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133:もうひとりの当事者

「レン……!」


 運ばれてきた患者の姿を見て驚きの声を上げた俺に、ティカートおねえさんは首を傾げた。


「あれ? クリスくんの知り合いの子だったの??? ……ってそれどころじゃないやっ、クレアちゃんよろしくっ」


 ティカートおねえさんにお願いされ、クレアとロザリィが立て続けにヒールを放った!

 ……って、あれ? 何だかクレアのヒールの威力がおかしいような?


 俺が首を傾げていると、ロザリィがコソコソと俺の耳の後ろにやってきた。


『私とあの子が分離しちゃったから、もうクレアは単なる「普通の女の子」よ。今までみたいにムチャさせちゃダメだからね?』


 ああ、なるほど。

 今まではロザリィの力を継承していたから超強かっただけで、それが離れてしまった今、年相応の能力になってしまったのか。


『アンタ、なに微妙に嬉しそうな顔してんのよ。男冥利に尽きるとか、護りがいがあるとか思ってるんでしょうけど、ちゃんと頑張りなさいよ?』


「お、おおおおぅっ!」


 何だか心を見透かされたようで気恥ずかしい。


『あと、能力うんぬん関係なくあの子は心がメッチャ強いからね? たかが魔法の威力が下がったくらいで、アンタが尻に敷かれる関係が変わるような事は絶対ありえないとだけは言っておくわ』


「……おう」


 まあ、性格的にそれは分かってるさ……。

 と、ロザリィとそんな会話をしていると、階段の下からドドドドっと激しい足音が聞こえてきた。


「お待たせしましたぁっ!」


 教会のプリーストさんが慌てて部屋に飛び込んでくるや否や、とんでもない威力の回復魔法を連発し、そのままペコリと頭を下げてそそくさと帰っていった。


「……あの人、何気にヒールの効果スゴイよねぇ? ホントに人間なのかなぁ???」


 呆然と呟くエマに一同は肯きつつ、レンの方に目をやると、先ほどのヒールが効いたのかスヤスヤと安らかな寝顔になっていた。


「でも不思議」


 クレアが突然ボソリと呟いた。


「何が?」


「"前回"レンちゃんが現れたのは、クリスくんが…働きたくないでござるーって言いながら家でゴロゴロしてた頃だったから」


「ぐふっ」


 クレアのモノマネに若干、俺のグータラ生活を責めるニュアンスが含まれていた気がして心がチクチクと痛むものの、確かにタイミングを考えると不思議だ。


「レンの到着が早すぎるな。まるで封印されていた洞窟から、この街に向かって真っ直ぐ歩いてきたみたいだ」


『案外、この子も私たちを追いかけて世界樹の穴に飲まれてたりして』


 ロザリィが冗談っぽく言ったものの、なんたってレンは200年前に世界を滅ぼそうとした魔王の家臣なのだ。

 そもそもレンが封印されていた北の洞窟だって、とても常人が歩いて行ける距離ではないわけで、それを考えると南北大陸を泳いで渡ったとか雪原を軽装で走破した可能性も否定出来ない。


「……目が覚めたらホントに確認した方が良いかもな」


 俺の呟きにセフィルは深く肯いた。



・・



「ええっ! 皆さんもウルシュにっ!?」


 目を覚ましたレンは、初対面のはずの俺たちのコトを見事に覚えていた。

 それはつまり彼女も同じく「巻き戻った」という意味になるのだが、俺たちの思っていた理由とは少し違うようだ。


「皆さんが出発して数週間後に私も旅に出たのですが、南の大陸で……えっと、その……」


 レンにしては珍しく、歯切れ悪く口ごもってしまった。


『別にアンタが何やってたって、ここに居る連中は嫌ったり軽蔑するようなコトはないから安心なさい』


「あ、ありがとうございます……って、うわあっ!? この方は……木霊こだま物怪もののけですか?」


 さすがに妖精の知識はもってなかったのか、レンがロザリィを見て目を白黒させている。

 それにしてもモノノケとは……ププーッ。


『私はロザリィ、種族は妖精よ。……って、アンタは何をニヤニヤしてんの? キモいわよ』


「き、きききき、キモくねーし!」


 そんなやり取りをする俺たちを見て安心したのか、レンは少し笑ってから再び真剣な表情になると、ゆっくりと語り出した。


「私はかつての仲間たちと……『新たな魔王』と出会いました」


『「っ!?」』


 この世界の魔王が復活していただとっ!?

 レンの言葉に一同は騒然となる。


「……あっ、魔王と言っても世界を征服したり悪行に身を委ねるような方ではありませんから大丈夫ですよっ! アンジュさんという背中に羽のついた可愛らしい女の子を、神様の居る国に返してあげるために皆で旅をしていたのです」


 「背中に羽」という言葉に妖精と思った俺はロザリィの方に目をやるが、当人は首を横に振ってその可能性を否定した。


『神の居る国……つまり天界に妖精は居ないわ。天界に帰るということは、つまりアンジュってヤツは天使ね』


「この世界すげーな、天使まで居るのか……」


 俺は驚きに声を上げつつも、ロザリィはまだ首を傾げたままだ。


『でも、天使って存在するだけで妖精とは比べものにならないくらい膨大なリソースを消費するはずなのよね。この世界の神様は当然ラフィート様だけど、あの方が天使を連れている姿は見たことないし、アンジュはもしかすると別世界の天使なのかもね』


「渡り人に妖精がくっついてくる時に、間違えて天使がくっついてきたとか?」


『この世界は何が起こるか分からないし、ホントにその可能性も否定出来ないわね』


 そんなうっかりで呼び出された天使さんも、なかなか難儀なこって。


『それにしても魔王と天使が冒険って、なんともアンバランスな組み合わせよねぇ』


「商人と妖精ってのも大概だと思うけどな」


『王子と街娘もね』


 ロザリィが妖精に戻った後もセフィルとの掛け合いは健在で一安心~……って、そうじゃなくて!


「天使を神様の居る国に返すってことは、レンたちも世界樹の空間転移を求めて旅をしてたのか?」


「はいっ。ですが、世界樹がウルシュ国の姫様の命を奪う元凶だと突き止めまして、それを防ごうとしたところ、世界樹と戦いになってしまったのです」


 なるほど、ルートや目的は異なるもののレンたちのパーティも世界樹にたどり着いて、例の虹色に吸い込まれて巻き戻されたわけか。


「それで海沿いの洞窟で目を覚ましたレンは、真っ直ぐにこの街に向かって来たんだな」


 セフィルの言葉にレンはコクコクと頭を縦に振った。


「んで、これからレンはどうするんだ?」


「……少なくとも、こちらでお世話になった費用をお返しなければなりませんし、リベカさんを放っておけません」


『相変わらず真面目ちゃんよねぇ』


「ふふ、正義のために戦うのは我が使命ですから」


 相変わらずなレンの言葉に一同は笑った。

時間軸としては「異世界ハッキング」139話の数日前です。

https://ncode.syosetu.com/n9887dy/

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