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018:帰ってきた!

 この街に戻ってくるのは1年ぶりか…。

 あのクソガキめ、俺をさんざん引っ張り回しやがって!


 ヤツが趣味で作った「民の為の防衛遠征隊」とやらは名前の響きだけは良いのだが、その実体はガキが兵隊を連れて行脚あんぎゃの暇潰しをするクソッタレな部隊だった。

 若い頃からひたすら強さを追い求め、ついに軍の上層部までたどり着き、お偉いさんの側近を任されたと思いきや、ここにきてまさかの珍人事である。

 今度こそ異動願いを受理してもらわなねば!!


 それに、我が一人息子はまだ11歳だ。

 妻に出て行かれてからというもの、独りでも生きていけるようにと厳しく育ててきたが、知り合いの家に預けるべきだったのではないかと、今になって反省している。

 久しぶりに親子水入らずというのも良いかもしれないな…。


「リュータス! 戻ってきたのか!」


 街を歩いていると旧友に声をかけられた。

 コイツは昔からの腐れ縁で、よくチンピラに絡まれていたのを助けてやるうちに仲良くなった。


「ひたすら子守ばかりしていたよ。自分の息子すら満足に相手もできていないダメ親父だというのにな」


「ああ、その息子なら…いや、なんでもない。さっさと家に帰ってやりな!」


 何だか意味深なコトを言いやがるな…。

 全く、息子が何だって言うんだ…?



 さあ、久しぶりの我が家だ。


「クリス、元気だったかーっ!!」


 勢いよくドアを開けると、そこには全く見覚えのない部屋が。

 ……というか他人ひとの家。

 小柄で長い髪のエプロン姿の女の子が、目を見開いて驚いている。


「あ…あの…」


「すみません!間違えました!」


 慌てて外に出てみたが、外装はどう考えても我が家。

 一体何があったのだろう…?

 そういやリカナの野郎が何か言おうとしてたし、事情を知ってるかもしれねぇな。

 ちょっと問いつめてみるか…。



~~



「どしたの?」


 眠りまなこをこすりながら部屋から出ると、クレアが首を傾げていた。


「背の高いおじさまが…クリス元気だったかー!って…。すぐ居なくなった…けど」


 無表情のまま凍り付く俺。

 これはイカン! イカンですよ!!

 しばらくして、外からドドドドド!!!と、激しい駆け音が!


 かなりクリスくんの記憶が朧気おぼろげになっているとはいえ、我が家に挨拶もせずにいきなり入ってくる背の高い男は一人しかいない!

 まさか連絡も無しにこんなに早く帰ってくるなんて!?

 どどどどど! どうすればいい!!?


「クリスっ!!!!」


 父が玄関ドアをバンッ!と開けた時、そこには……見事なジャパニーズ土下座をキメた俺の姿があった。



「こういう大事なことは、せめて親に相談するべきだと思うのだがな…」


 大量に冷や汗を流しながら正座する俺と、困惑したまま説教する父。


「申し訳ありません…」


 クリスくんの記憶を頼りに、とにかく無駄口を叩かずに謝罪に徹する!

 こんなに頭を下げるのは、部下がクライアントにやらかしてくれた時以来だよ……。


「クリスくんを…怒らないで…ください…。彼は…私の命の恩人で…その……」


 クレアが震えながら父に直訴してくれている。


「分かっている、分かっているとも! 大凡おおよその話はリカナに聞いた! 俺はあくまで相談しなかったことを責めているだけで、今回の一件は、その、何というか……。我が息子ながら、凄いな……としか」


 確かに……。


 気弱な息子を一人置いて遠征に出たら、その間に橋から落ちて入院し、同室の女の子を死に至るやまいから救うと宣言。

 父の親友の店や街一番の富豪を巻き込んでわずか2ヶ月弱で数千万ボニーを稼いだ後、観光会社の社長から馬車をチャーターし、遠く離れた王都の製薬会社に乗り込んで特効薬を手に入れ、早馬に乗って街に戻り、宣言通りに女の子を救い、その子を連れて帰り同居している…。


