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019:ようこそマジカル・スクールへ

 と、い、う、わ、け、で!!


「ついにやってきたぞこの日がァァァァ!!!」

「うおぉぉぉぉ!!!」

「うっしゃああああぁぁ!!!」


 超ハイテンションな男子生徒たち。


「ふふ、みんな元気だね」

「やっぱりクリスくん、前よりも明るいままだねー」

「楽しそう…だね…」


 その近くで騒がしい男子連中を微笑ましげに眺める女子たち。


 そりゃテンションも最高潮になるさ!

 なんと言っても今日から魔法の授業が始まるのだ。


 異世界モノのセオリーなら、転生した直後にミラクルパワーでモンスターをぶっ飛ばしたり、チート能力が発現したりするのだけど、一切そんなコトも無いまま半年以上も待った!

 でも、今日から魔法が使えるようになるのだから、そりゃ期待するよね!


「静粛に!!」


 先生の声でシンと静まりかえる。

 そんな俺たちの前に現れた先生の姿は、なんとトンガリ帽子に黒ローブ姿!

 すごい! すごいすごいすごいすごい!!

 まさに黒魔導師だ!!


 さらに、先生の顔の前に円錐えんすいの膜のようなものが現れ「あー、あー、テステス…」と呟く。

 すげえな、拡声器まで魔法なのかよ……。


「君たちは前学年の3学期に一通りの魔法理論を学びました! 上級生となった今日からは午前の普通授業に続いて、午後より魔法実習を行います! この授業は全クラス合同で行いますが、それは万が一に事故が発生したときに教員全員で対応するためです! 魔法は我々の日常に欠かせないものですが、使い方を誤ると非常に危険です! 決してふざけたりしないよう心掛けて行動しなさい! 以上!!」



 先生の注意説明が終わり、続いて魔法属性検査を行うための列に並ぶ。

 どうやらこの世界の魔法は、火やら雷やらを自由に呼び出せるわけではなく、自分に適合する属性だけを呼び出す仕組みらしい。

 なので火属性の人は「生涯にわたり水属性魔法を使うことが出来ない」など、一般的なファンタジーに比べてかなりヘヴィな仕様になっている。

 まるで水不足での取水制限みたいだが、その辺もリソース不足が原因なのかもしれない。


 だがそれでもいい、魔法が使えるというだけでも個人的には大満足だ。


「この世界の授業は午前だけでチョロいと思ってたけど。クレアが午後のデートが無理って言ってたのは、これのコトだったんだなぁ」


「"よい子のたより"に書いてあったけど…ね」


 学年全クラス合同実習ということで、クラスの違うクレアと一緒に授業を受けられるのがありがたい。

 クレアと一緒に居られる時間が増えるというのもあるが、やはり「ロザリィを目の届く範囲で見張ることが出来る」ということが重要だ。


 クレアの膨大な魔力について、ロザリィが「私がしっかり管理するから」とか言っていたのだが、ヤツは他の妖精にすら喧嘩腰で接するほどのヤンキー担当だ。

 人間の常識ではなく「妖精の常識」を基準に、いきなり魔法属性検査で測定器を破壊するほどのパワーを叩き出して騒ぎになる予感しかしない。


「ロザリィ、分かっていると思うが、人間の常識を基準にやれよ…」


『わーってるわよ。ココでいきなりバカみたいに高い値を出して騒ぎになるなんて、この手の話のパターンじゃない』


 おおおお! そういえばコイツ、妙にサブカルの知識があるんだったな。


『でも、天下一ホニャララで測定マシンをぶっ飛ばすあのシーン、憧れるのよねぇ…』

「やめれ!!」



「はい、次はクリス・エリアスくん。そこに立ってください」


 指定された先には魔法陣が描かれた大きな正方形のシートが敷かれている。

 円の直径は2m程あり、手書きかと思いきや高精度の印刷のようだ。

 2mの大判印刷を繋ぎ目も無しだなんて、現代の技術でもかなり難しいぞ…。


 しかも近くで見ても全然ドットが見えない。

 最低でも600dpi以上はあると思うのだけど、どうなってるんだ?

 一体どうやってこの精度の印刷を…。


「えーっと、クリスくん?」

「あ、はいっ。すみませんっ」


 おっといけねっ。

 ついつい職業病で印刷物の出来映えを眺めちまった。

 俺が魔法陣の真ん中に立ってしばらくすると、描かれた文字が一瞬輝いた。


「はい、おしまいです」


 あれー、すごい簡単だなぁー。


「あそこで君の魔法属性が書かれたカードを貰えるから受け取ってね」


 と、指をさした先には、手をかざすだけでカードに印字する先生の姿が。

 なんと、印刷じゃなくてまさかの念写!

 となると、さっきの巨大な魔法陣も頭に描いたイメージを焼き付けたものだろうか。

 やっぱり異世界は凄いなぁ…。


 などと驚いているうちに、クレアの属性測定の順番がやってきた。

 その顔は真剣そのもので、魔法陣に乗りながら何かを呟いている。


『3.14159265358979323846264338327950288419716939937510..』


 あの目つきは間違いなくロザリィのものだが、なんで円周率なんだ???



『ウッヒャー! めっちゃ疲れたわーーー!』


「お前、魔法陣の上でひたすら円周率を呟くとか、不気味過ぎるわ…」


 呆れ顔で指摘すると「アンタ何言ってんの?」みたいな顔をしやがる。


『魔法属性を測る時は深層意識を調べるから、クレアにぼーっとしてもらいながら、私だけ全力で数字を読み上げて意識を雑念ノイズだらけにして検査をくぐり抜けたのよ』


 まるでウソ発見器を突破する裏ワザみたいだな…。


『ちなみに私は暗唱で円周率1000桁まで言えるわ』


 すごく……どうでもいい!


