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140:意外な来訪者

 レンとの別れから数日後、俺たちは神都ポートリア西の商店エリアに買い出しに来ていた。

 目的はもちろん、世界樹への再アタックのための旅の準備だ。


「食料はこれで良いとして、雪山越えは……まあ現地調達で良いか」


 ウルシュに抜けるには大陸北東の豪雪地帯を踏破しなければならないわけだが、流通困難なエリアは物価が少々お高いので、ポートリアである程度買い揃えておく方がコストパフォーマンスに優れている。

 ただ、旅の荷物を増やしすぎると移動が困難になるので、なかなか悩ましいところだ。


『んなモン気にしないで、現地でガッと買って邪魔になったらポイで良いわ!」』


「環境保護団体の人が聞いたら卒倒しそうな爆弾発言は止めなさい」


 自然と共に生きそうな見た目で、エコ精神ゼロの妖精ロザリィに呆れる俺を見て、その当人は楽しそうに笑った。


「さて、そろそろセフィルとエマも買い出しが終わって戻ってるだろうし、俺たちも帰ろう」


 そう言って振り返ったその時……



「急患です! 道を開けてくださーい!」



 メディラ病院の前で看護師のおねーさんが叫んでいた。


「何か事故でもあったのかな」


 心配そうに呟くクレアに頷きつつ騒ぎのした方に目をやると、担架に横たわっていたのは金髪セミロングの少女だった。

 白いワンピースに裸足という特徴的な格好ではあったが、それよりも気になったのが頭の上にある「金色の輪っか」。


 ……って、マジかっ!!?


「あの子、魔王と一緒に居た子」


「分かってる。でも何故だ? 魔王は天使を天界に返すために旅をしているんじゃなかったのか……」


 まさか本当に魔王が真の狙いで行動を始めて、その計画の妨げとなる天使を始末しようとした?

 色々と考えが渦巻く中、俺は咄嗟とっさにクレアの手を引いてメディラ病院に飛び込んだ。


「おねーさん! その子、俺たちの知り合いだよ!」



◇◇



『いや、ホント心配かけてごめんね。まさか馬車の移動費用がこんなに高いとは思わなくてさ。スカンピンになって、もう三日もご飯食べてなかったんだよ』


 先ほど急患で担ぎ込まれた天使は、ベッドでリスみたいに頬を膨らませて、ご飯をモグモグしている。


「魔王や他の仲間はどうしたの?」


『え、いやー、ちょっとね。色々あって、黙って出てきちゃった』


『色々ねぇ……』


 ジト目で頭の上を飛ぶロザリィを見て、天使は目を見開いた。


『おや、ステルス無しで妖精が常時具現化なんて珍しいね。でも、人前に出たら驚かれない?』


『さすがに外では使うわよ。でも、前まで何も考えなくても勝手に効いてたのに、世界樹に吸い込まれて戻ってきてからこのザマ。隠れるだけで魔力も消費するし、不便ったらありゃしないわ』


 なるほど、巻き戻されてからロザリィが妙にコソコソしてたり、普通にセフィルと会話していたから変だとは思っていたけど、そういう理由だったのか。


『んで、アンタが仲間と別れて単独行動してるのは分かったけど、この街に戻ってきた理由は?』


『それは言えない……ひっ!?』


 天使がそこまで発言したところで、ロザリィが首に針のようなレイピアを突きつけた。


『アンタ、自分が魔王の一味って自覚ある? 例え天使だとしても、皆に危害を加える危険性があるアンタを黙って逃がすとでも?』


『……あはは、君達に危害を加えても良いくらい権限を与えられてたら、もっと楽しく生きられてたかもしれないんだけどね』


『権限……?』


『私が危害を加えられる相手は罪人とがびとだけに制限されてるんだよ。だから私は、たとえ妖精きみに殺されようとも、返り討ちにする事は許されない。神様はそういうルールの下に私達を創ったからね』


 天使はそう言うと、少し寂しそうに笑う。

 だが、その言葉にピンと来たのか、クレアがハッとした顔で天使に恐る恐る訊ねた。


「もしかして…ラフィート様に会いに来たの?」


『っ!!!?』


 クレアの言葉に、天使は慌てて飛び起きた。


『な、なななななっ! なんで君たちが知ってるのさ!?』


 天使は目を白黒させながら問い詰めるものの、それを見てクレアはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「それは言えない~」


