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020:新キャラ登場!

 人差し指と中指でカードを挟み、意識をそこに集中させる。

 カードに描かれた地属性の紋章が光り輝したら、これから使おうとしているスキルの効果を強くイメージする。

 地面の砂が渦を巻いて空中でまとまったところで、すかさず呪文を唱えて発現させる!


「サンドブラスト!!」


 ババババババッ!!

 砂粒が凄まじい勢いでターゲットに命中し、青かった生地の表面が白く擦れる。


「よし! これは使えるぞっ!」

『アンタ何やってんの…?』


 ロザリィが呆れ顔で話しかけてきた。


「ああ、地属性魔法にサンドブラストの名前があったからダメージジーンズを思い出してな。実際やってみたらマジで出来てビックリした!」


 どうやらこの世界にジーンズは無いようなのだが、それっぽい藍染め生地を見つけたので実験してみたところ、見事に表面加工に成功した。

 ひとつ問題があるとすれば…


「生地が…勿体ない…」


 この世界にはヴィンテージ加工の概念も無かったことだろうか。



「ふつうに生活するうえで、魔法の使い道には微妙に困るな。もぐもぐ……」


 現在午後12時、グラウンドの隅の木の下でクレアと一緒にお弁当タイムだ。

 午後の魔法実習が始まってからは各々にお弁当を持参し、昼食が終わってから授業を受けることになっている。


「聖属性は…誰かを護ったり…傷ついた人を治癒するために使うもの…機会が無いほうがいい…もぐもぐ」


「個人的には石の名前が分かるヤツが地味に面白そうだと思う。魔法の名前が思い出せないけど」


『エレメントサーチね…。やたら中二病臭い名前なんだから覚えなさいよ』


「ふむ…もぐもぐ、ごくっ。よし!」


 ご飯を飲み込んだ俺は立ち上がり、教科書を片手に詠唱してみた。


「エレメントサーチ!」

「ひゃあっ!?」


 ターゲットはクレアの髪飾りの装飾石!

 クレアが珍しく面白い声を出したので別の意味で満足しているが、目の前に浮かんでいる文字は……「クリスタル」。


「さすがに今度は月の石じゃなかったか」

「………」


『そんなことよりもアンタ、この子めっちゃ怒ってるから謝ったほうがいいわよ?』



「やっぱり魔法は使い道が難しいな……」


「どちらにしても…女の子の頭に向かって地属性魔法は…無い。………無い」


 大事なことなので二度言いました。

 帰り道でも、まだ微妙にクレアが不機嫌なのが怖い。

 どうしたものか…。


『そんなときは、何か甘いものを与えるが吉と出ているわ』


「それはお前が食べたいだけだろう…。つーか、なんで俺の考えてること分かるんだよ」


『アンタさっきからチラッチラッ見てるから態度でバレバレよ…。ちなみにこの子も、どうやって仲直りしようかと悩んででででで』

「ででででで…」


 おお、自分で頬をつねっている…。


「……甘いもの」

「?」


「……甘いもの、おごってくれたら…許す」



『なんでアンタが一番満足そうな顔してんのよ…』


「クレアと仲直り出来たし、パフェも美味いし、これぞ幸せだ」

「幸せ、幸せ…ほくほく」


 この世界の食べ物は前の世界に比べて大味…というか日本人にあまり向いてない味付けのものが多いのだけど、何故かお菓子やらスイーツやらは妙に好みのものが多かったりする。