『まあ、このカードに刻まれているのは嘘偽りなくクレア自身の能力よ』


 クレアのカードに書いてあるシンボルは聖属性…つまりプリースト向きだ。

 癒やしのイメージ通りで大変すばらしい。

 頭の中でプリーストのおねえさんの服装+クレアを想像してみたけど、かなりグッドだ!


「クリスくん…は?」


 クレアに言われて手元のカードを覗き込んで苦い顔をする俺。

 そこに書かれているシンボルはまさかの「地属性」だ。


 地面ですよ地面、グラウンドですよ。


「地属性ってノームとかだろ…地味過ぎるわ。せっかく異世界に来てんのに、なんで地面を耕さないとイカンのだ? 個人的には火属性とか雷属性でドカーン!と派手なのを期待してたんだがなぁ」


 と俺が嘆いていたら、クレアが驚いた表情になった。

 なんでだ???


『まあ、渡り人なんてそんなもんよ?』


 と、ロザリィがため息をつきながらクレアを諭す。

 どういう意味???


「えっと…ね。地属性は道を造ったり…建築用の石材を切り出したり…宝石を鑑定したり…。すごく便利なの…。だから、地属性魔法が使える人は…一生安泰」


 マジですか。


『そもそもモリス聖薬の人も言ってたじゃない、魔法が"科学に比べて非力過ぎる"って。人間が一生かけて得られる魔力なんてたかが知れてるし、魔法がそんなに万能だったらお馬さんが街を走ったりせずに、空を飛んだりワープ出来るようになってるでしょうに』


 そういえば日常生活を送っていて、街の中で魔法が使われているイメージがあまり無いな……。


『確かに少しでも荷物を減らしたい長旅なら火属性は便利でしょうし、砂漠のド真ん中で遭難した時は水属性なら生還できる可能性が上がるわ。でも、火は火打ち石でも付くし、水が欲しかったら水道を使えば良いワケよ。地属性なら水道工事も出来るからね』


 うわー、納得できるけど、納得したくねえーーー。


「そういえば、ロザリィたち妖精には属性の制限ってあるのか?」


『無いわよ? 全種オールマイティ~』


 そんなあっさりと……。


『だから、クレアが人前で妖精魔法を使ったらその時点でアウトだと思いなさい』



 午後の魔法実習が終わり、自宅へ帰還。


「ただいまー」

「ただいま…」


 しかし返事は無く、机の上にメモが置かれていた。



【旧友たちと集まることになったので出かけてくる。二人で食事を済ませておきなさい】



「まあ長いこと街を離れてたし、羽も伸ばしたいだろうしなぁ」


「大人の…付き合いだね」


 そういえばこの身体からだになってから長いこと酒飲んでないな。

 チラッと父のワイン瓶が目に入る……。


「ダメ…だよ…?」

「わわわ、わかってるよっ!」


 異世界でも未成年は飲酒禁止なのが悲しい。


「そういえば、昼間の魔法実習の前に先生が拡声器っぽいヤツで声を大きくしてたけど、アレは何の魔法なんだ?」


『拡声器…? ああ、ラウドボイスのこと。あの先生は風属性の使い手みたいね』


 なるほど、空気を操れるとそういうコトも出来るのか。


『ちなみに風属性は泥棒や暗殺者向きのスキルなのよね。音を遮断して忍び寄ったり、相手の周りだけ減圧して物的証拠を残さずに相手を窒息死させたり……』


 何それ怖い。

 なんだかこの世界の魔法は、イメージとずいぶん違うなぁ……。



 しばらくして父が帰ってきた。


「ただいま戻ったぞ!」

「おかりなさい」

「おかえり…なさい」


 我が家から大時計台が見えないので具体的な時間は分からないが、恐らくまだそれほど遅い時間ではないはず。

 少しは飲んでいるようだが、軽くたしなむ程度だったのだろう。


「今日は魔法属性検査があったようだが、お前達はどうだった?」

「僕は地属性でした」

「私は聖属性…です」


「ふむ……」


 そう言ってソファーに座る父。


「クリスが私のように魔法特性ゼロでなくて安心した。しかも地属性とは素晴らしい」


 魔法特性ゼロ。

 この世界には生まれつき魔法を使うことの出来ない人間がごくわずかに存在する。

 恐らく父は魔法属性検査でこの結果が出た時、酷い劣等感にさいなまれたに違いない。

 それでも今の地位まで上り詰めたのは、まさに努力のたまものだろう。


「お前達はそう遠くないうちに、将来の生き方を考えなければならない場面に遭遇するだろう。本当は将来についての助言をしようと思っていたのだが………」


 俺とクレアの頭の上に手が置かれる。


「これだけの偉業を成し遂げた息子に言うことなんざ何も無いさ。自分の思うようにやるがいい。そして、クレアちゃん……ウチの息子を宜しく頼む」


 厳格で無口な父親。

 その言葉に逆らうことは許されない。


 母に愛想を尽かされた父親。

 自分を独り残していったことは許さない。


 クリスくんの記憶にある父への感情は、畏怖いふ嫌悪けんお


 きっと、この二人はとても不器用だったのだろう。

 父は息子に強さ求め、息子は父に優しさを求めた。


 お互いに違うことを求め、すれ違い続けた。

 そこに父と子の会話が、夫と妻の絆があれば、クリスくんが死ぬことは無かったかもしれない。


 しかし、このいびつな家族が居たから、俺はクレアと出逢い、彼女の命を救うことが出来た。

 前にロザリィが、クリスくんは創造神ラフィートに諭されて転生を待っている状況だと言っていたが……。



 願わくば、彼の次の人生が平穏でありますように……。

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