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129:リターン

 クレアの言葉に、皆が驚愕した。


「それって……」


「世界樹は………人の命を食う、化け物」


 そのままクレアは黙り込んでしまった。


「じゃあ、リソースリークは……今まで多くの命を奪ってきた原因は……」


 エマが巨大な樹を見上げて呆然と立ち尽くした。

 そして……



「ぶっ倒しちまおうぜっ!」



「「「「『!?!?!?』」」」」


 アンナのぶっ飛んだ提案に、皆の目が点になった。


「え、えーっと……本気で言ってる?」


「本気に決まってんだろ! だって、クレアやエマはコイツのせいで辛い思いをしたんだろ? しかも人の命を食うとか、そんな危なっかしいモンを放っておくわけにもいかないじゃないか。これだけデカいなら切り倒して木材にしちまえば、しばらく建材や薪に困らないだろうし、ぶっ倒すしかないだろ!!」


 確かに、世界樹がリソースリークの元凶なのであれば、アンナの言うように切り倒してしまうのが手っ取り早い。

 手っ取り早いけど……。


「ウルシュ国がこの樹を管理してるらしいし、勝手に切り倒すのは……。それに、アンナが帰れなくなるじゃないか!」 


「そんなチンケな事を気にすんなって!」


「いやいやいや、そこかなり重要だからっ……!」


 と、俺がそこまで発言した瞬間、ぞわりと悪寒が背中を走る。

 同時にロザリィも違和感に気づいたのか、皆の前に飛び出して両手を広げた!


『Extra protection!!!』


 先ほどまで展開していたクレアのホーリーシールドに上書きする形でロザリィのシールド魔法が広がり、その直後、世界樹から虹色のビームが降り注いだ!!!



キキキキキキキィン!!!



 シールドから甲高い音が響き、シールドの表面を削るように光の粒が飛び散った。


「なっ!?」


 世界樹が先制攻撃を仕掛けてくるとか、デタラメ過ぎる!


「ライトニンクボルト!!」


 セフィルが世界樹に向かって電撃を放つも、どこぞの心の壁のようなシールドに弾かれて消えてしまった。

 続けてアンナが外に飛び出そうとしたが、俺はそれを手で制止して魔法を放った。


「サンドブラスト!!」


 俺の放った砂粒は、シールドに到達する事なく虹色ビームに触れるや否や、キラキラと輝きながら消えた。


「あの光に触れると一発アウトっぽいな……」


「ひええ、行かなくてよかったぜ……」


 しかし、このままではロザリィのシールドが破られるのは時間の問題だろう。

 どうすれば……!


『……クリスッ! エマッ! 全力で真下に向かって掘削ディギングをぶっ放して……手加減無しでっ! 着地はどうにかするから、早くっ!!!』


 ロザリィの指示に、俺とエマは顔を見合わせた。

 俺はともかくとして、常人よりも遙かに巨大な魔力を持つエマが全力で掘削ディギングを放つと、世界樹の前に超巨大なクレーターが形成されるだろう。

 いや、もしかすると世界樹がそのまま倒れてしまうかもしれない。


 ……つまり、ロザリィは『世界樹を倒せ』と言っているのだ。


「エマ! いくぞ!!」


「うんっ!」


 俺とエマは急いで詠唱を済ませ、二人同時に地面へ手をつけて叫んだ。


「「掘削ディギング!!!」」


 そのまま真下に巨大なクレーターが形成され、俺たちはそのまま落下……しなかった。

 確かに俺とエマの魔法によって足下の地面は無くなったが、そこには土の代わりに虹色に光る硬質な床があった。


『くっ、この辺一帯全てコイツの縄張りってわけね……』


 ロザリィが悔しそうに呟いた直後、床が突然ぐにゃりと軟化し、俺たちは虹色の海に飲み込まれた。


 慌ててクレアに手を伸ばしたが、指先から光の欠片になって散っていった。

 そして、虹色の海の中で皆が光の欠片となって消えていくのが見えた。



「こんな終わり方……ありか……よ……」














「……!」


 何やら騒がしい。


「……輩っ!」


 寝ている時に耳元で騒ぐのは勘弁してほしい。


「先輩ってば!!」


「んぁー?」


「んぁー、じゃ無いッスよ! せっかく終電に間に合ったのにこのまま寝過ごしたら意味無いッス!!」


 意識がはっきりしないまま、腕を引かれて俺は電車の外に出た。

 夜風が気持ちいいでふ……。


 ……え、電車?


「えーっと……え?」


「何を寝ぼけてんスか。さっさと目ぇ覚ましてくださいよ」


 そのまま二人で南改札を抜け、俺は東口へ、目の前の女の子……後輩ちゃんは西口の方へ歩み出して、それからくるりと振り返った。


提案競争プロポーザルまであと一週間だからって、根を詰めすぎて倒れたら意味ないッス。私がちゃんとほどほどに頑張りますんで、先輩はご自分の身体を労ってくださいね」


 そう言うと、再びきびすを返して、後輩ちゃんは去って行った。


・・


 通い慣れた通勤路を抜け、自宅アパートに到着。

 ドアを開けてスーツ姿のままベッドにドガッと飛び込んで、身体をくるりとひねって天井を見上げた。


「……なんだこれ?」


 これは、夢?

 いや、むしろ今までの出来事が夢だったのか……?


「サンドブラスト!」


 天井に向けて唱えても、何も起こらない。

 いや、こんな状況でベッドが砂まみれになっても困るんだけどさ。


「何がどうなってんだ……」


 世界樹を倒そうとして掘削ディギングを唱えたら、地面の中から変なモヤモヤが出てきて、その中に落ちて……気づけば元の世界に戻っていた。



―― エレク大陸の中央にある世界樹は、神が天界へ戻る時に使う転移門なの。



 カレンさんが言うように、世界樹には空間を移動する能力が備わっていたとすると、先の戦闘で俺たちは無理矢理に門をこじ開けて、本当に元の世界に戻ってきたのかもしれない。


 でも、クレアは? 他の皆は……?


 そこまで考えたところで、一気に押し寄せてきた酔いと疲れで俺の意識は流れていった……。

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