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015:月の石

「単刀直入に言おう。現在、特効薬ルナピースを精製する上で最も重要な原料が手に入らない状況だ」


 ……え?


「あの…。薬の在庫ストックとかは置いてないんですか?」


「残念ながらルナピースは精製してから約1ヶ月程度で効果が半減、つまり特効薬としての効果が無くなるんだ。そもそも1つ5000万ボニーもする超高額な薬剤を在庫ストックすることはありえないよ」


 突然の死刑宣告に、頭が真っ白になる。


「そんな……それじゃあ、一体どうしたらっ…!」


「落ち着きたまえクリス君。私は"現在"と言ったはずだ」


 立ち上がった俺をなだめる新川さん。

 うーん、俺としたことが冷静さを欠いてしまった…。


「ルナピースの原料にはね、通称"月の石"と呼ばれる鉱石、まあ薬品名の"ルナ"の語源なのだけど、この石が必要になるんだ。あ、ちなみにこの名前を付けたのはイノっちだよ」

「ぶい!」


 うわー、心底どうでも良い。


「これがとにかく超レアなんだ。月の石が採れた場所には共通して地震などで地盤が隆起りゅうきした形跡があったから、深いところには多くの月の石が眠っているのだと考えられるのだが、残念ながらこの世界の掘削技術ではそこまで掘り進むことは難しいだろう」


「……」


「しかも、今のところ月の石を採掘できるのは、先日の事故で崩落してしまったバレル炭鉱だけなんだ」


「……え、今なんて?」


「バレル炭鉱だよバレル炭鉱。かなり騒ぎになったから君の街にも情報は届いてるはずなんだが。大雨を起因とした地滑りで集落ごと壊滅してしまったから、今や採掘どころではないな」


 この世界では、生命の誕生と維持にはリソースが必要。


 そのリソースを意図的に流出させようとしている悪意が存在する。


 研究者が奇跡的にリソースの流出をストップさせる特効薬を完成させた。


 しかし、その特効薬の原料となる鉱石を産出できる炭鉱が崩壊した。


 もしこれが偶然ではなく「悪意によるもの」だとすれば…?


「一つ伺いたいことがあるのですが…」


「なんだい?」


「創造神ラフィートに会ったことはありますか?」


「ほぅ、創造神はこの世界に実在したのか。私はずっと作り話だと思っていたよ」


 この反応で、3人がリソース流出の原因を知らないことが確定。

 これは真実を伝えておくべきだろう…。



「そうか…。リソースが自然流出する病気なんておかしいとは思っていたが、何らかの悪意が創造神の意向に逆らってリソースを回収していると考えると、なるほど納得できたよ」


「クソッ、俺たちが必死こいて命を救おうと頑張ってんのに、それを邪魔したうえに炭鉱の皆を…許せねえ…」


「がんばって、はんにんをさがさないとねー」


「…ですが、今は犯人よりも月の石を見つけ出さないと。でもどうすれば…」


「クリスくん、私からもひとつ話があるんだ」


 悩む俺に対して新川さんが話し始める


「マダム・バテラーヴの息子の死因が後天性天命流出症候群リソースリークだということは聞いているかい?」


「直接ではないですが、マダムの家のメイドから病死と聞いていたので、薄々はそうかと…」


 俺の答えを聞くと、新川さんが立ち上がって両手を広げる。



「この研究所は、息子を亡くしたマダムがリソースリークを根絶するために作ったものだ!」



「!?」


「マダムが街一番の金持ちで贅沢の限りを尽くしていると勘違いしているバカ共もいるが、実際にはほぼ全ての稼ぎがこの研究所の維持に使われている。無論、我々もタダ飯を食い続ける気なんざ全く無いので、営利企業として活動しているがね」


 俺もようやく納得できた。


 マダムの家に突然訪問した俺が、家財をなげうってクレアを助けようとしていると話した直後、いきなり号泣しながら俺を抱きしめてきて危うく召されそうになったのだが、それからというもの、ずっと助けられっぱなしだった。


 俺は営業スキルを駆使して大金を稼ぐ都度にリカナのおっちゃんや傘のにーちゃん達に自慢げな態度を取っていたが、その陰ではきっとマダムやたくさんの人が俺たちの為に動いていてくれたんだ。


 この恩はいつか絶対に返さなければならない……絶対に!


「先ほども惨状を見たと思うが、現在、私たちは新型爆薬の検証実験を行っている」


「!!」


「安全かつ誰でも使えるレベルのものが作れれば効率良く土砂を除去し、新たな開通ルートを作れないかと考えている。無論、君の教えてくれた"リソースを食らう悪意"についても警戒しながら事を進めねばならないがな」


 ホントに、科学者って凄いな…。


「本来ならばこの世界に存在する"魔法"の力で吹き飛ばして欲しかったのだが、残念ながら科学に比べて非力過ぎる。世界最強の破壊魔法とやらも、私の作ったお手製ダイナマイト以下だったよ。まあ、発音するだけで対象物を破壊できるのだから、コストパフォーマンスだけは最強と言えるがね」


 数ヶ月後に魔法を習うのを超楽しみにしてるんで、そういうテンション下がることは言わないで欲しいんですけど…。


「それで、その爆薬はいつ頃完成しそうなんですか!?」


「……あと1~2年くらいは時間が欲しいかな」


 研究室に俺の叫び声が響いた。



『アンタがそこまで取り乱す姿、初めて見たわー』


「ああ、自分でも驚いているよ…」


 ウガァー!とか、ドゴゥアー!みたいに声にならない声を上げてしまい、その声に驚いた妖精Aが手に持っていた試薬を落とすわ、それに驚いた妖精Bが火種を床に落として小火ぼやが起こるわで、研究所内がてんやわんやだった。


「わはははー、今日もドッタンバッタン大騒ぎだな!」


 新川さんの喋り方も素(?)に戻ってしまった。

 そんなこんなで座って休んでいると、妖精Cが俺の周りをふよふよと飛び始めた。


『何よアンタ?』

「なんでお前はいきなり喧嘩腰なんだよ」


 ウチの妖精はパワー系なのであまり近づくと危ないよ~。


『くんくん…んー? くんくん……んー?』


 この独特な雰囲気、絶対この子は井上さんの監視役だろうな。


『つきのいし の においがするのー』


「「「「「「「えっ!?」」」」」」」

 全員の驚きの声が重なる。


「お、おいマジかよ! 在庫ストックゼロじゃなかったのか!?」


「ももっも、もちろんだとも。この研究所に持ち込まれた石は全てルナピースの製造に使われたし、そもそもこの研究所で投薬したんだ。余るわけがない!」


 研究者がテンパると面白いなー。


『アンタ涼しい顔してるけど、さっきまでこんな感じだったからね?』

「うっせぇ」


「ちーちゃん、つきのいしのにおい、どこからするー?」


 井上さんに言われ、さらに周りをクルクル飛びながらクンクンと嗅いでいる妖精C。

 そのまま俺のかばんにボフッと入ってきた。


「あったー、これー」


 妖精Cが抱えているのは……



「クレアの髪飾りだ……!」

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