 そりゃびびるわ。

 むしろ、真相を全部聞いたら卒倒してしまうかもしれない。


「まあ相談しなかったことや、家具を売り飛ばしたことは不問だ。お前は自らの力で人の命を救ったんだ。良くやったなクリス」


 父に褒められて、ちょっと恥ずかしくて頭を掻く俺。

 前の世界ではこういうコトが無かったから、ちょっと新鮮だ。



「せっかく二人きりだったのに…残念…」


 学校に向かいながらクレアがボソッと呟く。


「ま、まあ気持ちは分かるけど、凄いストレートだな…」


『そりゃ、この子は感情表現がド下手なだけで内面はそりゃもう凄ゴゴゴゴゴ』

「ゴゴゴゴゴ…」


 ロザリィに余計なことを言うなとばかりにクレアが妨害する。

 まあ、端から見てると独り言にしか見えないんだけどさ…。


「なあに学校もあるし、昼からは一緒にデートでもすりゃいいさ」


「デート…デート!」


 クレアはあまり表情が変化しない子なのだが、顔を真っ赤にしながら口元がニヤけているので、とても喜んでいるのは間違いなさそうだ。


「あっ……! 今日の午後は…デート無理かも」



………

……



 クレアが我が家に来た最初の日の夜。


「で、結局ふたりは一心同体になっちゃったってコトで良いのか?」


『そうね。本来は監視対象者が死んでしまった時にリソースを供給しつつ意識を同化して、渡り人自らの身体からだで監視任務を継続するためのものなのだけど、今回は特例でこの子の身体を使わせてもらうコトになったの』


 なるほど。

 しかしクレアの顔と声なのに、この勇ましい喋り方は違和感がハンパないな……。


「さっき、記憶を共有とか言ってたけど…」


『文字通りよ。私と共有するということは、この子は人間でありながら妖精の持つ膨大な知識とリソースを同時に併せ持っているとも言えるの。当然、アンタが異世界から来た人間で、中身が30代のおっさんだと言うことも既に知っているわ』


 うっ……!


「えーっと、その……。すまない、幻滅したか?」


「私は…年上でも気にしない。年齢なんて…関係ない」


 そう言いながらジーっと俺の目を見てくる。

 て、照れるな……。


『ロリコン……』


 ぐああああああぁぁぁ!!!!

 その場にうずくまる俺。


「く、クリスくん……っ!」


 やめろ、やめてくれぇ…!


 その子の顔と声で俺をロリコンと呼ばれると精神が崩壊してしまうゥッ!!


『ウヒャヒャヒャヒャヒャ!!!』


 クソ妖精め! ますます手に負えなくなっちまった!!



『そしてもう一つ。これはクレアに忠告よ』


「は、はい…」


『私たちが共有しているのは知識やリソース以外にも、妖精のもつ魔力やスキルも含まれるの。その能力は妖精が長い年月をかけて蓄積し継承してきたものだから、人間が一生かけても得られないレベルに達しているわ』


「お、おい、それってまさか…」


『渡り人が死亡して妖精と同化した例は過去に3度しか無くてね。それも遥か大昔の話だから、その人達もとっくに亡くなっているはず。つまり、現在この世界で妖精と同等の能力を持つ人間はただ一人、クレアだけよ』


 つまり、転生モノのお約束「俺TUEEEE状態」がヒロインに発現した、ということか…。

 ヒロイン無双とか、それはそれでなかなかロマンがあるなぁ。


『ただーーーし!! 当然、その力を乱用できないように私がしっかり管理するからね! 非常事態でも起きない限り、そうポンポン撃たせないわよ!!』


「そんなこと…しない…むぅ」


 クレアが不満そうに頬をぷーっと膨らす。


『それと、初めて会った時に説明したけど、監視対象者が死亡すると同時に妖精のリソースは全て回収されるから、アンタが死ぬと同時にクレアも死ぬからね? 責任重大よ』


「ぐっお……」


 それは気をつけないとな……。


「クリスくんの居ない世界に…私だけ残されるよりずっといい…」


 この子、マジで強いなーー。



……

………



 さて、校門前までやってきた。


『毎日毎日飽きないわね……』


 モノアイの前で日課の「なんたらトレイン」の円運動を堪能した俺と、それをジト目で見ているクレア(たぶん、ジト目はロザリィのせい)。


「異世界の人は……不思議だね?」


「そういえばさっき、午後のデートが無理って言ってたけど、なんで?」


「それは……」


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