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139:運命の再会R

「こちらのお二人は、私が行き倒れた時にお世話になったクリスさんとクレアさんです」


 レンに紹介されたので、ひとまず会釈をしつつ軽く挨拶を交わした。

 内心を読まれないように話を進めるのはビジネスマンの十八番なわけで、ここでのミスは命どころか、下手するとこの世界の未来に関わる。

 なんと言っても目の前の男は魔王である可能性が極めて高く、多くの人々を苦しめる"悪意"の元凶である危険性だってあるのだから。


「えっと、俺はタケルで、こっちがリーリアで……」


 と、そんな疑惑を持たれているとは知らずか、男は何故かアワアワと仲間たちを紹介し始めた。

 俺も初対面は緊張する方だが、この男の挙動はどちらかというと「人と接するコトが苦手な人」特有ののアレだった。


 だが、ひとつだけ腑に落ちないことがある。

 それは……


「すごい、ハーレム」


 クレアがぼそりと小声で俺の内心を代弁してくれた。


 そう、コイツの周りにはレンの他にも金髪ロング、ダークエルフ、育ちの良さそうなお嬢さん、黒髪長身美人、知的そうなエルフ、そしてどこからどう見ても天使な女の子……。


 つまり、この輩は総勢7名の女性を従えているわけである!!!


 ……く、くやしくなんて無いんだからねっ。

 そもそも俺には心に決めた女性クレアが居るのだから、同じ状況になったとしても気苦労ばかり増える気しかしない。


 そう考えると、やはり魔王というヤツは相当に強い精神力を備えているのかもしれない。

 ……でも挙動不審なんだよなぁ。


 自己紹介が終わった頃に、ふとクレアを見ると、何故かリーリアという金髪のおねーさんをガン見していた。


「あ、あああああ、あのっ、何でしょう……?」


 さすがに露骨すぎたためかバレバレだったようだ。


「えっ? ……えーっと、おねーさん、耳が」


「耳……? ああ、私はハーフエルフですので普通の人とはちょっと違いますね」 


「なるほど」


「……?」


「……」


 何この会話っ!!

 クレアの「不思議ちゃんっぽい単なる内弁慶」は、初対面の人は驚いちゃうから、そろそろ助け船をだしておこう……。


「おねーさんが困ってるから、ヘンな質問はしないようにね」


「まだスリーサイズ聞いてないよ?」


「やめてっ!!」


 クレアの言葉に、リーリアさんは赤面しながら胸元を隠してしまった。

 セクハラに走りそうになるクレアに軽くチョップしつつ、俺は小声でレンに話しかけた。


「んで、この人たちが例の……?」


「あ、はいっ!」


「ちょっと確認するから、すまないけどしばらく黙っててほしい」


 俺の表情から意を察したのか、レンはコクコクと無言で肯いた。

 それから俺は一気に勝負に出ることにした。


「なるほど、レンは君たちと一緒に旅に出たいのか……だけど、ひとつ確認させてほしい……魔王、貴方の目的は何なのかな?」


 俺の不意打ちに、タケルは驚愕の表情で一歩後ずさる。


「レンは自らを魔王の家来だと言っていたし、そのレンが突然この街を離れる理由が君たちについて行くため……どう見ても君は関係者だろう?」


 推理っぽく言ってみたものの、ぶっちゃけコイツが魔王だというのはハナから分かり切ってるわけで、こちらのブラフにどう反応するか……!


「でも、それでどうして俺が魔王と?」


「んー、レンや周りの人が貴方を見る時の目線かな。信頼のそれとはちょっと違う……そう、部下がお偉いさんに接してる感じ?」


「……少なくとも、世界征服とか悪事は企んで無いからそこだけは信じてよ。それに、そんな人様に迷惑かけるような理由で旅してて、正義に強くこだわりのあるレンが一緒に行こうとするわけないだろ?」


 前世も含めて様々な現場を見てきたからこそ分かる「空気」というものがあり、この魔王に対して周りの女性たちが向けている目は、畏怖ではなく尊敬に近いものだ。

 俺の説明はイマイチ理解出来てなさそうだが、今の反応から察するにこの魔王はこちらに危害を加える意志が無いのは間違いないようだ。


「俺たちの旅の目的は、ちょいとここに居るバカっぽいヤツをウルシュまで連れて行かなきゃならないだけさ」


 そう言ってタケルが視線を向けた先には、レンの言っていた通り天使の女の子が……不満そうに頬を膨らしていた。

 どうやらバカっぽいと言われたのが気に入らなかったらしく、しばらく口論をしたかと思いきや、いきなり魔王を殴り始めた。


『アレが魔王ねぇ……』


 服のポケットに隠れていたロザリィの飽れながらぼやくのを見て、俺も毒気を抜かれてしまい思わず苦笑した。


「……オッケー、"魔王様"に害が無いコトは分かった。まあ、さっき言ってたように、悪党だったらレンがそんな奴に信頼を寄せるわけないもんな」


 俺がレンにアイコンタクトを送ると、嬉しそうに笑った。


「まあ立ち話も何だし、食事でもしながら話そう。近くにオススメの店があるんだ」


 そして俺たちは一度エマを呼びに戻ってから、レンの送別会も兼ねた食事会を開いたのだった。



・・



「皆さん、今まで大変お世話になりました!」


 レンは深々と頭を下げると、小走りでタケルの少し後ろに着いて歩き始めた。

 去っていく後ろ姿を見届けた俺たちは、自宅に戻って一息ついた。


「ふぅ、少し緊張したけど一段落ついたかな」


「………」


 だが、クレアは難しそうな顔をしたまま黙っている。


「どうしたんだ? 魔王が女をはべらせてるのが気に入らなかったのか?」


 セフィルが茶化して言うと、クレアは少し飽きれ顔でハァと溜め息を吐いた。


「な、なんだよぅ……」


「確かにそれもある」


「あるのかよ!!」


 セフィルのツッコミの少しニヤリと笑ったクレアは、それから憂いを帯びた顔で窓から外を眺めた。


「レンちゃん、なかなか大変の道を選んじゃってるなーって」


 んん???


「どういう意味?」


「あの魔王は金髪のおねーさんと相思相愛。きっと誰も引き離せないくらい凄く強い縁。でも、レンちゃんは魔王に惚れてる。しかも自覚なし」


「……マジで?」


 クレアはコクリと肯く。


『あの子、ぱっと見ただけなら良い子ちゃんなのに内面はかなり野心家ね。虎視眈々と略奪愛を狙ってたりして』


「ひゃ~、すごいな~」


 すごいな~、と言いながら微妙にたのしそうな顔をしているのは何故なのですかエマさん!


「女って、怖ぇぇーー!!」


 色々と衝撃的過ぎる事実を聞かされ、俺とセフィルは本気で恐怖に震えるのであった……。

この回は拙作「もっと脳を鍛えるよい子の異世界ハッキング第147話」の逆視点です。

https://ncode.syosetu.com/n9887dy/147/

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