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144:いざ再び世界樹へ!

「あれは嘘じゃ」


 オウカ姫に会うなり開口一番これである。


『え、う、嘘ぉ???』


「皆既に世界樹に向かって数刻が経過しておる。何事も無ければ良いのじゃがな」


 心配そうに遠くを見つめるオウカ姫の目線の先には、まるで天を貫く程に高くそびえる世界樹があった。


「……おかしいわね」


 カレンさんが遠くを見ながらいぶかしげに顔をしかめる。


「前は頂上が雲より低かったのに、今回は先が見えないわ……幹も比べものにならないくらい太いし、もしかすると倍以上の樹高かもしれないわね」


「見間違えでなく?」


「当たり前でしょ」


 人間の視力では遠くに薄らとしか見えないだが、さすが正体が獣神なだけあって、その眼が見通す力は人間の比ではないようだ。


「全然見えねえ……」


 獣人のアンナはそれほどでも無い模様。


『ねえオウカ……。タケル達が何か、私が来たときのために何か伝言を残さなかった?』


 アンジュがオウカ姫に訊ねると、少し困り顔で黙ってしまった。


『何で黙るのさっ! お願いだから教えてよっ!』


 懇願してくるアンジュに、オウカ姫は困り顔で溜め息を吐いた。


「……そなたに対し"子守を宜しく"と言っておった」


『子守っ!? 何それっ!!』


 アンジュが素っ頓狂な声を上げた。

 ……ああ、そういうことか。


「俺たち4人のコトだろうな。アンジュの言っていた通り、世界樹が炎やら何やらで攻撃を仕掛けてくるような物騒なシロモノだったのなら、俺たちを近づけたくないと考えるのは当然だ」


 魔王に手の内を明かすわけにはいかないので、レンの送別会をした時だって、俺が渡り人であるコトは伝えていないし、ロザリィやエマが強力な魔法の使い手であることも秘密にしてある。

 魔王タケルにとって俺たちは「妙に偉そうな子供」としか思えないだろう。


「さてと。いっちょ、お灸を据えないとな」


『へ?』


 キョトンとした顔で首を傾げるアンジュを見て、俺とセフィルはニヤリと笑った。


「俺らを単なるガキだと思ってナメてる魔王に、俺らの力を見せつけてやる!」



・・



「なんだこりゃ!?」


 世界樹に続く平原は、何故かレベリングの魔法で均したかのように舗装されていた。

 おかげで異様に馬車がスムーズに走るのだけど、魔力消費だってばかにならないだろうに、どうしてこんな無意味なコトを……?

 そんな疑問が頭を過る中、突然辺りに凄まじい地響きのような音が聞こえた。


「お、おい! あれ見ろっ!!」


 ノーブさんの指差した先を見ると、世界樹に留まっていた鳥達が一斉に飛び立ち、夕闇の空を真っ黒に染め上げていた。

 さらに、それまで青々としていた世界樹の葉が若干鈍い色に変わっていく……。


『急ごう! もう戦闘が始まってるみたいだ!!』


 それから目的地に到着した俺たちが目にしたのは……世界樹だった。

 厳密に言うと「平原に突っ立った世界樹だけ」しかなかった。


『あれー? みんなどこー???』


 アンジュが困惑した様子で世界樹の周りをウロウロしている。


『おかしいなー。さっきまであんなに騒がしかったのに……』


 キョトンと首を傾げるアンジュだったが、その一方でカレンさんとアンナが樹の上をジッと睨んでいる。

 二人とも尻尾のモフモフか大きく膨らんで警戒状態だ。


「カレン、上で何が起きてる?」


 ノーブさんの問いかけに対し、カレンさんは難しい顔のまま首を横に振る。


「上……いいえ、ヤバいのは世界樹の内側だわ」


「内側……?」


「樹の中から伝わる猛烈な熱気……世界樹そのものが巨大な爆弾みたいになってるのかも」


『爆弾っ!!?』


 アンジュが慌てた様子で世界樹に駆け寄ると、その幹にそっと耳を当てた。

 そして急に飛び退いたかと思った途端、カレンさんに泣きついた。


『皆、あの中にいるよぅ! どうしようっ!!』


「やっぱり……」


 すると、カレンさんは世界樹の前に立って左下をじっと見てから、腰を低く屈めた。


「せいやぁッ!!!」



ドーーーーンッ!!!



 まるで落雷のような轟音が響き、世界樹が揺れた。


「いっててて、こりゃ硬いわねぇ。私の力だと何百発か殴らないと駄目っぽいし、先に手が折れちゃうわね」


 むしろ何百発か殴れば世界樹を叩き折れる程のパンチ力にも驚いてしまうのだけど、獣神の力をもってしても侵入ができない状況に、お手上げとなってしまった。


『私、上から行ってみるよ!』


 アンジュは翼をはためかせて一気に上空へ飛び上がって行った。


「俺たちはどうするかな……」


「せっかくだし、それ使ってみたら?」


「うーん……」


 アンナにいざなわれて取り出したるは、名刀・勇者の剣!

 だがその使い手の俺は単なる商人なわけで、こんなので樹の幹を叩いたら刀が折れてしまうのではなかろうか。


「まあ一振りだけ試してみっか」


 俺は渋々に刀を抜いて世界樹に刃先を向けた。

 そういえばVRMMOの開祖たるあの名作も主人公がロングソードで大木を切り倒すシーンがあったっけな。

 完結する前に俺が前世を人生リタイアしてしまったので、ラストシーンは知らないんだけどさ。


「我が魔力よ、刃に集え!」


 何となく格好つけてそんなコトを言ってみたところ、本当にゴリっと魔力を持って行かれてしまい、酷い眠気が襲ってきた。

 俺の魔力を吸収した刃は、ぼんやりと薄青色に光っている。


「……やっぱ呪いが解けてないんじゃなかろうか」


 そもそも刀の呪いを解いた妖精リングシュも胡散臭かったし。

 俺は眠気で重い体をどうにか動かして刀を構え、一閃!



ごいーーーん



 何とも鈍い音か響き、まるで鉄パイプでドラム缶を殴ったような衝撃に腕がびりびりと痺れた。

 って、今はそれよりも!!


「刃こぼれはっ!? 刀は大丈夫かっ!!」


『アンタ、開口一番にそれってどんだけケチなのよ……』


 うっせぇ。


「ほっ、良かった。魔力コーティングのおかげで刃こぼれはしてないみたいだ」


 俺が刀身の無事を確認して安堵の溜め息を吐いたその時……



【承認が完了しました。移動を実行しますか?】



 世界樹から妙に機械的な音声が聞こえてきた。


「え、え、移動って何? また巻き戻りくらっちゃうのかっ!???」


 俺が困惑しながら疑問を投げかけるも、世界樹は特に答えてはくれない様子。

 そして可否の返答に迷っていると……



ゴゴゴゴゴゴ……



 世界樹全体が揺れる程の凄まじい轟音が響いた直後、猛烈な爆炎が夜空を照らした。


「世界樹が燃えてるっ!!」


 カレンさんはあまりの状況に、仰天してひっくり返ってしまった。


「それよりもアンジュちゃんが! 大丈夫かなっ!?」


 確かに、アンジュが何らかの方法で穴をブチ空けた可能性はあるものの、もしもアレに巻き込まれていたらひとたまりもない。



【移動しますか?】



 再三流れるアナウンスに苛立ちつつも、俺はクレアの手を強く握ると覚悟を決めて応えた。


「移動だ! 連れて行ってくれ!!」


 俺が声に応えた直後、不思議な浮遊感に包まれた。

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