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142:例の洞窟へ…

 南の大陸へ渡った俺たちは、東の山越えの前にリュート王国城下町へ買い出しに来ていた。


「ワラントは静かだったのに、こっちは随分と賑やかだなー」


『ああ、つい最近ここの王女が旅に出た時にパレードをやったんだけど、まだ騒いでたんだねぇ……もぐもぐ』


 アンジュが説明しながら、そこらの屋台で買ってきたデカいパンをリスのように頬張っていた。

 しかし王女様が旅に出るとか、どこぞのアリーナ姫みたいだな。


『アンタ、借金してんのに無駄使いとか根性あるわね……』


『借金が多すぎてパンいっこケチったくらいじゃどうにもならないからね』


「多額の融資受けてるベンチャー企業経営者かお前は!」


『それに、クリスくんに借りてるお金はタケルに払ってもらえば解決さ~』


 アンジュはあっけらかんと楽観視しているけど、それはつまり魔王に借金を押しつける気満々という意味なわけで……。

 さすがにクレアも問題点に気づいたのか、首を傾げてから疑問を口にした。


「魔王が怒って、自分で払えと言われる可能性、ないの?」


『……そのときはそのとき!』


 結局、アンジュが抱えていたパンの袋はアンナの手によって没収され、その中身は俺たちの胃袋に収まったのであった。


「そういや、ここの王女が旅に出た時~って言ってたけど、アンジュと面識あるのか?」


 俺の質問にアンジュは不思議そうな顔をした後、手をポンと打った。


『そういや説明してなかったっけ。私達のパーティに御嬢様言葉で喋る子いたでしょ? あの子だよ』


「……は?」


『現世はユリアンナって名前だけど、中身は魔王四天王の死神メリーザだよ』


「な、なんだってーーーっ!!?」


 大国の王女様が魔王の家来って、そんなのアリか!!

 さすがにスルー出来なかったのか、本気で当事者であるセフィルが焦りの表情でアンジュに詰め寄ってきた。


「んじゃ何だ、魔王タケルはやろうと思えば、あの姫さんに命令してリュート王国を乗っ取る事も出来るって言うのかっ?」


 リュート王国はエレク大陸最大の国家であり、事実上その勢力が魔王サイドにあるということは、魔王タケルが本気で世界征服を狙うべく行動を始めてしまうと、世界を巻き込む大規模な戦争が起こるという意味だ。

 レヴィート王国の第三王子であるセフィルにとっては気が気でないだろう。

 だが、そんなセフィルを見てアンジュはキョトンとした顔で首を傾げている。


『んー、やろうと思う可能性は万に一つも無いけどね。たとえ誰かにその提案を持ちかけられても、アイツの性格を考えると面倒臭がってやらないと思うよ』


 あんまり過ぎる理由の即答に、セフィルはポカンとしてしまった。

 世界征服を「面倒だから」という理由で投げ出す魔王っていったい。


『悪いヤツじゃないんだよ。だからさ……』


 アンジュはそう言ってからチラリとクレアを一瞥いちべつした。


『あんまりタケルとリーリアを嫌わないであげてほしいかな』


「……善処する」


『うん、ありがとう』


 それからクレアはぼそりと呟いた。


「……いつから気づいてた?」


『最初から。私、一応これでも天使だからさ。こう、好きとか嫌いとか、そういった感情は見逃さないんだ』


「そう……」


 クレアとアンジュの不思議な会話に、男連中は首を傾げるばかりだった。


・・


 それからリュート王国の東にある険しい山道を越えた俺たちはトーブ村で一泊してから、豪雪地帯に突入。

 ようやくサンタールの街に到着したところで、そこそこ街に詳しいと自尊するアンジュを先頭に街を歩いていた。


 俺が「全く魔王に追いつけないな」とぼやいたところ、アンジュ曰く、魔王は特殊能力で某RPGの「ル○ラ」的な魔法が使えるらしく、既にウルシュに着いているだろうとのこと。

