135:囚われの禁呪使い
「何だよあれ、フレンドリー過ぎんだろ……」
国王との会話を終えた俺たちは、用意された寝室のうちの一つに集まっていた。
『若い子からは人気あるみたいだけど、あそこまで軽いのは私もどうかと思うわね』
ロザリィの表情から察するに、自身も国王にあまり良い印象は持ってない様子だ。
一方のクレアは……
「私も、アレを敬うのは何だかイヤ。生理的にダメ」
「それはそれで問題だと思う
国王をアレ呼ばわりな時点でもアウトだし。
「しかし、この刀の呪いはどうしたものかなぁ」
ここに来た目的のひとつである「勇者カトリの刀の呪い」に関して国王に訊ねたものの、この国には特にそういった能力に長けた妖精が居るわけではないそうで。
通りすがりの神官に見てもらったものの、その妖精の技量では刀に呪いがかかっているかどうかすら識別出来なかったので、少なくとも山頂のトーブ村で出会ったロロウナよりも優れた能力を持つ者は城内に居ないようだ。
「誰に会えば良いかだけでも女神様が教えてくれれば良いんだけどなー」
『どうせそれも禁則事項とか言って教えてくれないでしょうけどね』
「それとクレアの件も気になるけど……なぁ」
俺の呟きに、クレアはコクリと頷いた。
「自らの意志を伝える……。でも、女神様の用件が大雑把すぎて、何をすれば良いのか分からない」
「だよなぁ」
三人は女神様の投げっぱなし過ぎる指示に、揃って溜め息を吐いた。
・・
妖精の国セカンドスター滞在二日目。
とにかく刀の呪いを解ける人材(精材?)を探すため、俺たちは城を出て村で聞き込みを行っていた。
しかし小さな国で貴重な実力者が放っておかれるはずもなく、村の住民=平民という有様で、城内の妖精に比べるとさらに一回りも二回りも能力に劣る者しか居なかった。
『渡り人のお付きの妖精と違って能力継承もしてないし、基本的に私より弱っちいヤツばっかなのは仕方ないわよね』
「微妙に自慢げなのが小憎たらしいなぁ」
『フフン』
何だかんだで俺らの中で最強の能力で、しかもこの村に戻ってきてからは見た目的にも俺やクレアよりも年上のおねーさんの自負があるのか、俺の苦言にも余裕の笑みで答えててますます憎たらしい。
そんなたわいもない話をしていると、クレアが何かに気づいた様子で村の外れを指差した。
「あそこは何?」
『ん? あれは……牢屋ね』
ロザリィは微妙に気まずそうに呟いた。
「妖精の国にも犯罪者が居るのな」
『そりゃ天使ですら神に逆らって堕天したりする御時世に、単なる一種族に過ぎない妖精が、皆美しい心を持つ清い生き物~って、そんなわけ無いでしょ?』
「なるほどなー」
ロザリィが言うと妙に説得力あるけど、それをバカ正直に言うと今度こそ怒られそうなので黙っておこう。
『あら、私を見ながら皮肉の一つでも言うかと思ったけど、珍しいわね?』
「お前、ホントいい性格してんな」
『お褒め頂き光栄だわね』
そう言ってニヤリと笑うロザリィに、何とも頭が上がらない俺はさっさと諦めて、再び牢屋に目を向けた。
「さて、そんじゃ行ってみっか」
「『えっ!?』」
クレアとロザリィが共に驚いた顔で俺を見てくる。
「だって、城にも村にも有力候補が居ないとなると、相手が犯罪者だとしても行くしかなくね?」
『うーん……まあいいわ。どうせ他に頼る宛てもないしね』
俺たちは微妙に不安そうな顔のロザリィを先頭に、村のはずれの牢屋に向かって進んだ。
・・
『ここから先には重罪者が居る。気をつけて行くように』
看守の警告に肯きつつ奥に進むと、ほとんどの牢が空室だったが、突き当たりの部屋が一つだけ施錠されていた。
つまり、この牢獄に収監されているのはここにいるヤツだけというコトだ。
正直な話、現役の営業時代は「あの道の方々」も相手していたのだけど、さすがに収監されちゃった客を追いかけて刑務所にまで突撃した経験はないのである。
それにしても、いざ独房を前にすると緊張するなぁ……。
『アンタ何を怖じ気づいてんの?』
「べ、別に怖じ気づいてねーし!」
俺がそう言っているのに、ロザリィはニヤニヤ笑いながら俺の頭を撫でてきた。
端から見ればまるで、強がる子供とそれをなだめるおねーさんみたいで、何だか気恥ずかしい。
そんなやり取りをしていると……
『お客とは珍しいね。どうしたんだい?』
いきなり扉の向こうから声をかけられ、心臓が跳ねる。
『別に取って食おうってわけじゃないんだ。心配せずに気楽にしてておくれよ』
気楽にと言われても……。
『とりあえず聞くけど、アンタの罪状は?』
冷静に訊ねるロザリィの質問に、ドアの向こうから『自己紹介もまだなのにせっかちなお嬢さんだねぇ~』と笑う声が聞こえてきた。
『禁呪を編み出してぶっ放したら捕まっちゃってね。この村の連中は臆病者ばかりで嫌になっちゃうよ』
『禁呪って……そんなバカな真似したら、そりゃ捕まるでしょうよ』
呆れ顔でぼやくロザリィに、牢屋の主はまた楽しそうに笑った。
「禁呪って何?」
『んー、なんて言うかね、ルールをまもらずに魔法を使って、通常とは違う効果を得ようとする行為のコトね。人間には無理なのだけど、複数の属性魔法を同時に詠唱して混ぜたりするのが代表例かしら。昔は合成魔法って呼んで研究もしてたみたいだけど、暴発のリスクが高すぎて禁止されたのよ』
「確かに人間は一種類しか属性持てないから無理だな。それにしても、合成魔法とか理科実験みたいで面白そうで良いなぁ~」
若い頃の学業に関しては成績はあまり良い方ではなかったけど、毎月届く某科学雑誌が楽しみで読んでた者としては、そういうコトを聞いてワクワクしないわけがない。
巻末の漫画でロケットが飛んだのを見た時は子供心に狂喜乱舞したものだ。
そんな感じで俺が感嘆の声を上げると、牢獄の中からガタッと物音が聞こえた。
『君もそう思うかいっ!? いやあ、こんなところで同志に逢えるなんて嬉しいなぁ。是非、お顔を拝見させておくれよ』
ガチャ!
……牢獄から普通にドアを開けて、ニコニコ笑顔の男が出てきた。
『初めまして、僕の名前はリングシュ、見ての通りごくごく平凡な妖精さ』