 もしかするとパディシエの渡り人がやってきて、この世界のスイーツ業界にイノベーションを起こしたのかもしれない。


 ……あれ? それはつまり、パティシエ業界が過労死するレベルのブラッ……いや、深く考えないことにしよう、このパフェを純粋な気持ちで食べられなくなる。


「そもそも俺は甘党なんだよ。白玉粉と粒餡つぶあんで白玉ぜんざい自作して、どんぶりで食ったりしてたな」


『オェ…。聞くだけで胸焼けしそうだわ…』


「そういや甘口抹茶小倉スパも平気だったな。友人連中は全員遭難してたけど」


「オグラ…遭難…???」


 さすがにその辺の知識はロザリィにも無かったためか、クレアが困惑している。


「まあ気にするな、前の世界には勇者しか登れない山があったって話だ」


『えっ、いつの間に登山の話になったの!?』


 そんな感じでまったりと過ごしていたのだが…



「ハアァ!? カネ持ってねえだと!!?」



 辺りに店長の怒鳴り声が響いた。


「そういうコトは食う前に言いやがれ!!」


 店長が口論している相手は…俺たちと同い年くらいの少年だった。

 身なりは良いのだが、飯代を払う能力も無いということは没落貴族か何かだろうか。

 さすが異世界だなぁ。


「なんだと貴様! この俺に無礼な…っておい! 待て! 話くらい…!」


 とか何とか思っていると、腕を捕まれて引きずられていく。


「あーあ、こりゃ自警団に突き出されるなー。食い逃げで捕まるとは難儀なこって」

「じー……」


 めっちゃクレアが俺を見てるんですが。


『アンタはああいうのに首を突っ込んで助けるタイプだと思ってたんだけど』

「正義の…味方」


 ったく、しゃーねぇなぁ!!


 結局、俺が代わりに払いました。



「ちっ! クソ店主め! いつかあの店ぶっ潰してやる!」


 さすがにあのまま居続けるのは気まずかったため、3人で店を出て中央広場にやってきたが、本当にコイツ助けて良かったのだろうか???


「だが、庶民に借りを作ったままというのもしゃくだな。これをくれてやる」

 そういってポケットから赤い石を出す少年。


「んー…………エレメントサーチ!!」

「うわっ!?」


 このクソガキの手の上の石に向かって照射!!


「クリスくん…まだ反省してない…の?」

「野郎に撃つくらいは許してくれよ…」


 そして鑑定結果は…カーバンクル???


「カーバンクルって何? カレー好きなの?」

『ぐぐっぐー…じゃなくて。燃える石炭って呼ばれてる赤い石で、火属性の魔法使いがアミュレットにして使う増幅器ブースターね。物々交換なんてしなくても、コレを売ればしばらくは生活に困らないと思うのだけど?』


「んじゃ、後でおっちゃんに買い取ってもらうか。それでメシ代を返してくれ」


「分かった。庶民はそうやってお金を得るのか…」


 貴族は働いたら負けみたいな話しを聞いたことあるから、この少年もそんな感じなんだろう。

 まあ、俺もこの世界に来るまでは家具を店に持ち込んで売るような経験をしたことなんて無かったから、人のことは言えないしな。


「そういえばお前、見ない顔だけど旅人か?」


「人を探していてな。神都ポートリアに暮らしていると聞いていたから、馬車を乗り継いでここまで来た」


 没落貴族が知り合いを探して放浪とか、まさしく異世界だなぁ。


「そやつの名をリュータス・エリアスというのだが…」

 ぐっはー……。


「お父様…だね…」

 コイツをうちに連れて帰らにゃならんのか…。



「なんだ、お前はリュータスの息子だったのか! ハハハ!!」


 俺が息子だと分かるや否や、いきなり馴れ馴れしくなった。

 となるとコイツは没落貴族ではなく、遠征中に世話をした貴族の息子とかそんなところだろうか。

 親と喧嘩して飛び出しちゃったパターンだとすると、さっさと保護者に連絡して迎えに来てもらわねばなるまい。


「それにしてもお前、女のくせに随分と利口ではないか!」

『女の…くせに?』


 あれ? 今、クレアっぽい喋り方だったけど、言葉のアクセントが少し違ったような……?