 いやはや、存在がチート過ぎるにも程がある。

 でも、それを聞いて「運送業や観光業やれば儲かりそう」とか思ってしまった自分の庶民臭さが少し悲しい……。


 と、そんなこんなで街の外れにある大豪邸に到着すると、アンジュが重厚な扉を二度ノックした。

 ……しかしへんじがない。


『うーん、ルルーさんも不在ってことは、やっぱりタケルたちがウルシュに向かったのは間違いないと思う』


「ルルーさんって、あの隠れ巨乳のおねーさん?」


『お、ローブ着てて分かりにくいのによく気づいたねっ! クレアちゃんすごいっ』


「ふふふ、私の特技だから」


 何それ初耳。


「ちなみにノーブさんは結構な頻度でカレンさんの胸元に視線が向いてる」


「ちょっ! クレアちゃんっ!?」


「ほほう、しょうがない旦那様だ」


 頭を抱えるノーブさん、ニヤニヤ笑うカレンさん、それを見て「うがああああ!」とアンナが雄叫びを上げたりと何とも騒がしい状況に、俺はセフィルとエマと顔を見合わせて苦笑していた。


『あれ? コレなんだろ?』


 アンジュが何かに気づいたのか、ドアの隙間から一通の手紙を引っ張り出した。


「こらこら、勝手に家主宛の手紙を……」


『Dear ange..これ、私宛だっ!!』


「えっ!?」


 アンジュが慌てて手紙を読み上げると、その顔が青ざめていった。


「お、おいっ、何が書いてあったんだ!」


『い、急がなきゃ……タケル達が単独で世界樹に向かって行ってる!』


「それで何で慌てるんだ? 単に虹色の光をくらったら過去に戻されるだけだろ?」


 セフィルが楽観的に訊ねると、アンジュは慌てた顔のままブンブンと首を横に振った。


『世界樹に色々と細工してる犯人は、どう考えてもネブラなんだよ! ヤツの性格を考えたら絶対に1回目と同じ手は使ってこない!!』


「ちょっと待て!! ネブラってどういう事だっ!?」


 ……あっ、そういえばセフィルに事情を説明してなかった。


『クリスくんからは君がネブラを倒したと聞いているけど、ヤツの正体は私と同じ天使なんだ。残念だけど、普通の人間が物理攻撃や魔法でヤツを消滅させる事は出来ない……間違いなくネブラは生きてる』


「なん……だと……」


 突然伝えられた事実にセフィルは愕然となる。

 エマは……意外と平気そうな表情でセフィルの手を握った。


「大丈夫だよ、今度は皆いるからっ」


「……ははは、強くなったなぁ」


 ネブラが生きているという事実に慌てたのが自分だけだった状況に、セフィルは少し恥ずかしがりながらエマの頭を撫でた。


「今日はもう遅いから街で一泊して、明日は速く出発するぞ!」


『うん、ありがとうっ!』


・・


 翌日、日が昇ると同時に俺たちはウルシュを目指して全速力で移動を開始した。

 そういえば殿様がひたすら走りまくる映画があったよな~……と、前の世界を懐かしく思いながら、ロザリィの支援魔法を全力で受けて走っていたものの、だんだん視界が怪しくなってきた。


 ……というか!


「吹雪がやべええええーーーーーーっ!!!」


 一寸先は闇というか、もはや自分たち以外を視認出来ない程の猛吹雪に耐えきれなくなり、ついにアンナが悲鳴を上げた。

 さらに続けてロザリィがくるりと振り返り衝撃の一言を放つ。


『ごめん、魔力切れそう……』


「えっ、マジでっ!?」


 ロザリィの魔力が尽きる=支援魔法が受けられずに雪原で立ち往生……という地獄コースになりかねない。

 せめてどこか避難できる場所を……。


「あっ! あそこに洞窟があるよっ!」


 そんな状況の最中になんとエマが避難場所を発見!

 俺たちは慌てて洞窟に逃げ込むのであった。

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