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134:妖精の国

 俺たちは退院したレンと共に、セイントブラッドのリベカさんのところに向かった。

 想定通りに用心棒としてレンは即採用され、リベカさん目当てのチンピラ客を追い払う仕事をしっかりこなす日々が始まったわけだが、一方でセイントブラッドから少し離れたお店「可憐庭かれんてい」では、店長と獣人てんいんがせっせと働いていた。


「先輩~。あたしはいつになったら故郷に帰れるんですかね?」


「んー、少なくともしばらくはウチで働いてもらいたいわね。同族として、ずっとクリスくん達のすねをかじって旅をするようなていたらくは認められないから」


「そんなーーーっ!」


 というわけで、アンナは可憐庭で馬車馬のように働かされていた。


 実はカレンさんに「アンナに隠し酒を飲まれたコトをまだ根に持ってる?」と聞いたのだけど、即答で「当然よ!!」とド直球な回答を頂いたので、多分その酒代分くらいはコキ使われそうな予感がしている。

 不可抗力な気もするけど、頑張ってもらうしかないだろう。


「それにしても、俺たちがココに巻き戻って帰ってきたのも驚きだけど、アンナまで神都ポートリアに来たのは不思議だな。過去に戻るだけならワラントや前の世界に行くはずだろうに」


 俺が疑問を口にすると、カレンさんは「そうそう!」と言いながらこっちにやってきた。


「それね。私も不思議に思って確認したんだけど、答えは"禁則事項に抵触するため情報提供不可"って言われてねぇ。あまりに事務的過ぎてビックリしちゃった」


 確認した……ということは多分その相手は創造神ラフィート様なのだろうけど、獣神ティーダの立場ですら聞き出せないって、今回の世界樹の一件は相当マズイ話なのかもしれない。


「俺たち、これで神の怒りに触れて街ごと大水で流される……みたいなコト無いよね?」


 俺がここに転生する前の世界で大昔に起こったとされる大災害の例に仲間達はギョッとするが、カレンさんは手をパタパタ振りながら笑った。


「だいじょーぶ! クリスくんたちはお咎めナシだから安心してっ。それにね……」


 カレンさんは愁いを帯びた表情で窓から空を見つめた。


「そんなコトされたら、お店の借金返せなくなっちゃう……」


「Oh……」



・・



 それから数日後、俺とクレアとロザリィは"とある方"と対面していた。

 周りは「真っ暗」で、ここがどこなのかと聞かれても、とんと見当がつかない。

 

「お忙しいところ、お時間を頂いてしまってすみません」


『ホントですよっ。本来なら配送という名目でデートを楽しめてたんですからね! ぷんぷんっ』


「え゛……」


 素で固まる俺たちに、目の前の美しいお方はコホンと軽く咳払い。


『冗談ですからね!』


 冗談と言うものの、先ほどの表情から察するに半分以上は本気……いいえ! 何でもないですっ!


「というか、心読むのやめてくれません?」


『これに関しては私もどうこう出来ないので諦めてください』


「はぁ」


 そう、俺たちの目の前に居るのは世界の創造主たる、女神ラフィート様そのひとである。


『今回の旅はどうでした?』


「ホント異世界って何でもアリなんですね」


 俺の呟きに女神様は苦笑する。


『私としてもこんなデタラメな状況は初めてですけどね』


「……世界樹が"悪意"である可能性は?」


 俺の問いかけにラフィート様は困り顔で首を横に振った。


『確証がまだありません。ですが、ウルシュ国のオウカ姫を生贄として自らの種子を残そうとするロジックは見つかりましたし、悪意が世界樹を利用して何かを狙っている可能性が高いと考えています』


「利用?」


『はい。世界樹は神々が天界と行き来するために設置した転送ゲートであり、本来はそれ以外の機能を持たないはずなのです。当然ながら種子を残すだの人の魂をどうこうするような能力は与えていません。つまり……』