「その知識、俺様の下で活かしてみないか? そうだな、めかけにしてやってもいいぞ? こんなド田舎で暮らすよりも豪華な生活ができるぞ! ハハハハ!」


 そう言って馴れ馴れしくクレアの肩に手をかける。

 さすがの俺もムカついたので文句の一つでも言おうと思ったら…


『ホーリーシールド!!!』


 クレア…というかロザリィが呪文を唱えた直後、生意気なガキが宙を舞い、近くの牧場の麦稈ばっかんに頭から突っ込んだ。

 あのスキルって、プリーストが貞操を守るため暴漢に対して使ったり、悪霊を追い払う時に使うものだったと思うのだが、普通あんなに人が吹っ飛ぶものなのだろうか……。


 それに、シールドの「ル」がほとんど聞き取れないくらい小さい声で、「ド」が濁点が付いてるのか付いてないのか微妙な発音だった気がする…。


 ホーリーシッ…いや、いくらロザリィでもまさかそんな下品な…。


「なななななっ!? 何をする無礼者!!」


『無礼なのはアンタの方でしょ。私を妾にするなんざ100万年早いわ。身の程を知りなさい?』


「何だと!!」


『ホーリーライト!』


 起き上がろうとした男の子の足下に超高速の光の弾丸が撃ち込まれ、地面に穴が開いた。

 ホーリーライトって、非力なプリーストが相手に対して打撃程度のダメージを与えるための攻撃スキルのはずなのに、なんで地面に弾痕が……。


 さすがに恐怖で腰が抜けてしまったらしく、男の子は立ち上がれなくなってしまった。

 そして倒れた男の子を蔑みの目で見下す姿は、まさに女王様の風格。

 一部のニーズを凄く満たしそうではあるものの、俺の趣味ではないな…。


「おおおお、お前っ! こんなコトして、た、たたっ、ただで済むと思うなよ!」


『ほーら出た! そうやって、親の権力とコネ使って相手より優位に立とうとする小者っぷり! その腐った根性、叩き直してあげるわ! フェアリィ…』

「やめんかっ!!」


 ロザリィの脳天に軽くチョップをかましてブレーキをかける。


『せっかくイイところだったのに、邪魔しないでよっ』


「さすがにやりすぎだ! めっちゃ怯えてるじゃないか」


 先ほどまで生意気だったおガキ様は、今や俺の後ろに隠れてブルブル震えている始末。


「それに最後のアレ、何を使うつもりだった?」


 ジト目で睨むと、口笛吹きながらそっぽ向くロザリィ。

 フェアリィ…とか聞こえたし、アレはどう考えても妖精専用の攻撃スキルだろう。

 人には使うなと言っておきながら自分が真っ先に暴走とか、なんてヤツだ!


「なので…以後気をつけなさい……」


 クレアが優しそうな顔で諭す。


「怖ええぇぇ! 女怖ぇぇぇ!!」


 少年にはトラウマになってしまったようだ…。



 家に着いたものの、父は出かけているようだ。


「書き置きも無いし、すぐに帰ってくるだろ」


「じゃあ…お茶入れてくる…ね」

 クレアがトトトトッと早足で台所に向かう。


「……なあ?」

「?」


「さっきと雰囲気違いすぎじゃね??? まるで別人みたいなんだが」

 そりゃ別人だからね。


「怒らせるとああなるから、気を付けろ」


「マジかよ…。怖すぎるだろ…」


「いや、静かに怒ってるときの方が100万倍怖いから…」


「お前も苦労してるんだなぁ…」


「聞こえてる…よ?」

「「ひいぃっ!」」



「ただいま戻った!」


 お、やっと父が帰ってきた。


「おかえりなさい。父さんにお客さんだよ」


「む、我が家に客人とは珍しいな。どちら……さま…」


「久しぶりだなリュータス。また世話になるぞ」


 男の子を見て固まる父。


「せ、セフィル王子!! どうしてここに!?」


 あー、そういう王道展開っすか……。

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