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013:メイドと手紙と御守りと

 ある時は学生!

 またある時はリカナ商会の営業マン!

 またまたある時はホース・タンプ社の観光アドバイザー!


 果たして、その正体はっ!?


「キャーーー! 可愛い~~~~~!!!」

「こっち! こっち向いて!!」

「こ、こここ、興奮しすぎて鼻血が……!」


 マダム邸のメイドをやっています。


「どうしてこうなったっ!?」



ある日のこと。


「マダムの誕生日?」


「はい、来月1日で御年60歳になられます」


「へぇ、60ということはカンレキ……あー、やっぱりこっちの世界にこの言葉は無いのか」


「?」


 おっちゃんの代わりにリカナ商会で店番をしている俺の前には、メガネ&三つ編みメイドのロベルタ…じゃなくて、メイド長のシーナさんが立っている。


「マダムには凄くお世話になっているし、是非ともお祝いをしたいな。でも、いったい何を贈れば喜ばれるのかなぁ?」


 天下のマダム・パテラーヴはこの街一番の大金持ちなので、下手なプレゼントでは逆に失礼になってしまうだろう。


「いえ、別に高価な物をお渡しする必要は無いと思いますよ。特にクリス君の場合はお薬を買うためにお金が必要なのですから、マダムは高価なプレゼントなんて望みませんよ」


「うーん…」


 そう言われるとますます迷ってしまうぞ。


「ですので!」


 バンッ! とカウンターに冊子を置くシーナ。


「何これ? ……マダム様歓迎計画???」



 …というわけで、その計画のかなめが俺のメイド服姿らしい。

 ロザリィにものすごくバカにされるかと思っていたのだが、一言…


『少年……メイド……二番煎じね』


「なんか、お前の知識って偏りが酷くね??」


 そんなこんなで俺はメイドさん達に囲まれているわけだ。


「こここここ! この破壊力ならマダムもお喜びになることでしょう!」


 個人的にはメイドさん萌えだが、鼻をハンカチで押さえたまま赤い顔で興奮している姿には正直ドン引きである。


「コレ本当に喜びますかね???」

「間違いなく、そのまま天に召されかねないくらい喜びますね!!」


 おいおい……。

 というか還暦祝いにメイド服姿の少年を連れてくるとか、頭オカシイにも程がある。


「マダムが戻られました!」


 玄関付近のメイドさんの言葉に他の面々が反応し、即座に持ち場へ移動する。

 マダムが大広間にやってくると…


「「「「「誕生日、おめでとうございます!!!」」」」」


「ええ、ありがとうみんn……」


 マダムが優雅に前を向いた瞬間、目の前に居る俺のメイド姿を見てフリーズした。

 あーあ、知らねーぞ。


「お前達……」


 マダムの言葉に緊張が走る。



「これでいつ死んでも思い残すことは無いわ……」



 アンタも同類かーーーーーーーーい!!!



「あの喜び方は、正直引くわー」


「まあまあ、そんなこと言わないでくださいよ」


 シーナさんに送られながら自宅を目指す。

 女の子に送られるというのもどうかと思うのだけど。


「マダムは早くに息子さんを亡くしてますから、君のような小さな子が可愛くて仕方ないのですよ」


 息子さん、と言おうとした時、一瞬とても悲しそうな表情が見えた。

 もしかすると、シーナさんにとっても大切な人だったのかもしれない。


「私にも……」


「……」


「君と同じくらい力があれば、救えたのかなぁ…って」


「…………」


「ゴ、ゴメンなさい、ヘンなこと言ってしまって…。でもきっと大丈夫! これだけ頑張ってるのですから、きっと神様だって助けてくれますよ!」


 ラフィート様は今頃、渡り人のアフターケアに大忙しだろうしなぁ。

 何だかドジっ子っぽかったし、ヘルプ要員として使い物になるのかは怪しい。

 などと思っている間に、我が家に到着してしまった。



「今日は本当にありがとうございました。それでは今回の報酬です」


「えーっと、さすがに誕生会の手伝いでお金を貰うのはちょっと…」


「では言い方を改めて。マダムから目の保養代としてお小遣いを頂いていますから、どうぞ♪」


 そう言われると受け取るしかないじゃないか……む、かなり分厚い。


「それと……この手紙を知り合いに届けてほしい、だそうですよ」


「手紙を知り合いに届けるって、なんで僕に???」


 そう言いながら手紙の宛先を見ると…「モリス聖薬」宛!?