 自分のセリフをそっくりそのまま返された天使は、しばらく硬直してから大きな溜め息を吐いた。



・・



「なるほどねぇ」


 天使が戻ってきた理由は何とも健気で、端的に言えば『居なくなってしまった親友を探してほしいと女神様にお願いするため』だった。


 どうやら"今の魔王"であるタケルは世界樹の力で大昔の天界に飛び、そこで天使でありながら悪事に手を染めた"二百年前の魔王"と対峙したらしく、この天使は崩れゆく魔王の屋敷から逃げた時に親友と離ればなれになってしまったらしい。


『それにしても、二百年前の魔王の正体が天使だったとは驚きだわ……』


 その事実に驚愕の言葉をこぼしたロザリィに、天使は申し訳なさそうにシュンとなる。


『ウチの連中が迷惑かけてゴメンよぅ』


「いや、君の責任じゃないんだから気にするなって。でも、魔王の正体を知ってるってことは、魔王の名前もわかるのか?」


『魔王の名前はアヌミナっていって、気色悪いロリコンのクソッタレ野郎だね』


 この天使、口悪いな……。


『それよりも黒幕の方がヤバイんだよ。アヌミナを後ろから操ってたヤツがいてね、そいつはネブラって言う名前なんだけど……』


「「『えっ!!!?』」」


 思いもよらない名前に、全員が声を上げて固まった。


「……念のため確認するけど、そのネブラって、なんかすげーカタコトで気持ち悪い喋り方する? 何々デェス!みたいな感じ」


『うわっ、それそれっ!! その気持ち悪いモノマネ上手だねっ!? ……でも、何でネブラ知ってんの???』


 うわー、マジかー……。


『そのネブラって輩が、この国のお偉いさん共をたぶらかして、人間の魂をリソースに変換するような禁忌を研究してたのよ。前に私達と一緒にいたセフィルって坊やが王子なんだけど、協力してネブラをやっつけたわ』


 ロザリィの説明に、天使はどんどん青ざめていく。


『アイツ、レンをさらっただけでも重罪なのに、さらにやらかしてたのか……』


「レンをさらった!?」


 何だかとんでもない話になってきたぞ……。


『レンは君らとは違う世界の生まれなんだよ。私達はサードって呼んでるんだけど、そこで大きな火事があった時にネブラが誘拐したって聞いたよ』


「うっへぇ……」


 どことなく不思議な雰囲気だと思ったけど、レンも渡り人だったとは。

 ……あれ? でもおかしいな。


「なんでレンは妖精が一緒に居ないんだ? 渡り人は必ずひとりサポートが付いてくるんじゃないのか」


 俺の場合はロザリィがいて、ノーブさんや他の二人だって妖精のお供が同伴していた。

 妖精のアシスト無しで、ノーヒントのままこの世界に放り出されるのは相当辛いだろう。


『そのルールが出来たのは、ほんの数十年前だからだね。元々は人間が考えたとか、そんな話を聞いた気がするよ』


「へえ~」


 思わず手元に光るボタンを叩くモーションをしてしまいそうになった。


『ネブラが無茶をやる都度に天界の法律が改正されて、どんどん天使の肩身が狭くなるんだ! 全く迷惑ったらありゃしないよ!』


 天使は顔を赤くしながらプンプンと怒り心頭だ。


「どちらにしろ、君は女神様に会って親友のコトを聞きたい……ってことで良いのかな?」


『そうだね。前回はダメだったから、今度こそ会えたら良いんだけど……』


「確か今日のシフトには入ってなかったから、会いたいなら明日かな」


 俺の言葉に天使は絶望した顔でうつむいた。


『私、宿代なんて無いよぅ……』


「それどころか、緊急搬送にかかった費用に、ココの入院費と食事代。それと治癒してくれたシスターの所属する教会への寄付金も必要なんだけど」


 俺の出資金のプールがあるから即金で催促されることは無いものの、この天使にはその支払い義務がある。


『いくら……?』


「一律50万ボニーだから、隣の国のレートだと……10万GOLDくらいかな」


『じっ、じゅうまん!?』


 天使は事の重大に青ざめて震えるしかなかった。

今回は「異世界ハッキング」第148話でアンジュが置き手紙を残して離脱した後の話です。

この直前までのアンジュについては下記をご覧ください。

https://ncode.syosetu.com/n9887dy/148/

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