「世界樹に細工をした犯人が居る……?」


 俺の言葉に、今度は頭を縦に振った。


『さて、時間も限られていることですし、本題に入りましょう。創造神ラフィートより使命を与えます』


「……使命?」


『これから皆様を貴方達を妖精の国へ送ります。そこでクリスさんの持つ勇者カトリの剣の呪いを解いてもらってください』


「呪いはロロウナに……って、ああそうかっ! 巻き戻ってるのか!」


 俺が背負った日本刀を抜くと、確かにしっかりと刀身が復活していた。

 でも、それはつまり呪いの刀をずっと装備しっぱなしなわけで、何だか怖いです。


 そんなコトを考えている一方で、何だか不安そうな顔をしているロザリィが恐る恐る口を開いた。


『妖精国に人間を……そのようなコトが許されるのですか?』


 ロザリィが驚愕の表情で言うと、ラフィート様はニコリと笑った。


『はい、既に妖精王から許可は得てあります。そしてクレアさんは、そこで自らの意志をハッキリ伝えてください』


「えっ、私ですか?」


 ロザリィに続いてクレアも驚いているが、これもラフィート様は笑顔で返した。


『それでは、皆様に御多幸を……』





「ここは……?」


 ラフィート様に見送られた後、気づいたら三人は大きな門の前で横たわっていた。

 ……三人?


『ん……』


 俺の横に居たおねーさんが目を擦りながら体を伸ばし、それから俺の方へ向いた。


『なるほどね、こういうスケールになんのね』


 この口調、目つきの悪さ、髪型、腰のレイピア、そして背中の羽……!

 身長は俺より頭一個分以上高い(悔しい!)けど、間違いない!!


「ロザリィ!? なんでデッカイっ!!?」


『期待通りの反応ありがとね。まあ、でっかくなったというか元々がこのサイズというか、色々あんのよ』


 色々の一言で解決されてしまった。


「で、ここが妖精の国ってことで良いのかな?」


『ええ、正式にはセカンドスターって言うんだけどね。妖精王ティンクによって統治されている、とても小さな国よ。規模的にはワラント以下ね』


 セカンド……ってことは、一番目ファーストもあるってコトなのだろうか。


「でも、刀の呪いを解いてもらうとか、クレアが意志を伝えるとか、どうすりゃ良いんだろう?」


『とりあえず妖精王に謁見をお願いしてみま……』



『そこの者、止まれ!』



 いきなり頭上から聞こえた威嚇の声に俺とクレアは身構えたものの、ロザリィは表情を変えず俺たちの前に立った。


『私は渡り人の守護者ロザリィ、創造神ラフィート様のめいによってこの人間二名をお連れしました。至急、妖精王ティンク様との謁見を願います』


 ロザリィらしからぬ丁寧な口調で応対すると、空から槍を持った髭面の妖精?が降りてきた。


『なるほど。そのような話は伺っていないが、女神の名を騙るも無許可で人間族に里の場所を教えるも自らの命を失う愚行。貴殿がそのような無策を取るようには思えぬ……通って良し!』


 この手のパターンだと門番とモメるのが定石だと思っていたので、何とも拍子抜けではあるけど、あっさりと門を通ることを許された。


 街の様子もファンシーな妖精たちがキャッキャウフフ~……なんてこともなく、ふつうに人間と同じスケールで、背中に半透明な羽の生えた方々が、ふつうに生活していた。

 さすがに人間が珍しいのか一瞬驚いた顔でチラリとこちらを見るものの、ロザリィよりずっと小柄な少年少女である俺たちが害をなす可能性は低いと判断したのか、特にジロジロと見られたり絡まれるコトもない。


「ここの妖精たちは結構クールなのな」


『人間と違って俗っぽく無いからよ。それが必ずしも良い事とは思えないけどね』


 そんなロザリィの表情は、何だか退屈そうだった。



・・



『やあ、君達が女神様の言っていた子達だね。ようこそ妖精の国へ!』


 そう言いながら、若いおにーちゃんっぽいヤツが現れた。


「えっと、あれ? 国王様は???」


 俺の言葉に、おにーちゃんはニヤリと笑った。


『うんうん、若く見えもらえて嬉しいねー。家臣からは威厳が足りないとか小言を言われるんだけど、未婚で老けるなんてまっぴらゴメンさ!』


 ……もしかして。


「まさか国王って……」


『そのまさか、よ』


 ロザリィはあっけらかんと言った。


『僕の名前はティンク。この国の国王をやっているよ』

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