後天性天命流出症候群リソースリークの特効薬を作ってる会社ね…』


 まさかこんなに早くラストダンジョンが……。

 というか、どうしてマダムがモリス聖薬に手紙を……?

 分からないことだらけだが、これは受託じゅたくすべきだろう。

 理由は後で考えよう!


「シーナさん、マダムに改めてありがとう!って伝えてください」


「はい、承りました!」


 さっきまで泣き顔だったメイドさんは、満面の笑顔で帰って行った。



収入

 旅行客の土産物購入利益40% 6,777,216ボニー

 マダムからの謝礼金100,000ボニー


[現在の所持金 31,581,716ボニー]



 モリス聖薬は10年前に王立医学研究所の職員数名が独立して作った会社で、薬品の販売・流通を主な業務としている。

 ただしその業務は商売だけに限らず、現在も医学研究所との間で共同研究も行っており、クレアの病気を治す特効薬「ルナピース」も双方の技術協力あってこそ生まれた奇跡だと言われている。


 しかし、俺の目標としている金額、つまりルナピースの市場販売価格は5000万ボニーなのだが、日雇いの職人の賃金が1日あたり約3万ボニー、クレアの両親が命を落としたバレル炭鉱ですら二人合わせて1日12万ボニー程度の収入だったと考えると、とても庶民の手が届くレベルではない。


 だからと言って、モリス聖薬が優位性のために庶民の足下を見て値段を釣り上げているとは到底考えにくい。

 薬の価格が高すぎて買い手が付かなければビジネスとして成り立たないし、そもそも国が開発に関与している特効薬で暴利を得ようとすれば、確実に指摘が入るだろう。

 つまり、ルナピースには製造コストが高くなってしまう「何らかの要因」があるのではないだろうか?


「それよりも問題なのは…」


 モリス聖薬の所在地は王都レヴィート、この国で一番巨大な都だ。

 海沿いのこの街から馬車で行こうとすれば、片道だけで何日もかかる旅になる。

 10歳の子供が移動するには長すぎる距離だが、マダムがそんな遠い地にある製薬会社に手紙を持って行けと俺に託したということは、この手紙には「長期間この街を離れてでも行くべき理由」が書かれているのだろう。


 俺がすべきことはただ一つだ。



- リカナ商会にて。


「おう、行ってこい! 店がクッソ忙しいけど何とかならぁ!」


「ちゃんと俺の客の分は、俺の売り上げにカウントしてくれよ?」


「あったりめーだ!」



- ホース・タンプ社にて。


「マダムから話しは聞いているよ。馬車と宿は手配しておいたから、心配せずに行ってきなさい。ここが正念場だよ」


「ありがとう!」


「礼を言うのは私のほうさ。改めて、ありがとう」



- 校長室にて。


「タンプさんから話は伺ってるわ。気をつけて行ってらっしゃいね」


「はい、ありがとうございます。でも、なるべく馬車で自習します…」


「あら、羨ましい。私は乗り物酔いしちゃうのよねぇ」




 そして……




- メディラ病院にて。


「オッス、オラごくー!」


 いつもの挨拶で病室に入る。


「うん…………こんにちは」


 クレアは横たわったまま顔だけこちらに向ける。

 自力で起き上がるのも難しい様子だ。


『リソース量が……ギリギリね』


 ロザリィがかなり苦い顔をするが、冷静さを保ったまま話を続ける。


「俺な、もうすぐ薬が買えそうなんだ」

「…………うん」


「で、その薬はすげー遠くの街に売ってるらしいんだ」

「…………知ってる」


「なるべく早く帰ってくるからさ…。その…」

「…………?」


「戻ってくるまで、絶対死ぬなよ」

「…………当たり前っ」


 横たわったまま右手を挙げて、ブイサイン。

 この国の文化ではなく、俺が教えてあげたポーズだ。


「…………あのね?」

「うん」


「…………私にくれた…………髪飾り」


 クレアが向けた視線の先、ベッドの上の棚へ大事そうに置いてある。


「…………御守り代わりに…………持って行って…………また返して」

「うん、分かった。これを見てクレアを思い出しながら、頑張るよ」


 今まで黙ってた周りの子たちが小声でキャーと言っているのが聞こえる。

 恥ずかしいけど我慢我慢…。


「それじゃ、行ってくるよ」

「……行ってらっしゃいっ」


 行ってきます。


 そして俺は、王都レヴィートへ出発した。

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