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137:妖精王ティンクの狙い

 何事も無かったかのように独房に戻っていったリングシュに見送られ、俺たちは再び城に戻ってきていた。


「さて、これで刀の呪いは解決できたけど、残すはクレアの一件か」


『せめて誰に伝えるかだけでもヒントが欲しいところよねぇ』


 ロザリィの意見に同意しつつ、俺はクレアに目をやると、その手に一通の便せんが握られていた。


「あれ? どうしたんだそれ?」


「分からない。気づいたら、私のポケットに入ってた」


『何それ怖っ!』


 恐る恐る封を開け、中に入っている手紙を取り出すとクレアはそれを読み始めた。


「…………」


 先を読み進めるにつれて、クレアの表情が一瞬だけ俺にしか分からない程度に不機嫌そうに苛立ちの色に染まったのが分かった。


「なるほどね」


 クレア本人は納得した様子、そのまま部屋を出ようとする。


「ちょちょちょ、ちょい待って! 何が書かれてたんだよっ! つーか差出人はっ!?」


 俺の問いかけに、今度こそ隠す様子も無く不機嫌そうに吐き捨てた。


「前半は私の容姿を褒める内容で、後半には"僕の嫁になれ"……って書いてる。差出人は妖精王ティンク」


「『はあああっ!?』」


 トンデモすぎるその内容と差出人に、俺とロザリィは思わず素っ頓狂な声を上げた。


「ちょっと身の程を知らしめてくる」


「身の程って、俺らは平民で相手は国王なんですけどっ!?」


「そんなのは、些細なコト」


 クレアは真顔(すごく怒ってる時の顔です!)で呟くと、俺の手を引いて部屋を出た。

 行き先は言わずともがな。



・・



『やあ、ようこそ! 僕の手紙を読ん……』


「ホーリーライト」


ちゅどーんっ!


