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126:宿にかけられた呪い

「宿を混浴にしなければならない事情って?」


 俺が訊ねると、仲居さんは少し躊躇ためらいつつも事情を説明してくれた。


「今から約200年前に、魔王の手下達がこの地に呪いをかけてしまったのです」


『呪い……』


 ロザリィがその言葉に反応したのが意外だったが、俺たちはひとまず話の続きを聞くことにした。


「偶然居合わせた勇者たちによってその手下達は撃退できたものの呪いは非常に強く、時の大賢者ストラの力をもってしても完全に封印出来なかったのです」


 何故ファンタジーの頂上大決戦的な闘いが温泉街で行われてしまったのか少し疑問に感じつつも、これで大凡おおよその事情は分かった。

 つまり……


「この宿の建つ土地には、男女混浴にせねば恐ろしい災いが降り懸かる呪いがかけられているのです」



・・



「……意味わかんねーな」


 俺が思っていたコトを真っ先にセフィルに代弁されてしまった。


「確かに、魔王の手下が呪いをかけるのは分かるにしても、温泉を混浴にする呪い……それもこの宿だけピンポイントで狙い撃ちとか意味不明過ぎるもんなー」


 二人でそんな会話をしていると……


『……それ本当なのかしらね?』


 ロザリィが意味深なコトを言った。


「さっきから何か不機嫌そうな顔してたけど、何か気づいたコトでもあるのか?」


『別に不機嫌ってわけじゃ……まあいいわ。要は呪いってのは、低レベルな妖精みたいなものなのよ』


「低レベルな妖精?」


『言葉で表現するのは難しいのだけど、アンタは渡り人だからようせいが見えていたけど、私よりもずっとずっと低レベルな存在だと渡り人ですら見ることが出来ないの。そもそも、アンタ以外の人間にとってはレベルとか関係無しにほとんど存在を感知することは出来ないのだけども』


 確かに、俺もロザリィの姿が第三者から見えないことを利用して市場調査や情報収集を頼んでいたけど、感知出来ない人にとっては『素行調査の魔法』のようなものと言える。


『この世界において、呪いとされるものの正体は大抵、妖精や幽霊といった姿の見えないモノが起因ね。まあ、アンタやどこぞの女神様みたいに意味不明なのも居るけどね』


 さらりとラフィート様を「どこぞの女神様」呼ばわりしているけど、次に会ったら怒られるんじゃなかろうか……。

 俺がそんなコトを心配していると、ひとり予想外の人物が突然口を開いた。


「幽霊って……本当にいるの?」


 不安そうにたずねるエマに対しロザリィが肯くと、エマが突然布団の中に飛び込んで丸まってしまった。


「うわーーーん! 聞かなきゃよかったよぉーーーー!!!」


『アンタねぇ……。そもそも妖精と幽霊どっちともリソースの結晶なんだから、幽霊怖がってたら私はどうなんのよ?』


「だってロザリィさんは良い子だもんーっ! お話も出来るし友達だから怖くないもんーーっ!!」


 友達と言われて満更でもないのか、ロザリィは少し嬉しそうに頬を染めつつ溜め息をひとつ。

 布団の中で丸まったまま出てこないエマに困り果ててしまったロザリィは、ついに諦めてクレアにバトンタッチ。


「おまかせあれ」


「その口調は何なんだよ……」


 セフィルのツッコミに対して軽い脳天チョップで答えたクレアが、丸まった布団の上に手を置いて優しくささやいた。


「そもそも、人に干渉出来る程強い幽霊なんて、よっぽどの事がなければ存在出来ない。……例えば、最期の言葉を伝える為に神様から力を借りるとか……ね」


 クレアはそう言いながら少し懐かしそうに微笑む。


「クレア、それって……」


 俺の呼びかけに微笑んだまま少しだけクレアは頷いた。


「それに……」 


 クレアの天使のような微笑みは一転、何かを企むようなニヤリとした笑いに変貌した~……ってアレぇぇ!?


「エマの魔力なら、幽霊くらい余裕で倒せる。たとえアンデッドの群れが襲ってきても、まとめて煉瓦レンガにしてしまえばいい」


 クレアさーん! 前提条件がいちいち物騒ですよーっ!!


「うぅ……それなら大丈夫……なのかなぁ? 何だか釈然としないけど、セフィルくんっ」


「な、なんだっ!?」


「もし夜中に起きちゃったら、私が寝るまで手をぎゅっとしててねっ」


「う、お、ぉ、おおおおうよっ! 任せておけっ!!」


 エマの可愛らしいお願いにセフィルは我が世の春が来たかのように狂喜乱舞して大喜び。


『ガキンチョねぇ……』「若いな……」「若いねぇ……」


 見た目と実年齢の一致していない3人はリアル若者カップルを見ながら苦笑した。



・・



 ツギノヒー。

 旅の疲れを癒やすためにしばらく滞在することにした俺たちは、街に出て色々と情報を収集しているわけだが……。


「え、あの宿ですか? ……ぷっ! あ、笑ってごめんなさいね」


 とか。


「あんな風紀を乱すような宿、即刻封鎖すべきよ!」


 とか。


「あそこにはワシの青春……楽園じゃ……」


 とか。


 ……最後のエロジジイはさておき、この街において俺たちの泊まっている宿はイマイチ評判がよろしくない様子。

 実際、過去に何度も宿を潰して観光施設を作ろうという運動は何度も起こっていたらしく、街の男連中の懇願により延期を繰り返しているようだ。

 陳腐な表現ではあるけど、つまりは「野郎共、必死だな(ワラ」というヤツである。


 しかし、そもそものところ混浴を強要されているわけではなく、イヤなら入らなければ済む話だ。

 それを人様の宿に向かって「混浴が気にくわないから宿を畳め!」のような言いがかりを付ける方が間違っているわけで、反対派も倫理的に自分たちの要求の乱暴性を理解しているからこそ、強く推せないという理由もあるようだ。


 どこの誰とは言わないが、どこかの世界にはそんなコトおかまいなしに人様の趣味にケチをつけて、やれ規制だ中止だと騒ぐ連中が多数居たけども、幸いこちらの世界にはそういった頭のおかしい人は居ないようだ。


「そもそも、ココの宿を潰して呪いが発生したら誰が責任取るんだっつー話でもあるわなぁ」


『宿を潰そうとした連中全員吊し上げれば良いだけじゃない?』


「そういった連中は何だかんだ理由を付けて責任から逃れようとするんだよ。まあ俺はお構いなしに牢にぶち込んできたけどな」


 さすが放浪の世直し旅をしてきたセフィルはその手の話に詳しい様子。

 そして、俺たちが宿に戻って廊下を歩いていると、エマが何かに気づいた。


「あれ? あそこに案内板があるよっ」


 トトトッと走ってそこまで行ったエマが案内板を見ると……


「こ、これはーーーっ!!?」


 イベントフラグが立ちそうな意味深な言葉を吐いた。

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