復興した時は、きっと俺とクレアはそこへ向かうことになるはずだ。


 いつか来るその日のため、俺はレベリングを覚えておこうと思ったんだ。

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