 いきなりクレアの放った光弾が玉座を焦がした。


『な、ななな……っ!?』


 顔を合わせた途端に有無を言わさず攻撃魔法をぶっ放された国王は、目を白黒させて驚く。


「せっかく感動の再会だったのに、直後にこんなふざけた形で水を差してくれるとは良い度胸だ。キミの命をいくつ捧げても足りない」


 クレアが何を言っているのかサッパリ分からないけど、国王に対して全力で殺意を向けているのは明らかだ。


『再会って……? あっ! まさか、思いd……』


「ホーリーライト」


 国王が何かを言おうとしたところ、まるで口封じをするようにホーリーライトが直撃した。


「口には気をつけて」


『あわ、あわわわ……』


「それと、少なくとも"私"は貴方に惚れる可能性は万に一どころか、女神様がこの世界を何度改変しようとも一欠片ひとかけらの可能性も無いから、諦めて」


 バッサリという言葉すら生温い程の絶縁宣言に、国王は顔面蒼白で項垂うなだれた。

 だが国王は諦めが悪く、再び頭を上げると俺の顔を見てニヤリと笑った。


『このまま君達を元の世界に帰さないって言ったらどうする?』


 クレアは無表情で首を傾げると、そのままロザリィの方へ向いた。


「ロザリィさん、女王の座とか興味ある?」


『悪くないわね。毎日豪遊してやるわ』


『ぎゃあああああ下克上ーーーっ!?』


 自身以上に極悪な顔でニヤリと笑うロザリィを見て、国王は再びガクリとうなだれた。


「つーか、国王様ともあろうお方が、何でクレアに求愛してんだ? 国民から人気もあるみたいだし、相手には困らんだろうに」


『ぇ……クレアちゃん以上に魅力的な子なんて居るもんか』


「ちゃん?」


『ひぃっ、クレアさんっ』


 何故かちゃん付け呼ばわりされてキレるクレアに凄まれ、国王は震えながら玉座の陰に隠れてしまった。


「これで……魅力的?」


『当然だね! あの僕を虫けらのように見下す冷たい、最高だよねっ!!』


「変態だーーーーーーーーっ!!!」


 某AAで有名な漫画のような言葉を絶叫しつつ、俺はその場を飛び退いた。

 そして国王を見るクレアの表情は、これまた汚物を見るような冷たい目であった。


『ハァハァ、僕にとっては御褒美だよ……』


 この国はもうだめだー。



・・



 城を出た俺たちは、何とも微妙な気分のまま街の中央までやってきた。


「とりあえず女神様の言ってた使命とやらは果たせた……のかなあ」


 俺のはともかくとして、クレアの一件が何を意味していたのか、そもそも国王のドM性癖の暴露なんてマジで誰得なのか、謎は深まるばかりだ。


「さっきから国王がヘンなコトを色々言ってたけど、あれはどういう意味だったんだ?」


「あの王様は頭がおかしいから、ただの妄言だと思う」


「言い方ッ!」


 だが、クレアの口調と表情から察するに「秘密を詮索しないでほしい」という意志がひしひしと伝わってくる。

 こういう時、グイグイと秘密を洗いざらい吐かせようとすると女性はキレるというコトを俺は既に学んでいるので、とりあえず納得しておくことにしよう。


「後はどうやって帰るか……」


 そこまで呟いたところで、突然に空から眩い光の柱が広場の中央に突き立った。

 それを見た妖精たちは大騒ぎ。


『創造神様が降臨なされたぞーー!』


 妖精のひとりが叫んだ言葉に、俺たちは顔を見合わせた。


「まさかの女神様直々のお出迎えとはなぁ」


『セカンドスターに繋がるゲートがここしか無いんですよ』


 苦笑しながら光の柱から出てきた女神様に、妖精達は平伏していた。

 そして、先ほど別れたばかりの国王も王宮を飛び出してすっ飛んでくると、他の妖精たちと同じようにひざまづいた。


『お久しぶりです、ティンクさん』


『このような辺境に足を運ばせてしまい申し訳ありません……』


『良いんですよ。それに、こちらこそ勝手な都合で貴方に失恋させてしまってごめんなさいね』


『いえ! それはむしろ感謝するくらいで……ようやく諦めがつきました』


 すると、国王は俺をキッと睨むと指を差してきた。


『お前! 絶対にクレアちゃ……さんを幸せにしろよ! 泣かすような真似をしてみろ、セカンドスターの軍勢で貴様ら人間共を根絶やしにしてやる!!』


「物騒すぎるわっ!!」


 いきなり人類に宣戦布告してきた妖精に突っ込む俺だったが、それを見たクレアが俺の肩をぽんぽんと叩いてきた。


「大丈夫、そのときは返り討ちにする」


「こっちも物騒っ!!」


 というかクレアを泣かした俺への報復でやってきた国王をクレア自身が応戦するとか、スパ○タンXの24周目かよ。


『さて、時間もあまり無いのでちゃっちゃと戻りますよっ!』


 女神様は息つく間もなく、広場に手をかざして虹色のゲートを展開した。


「何でそんなに急いでるんだよ……」


『今、ポートリアにちょっと重要な人達が来てまして、レンさんはその方々と共に旅立とうとしているのです』


「えっ、それってまさか……!」


 レンが共に旅をすると言ったら、間違いなく「魔王の関係者」で、しかも俺たちと同じく世界樹によって時間を遡ってきた連中だ。

 レン曰く、魔王の目的は天使の帰還とウルシュ国の姫を救済とのことだったが、今回もその通りに動くという確証は無い。


 むしろ、過去に戻るコトを最初から知っていた上で今までの行動が偽装だった可能性があるし、下手すると魔王が"悪意の正体"である危険性だってある。


「女神様! 急いでお願いします!」


『はい、お任せくださいな』


 あまりの展開の早さについて行けない妖精たちを後目しりめに、一同はゲートに飛び込んだ。


 もし本当に魔王が"悪意"だとしても、今の俺にはこの刀がある。

 例え何があっても、クレアを護る!

 そう心に近いながら意識が光に消えていった。



~~



『お、おいっ、あれを見ろっ!!』


 街の角にある建物から煙が上がり、その物陰からひとりの男が飛び出した。


『おのれぇ、脱獄は重罪だぞ貴様ァ!!』


 槍を構えた兵士達に怒鳴られるも、男は臆することなく周りを蹴散らして真っ直ぐに走る。


『例え貴方様と言えども、ここから先にはゴフッ!』


 まだ言葉の途中だった国王の顔を踏み越え、そのまま背中の羽で風を捉えながら急降下し、今まさに消えようとしていた空間移動ゲートに飛び込む。


『せめて妹の門出を祝いたい、おにーちゃんのたったひとつの願いさ!!』


『このブラコンめっ!』


 背中に罵声を浴びながら、男……リングシュは虹色の光と共に消えた。

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