124:ボーナスステージにナスを置くセンス
トーブの村を東に向かって出発した俺たちは長いトンネルの出口付近に来たところで、店のオバチャンが用意した「山越えフル装備」に身を固めた。
モフモフのフードにモフモフの分厚い服。
下地も白いモフモフ……モフモフ……。
そして俺はこの服装にはとても既視感があった。
そう、これは間違いなく……
「アイ○クライマーだーーーー!!!」
俺がボーナスステージのナスを取り損ねて谷底に落ちた1Pの泣き真似をしたものの、仲間たちは困った顔で苦笑するばかりだ。
『ゴメンね、そのネタ分かんない』
さすがのロザリィもこのネタの扱いには困っている様子。
「うん、こちらこそおっさんにしか分からないネタ振ってごめんな」
素直にロザリィに謝罪しつつも、今頃ワラントでまったりと暮らしているであろうノーブさんがこの場に居ればリアルファイトネタで盛り上がっただろうに……と少し残念な気分になった。
しかし、いざトンネルを抜けるとそんな気分すらも吹き飛ばすほどに、一面の銀世界が広がっていた。
幸いにも天候は晴れ! 最高のスキー日和!
……スキーやったコトないんだけどね。
「これが雪…ていっ」
「ぶあっ! クレアてめえ、何で俺に向かって投げたっ!?」
顔面に雪玉をくらったセフィルが雪を払いながら抗議をするものの、クレアは首を傾げる。
「投げやすそうなキャラしてる」
「意味わかんねえっ!!!」
そのまま全力の雪合戦に突入したクレアとセフィルの漫才in雪山ステージも好調のようだ。
子供のテンションをMAXまで引き上げる雪の魔力は、異世界も共通らしい。
だが……
「ガチガチガチ……」
ひとりだけ唇を真っ青にしながら酷い表情で震えているヤツが居た。
「このクソ寒い中で平気な顔してるとか、お前らバケモノかよ……ガタガタガタ」
「アンナは寒さに弱かったんだね……」
以前ネット動画で、窓を開けるや否や積もった雪に猫が突撃して、あまりの寒さに慌てて家にすっ飛んで帰ってくるやつを見たことあるけど、アンナもどうやら例に漏れず寒さに弱いにゃんこさんらしい。
『うう……。あ、そうだっ! そーい、ずぼー』
「ぴぎゃっ!?」
アンナがエマのフードの隙間に手を突っ込み、首に手をかけた。
『頸動脈、暖かい……』
「言い方が嫌すぎる」
「だ、だめぇ、ぬ、抜いてぇーー……!」
首をブンブン振り、アンナを振り払ったエマは全力ダッシュで逃亡し……あっ、コケた。
「………」
それを真剣な顔で眺めるセフィル。
「どうしたんだ?」
「いや、さっきのぬいてーー…いや、何でもない」
………。
「若いな」
「おいっ! こんな時だけ年上っぽい雰囲気を出すのやめてくれねぇ!?」
こちとらお前の3倍人生を生きてんだ若造よ。
それも通った道である。
「ちなみに前の世界には声どころか姿もひっくるめて保存して、何度も見られるモノもあったぞ」
「マジか……」
セフィルの脳内の様子が手に取るように分かってしまうのは男の子のサガと言うもの。
「さすがにビデオカメラは無理でも、金属管に刻む円柱式録音機ならいけるか……でも音量に問題があるんだよな……ブツブツ」
『またクリスの病気が始まったわ……』
病気言うな。
・・
幸いにも途中で休める洞穴があったので、そこで小休止。
日が暮れるまでには次の目的地に行きたいところだ。
「そういや、次の目的地は何て場所だっけ?」
「えーっと何々。次の目的地は雪の町サンタールで、名物は~~……」
トーブ村で店のおばちゃんが用意してくれた地図に書かれた情報を読み上げながら、セフィルとエマが不思議そうに首を傾げた。
「なあクリス、これどういう意味だ?」
セフィルが指差した箇所を見ると、名物雪山温泉!とか書いてあった。
「へえ温泉か、風情があるねぇ」
「いや、そっちじゃなくてコレコレ」
温泉に関する記事の中に一カ所、とてつもない浪漫を感じさせる文字があった。
だが、このパーティにおいては少し問題のある内容だ。
それはズバリ……
【混浴】
アンナに至っては「温泉って何だ?」と言っていて完全に蚊帳の外だが、俺とクレアとロザリィの3人は困り果ててしまった。
「やっべー、ついに混浴イベントか。でも年齢的にコレ事案にならないかな……。俺、犯罪じゃね?」
『何言ってんの、私としてはアンタに裸見られる屈辱の方がキツいんだけど』
言い方がヒドい!
「いつか見せるモノだけど、嫁入り前は……ダメ」
クレアさん、それ爆弾発言だからねっ!?
「「「???」」」
俺たちのやり取りがイマイチ理解出来ない三人は、首を傾げてキョトンとしていた。
・・
斯く斯く然々(しかじか)。
具体的に説明しました。
「う、うぅむ……困ったな」
だがそう言うセフィルの鼻の下は伸び伸びだ。
「むり、むりむりむりっ!」
かたつむり……という分かりにくいネタはさておき。
凄い勢いで首をブンブンしているエマ。
「何か問題あんのか? 焚き火の前だったら、今この場ですっぽんぽんになっても良いぜ???」
『やめなさい……』
アンナはそもそも裸を見られるコトを恥ずかしいと考える文化が無い様子。
「裸を見られて平気なら、何で服着てんだ?」
「おや? 王子様はあたしの裸が見たいのかい?」
ニヤリと笑うアンナと、ジト目で睨むエマに挟まれてセフィルはたじたじ。
まーた余計なコト言っちゃったなー。
「まあ裸では戦いにくいからね。それに、他種族が服着てるのにあたしらだけ裸だと目立って仕方ないし、そんなの敵対相手に狙ってくれって言ってるようなモンだよ」
「殺伐としてんなー……」
全く色気のないアンナの説明に一同は思わず苦笑する。
「まあ、混浴温泉があるからと言って必ず入らなければならないわけじゃないだろうし、普通の宿にすれば良いんだよ」
俺が笑いながら言うと、セフィルはまだ腑に落ちていない様子。
「普通……普通とは何ぞや?」
セフィルが混浴に後ろ髪引かれすぎて変なコトを言い始めてしまったぞ。
『アンタら夫婦だけ行ってくれば良いじゃないの。権力者なんだから、王子様の命令ひとつでエマみたいな小娘は一発でしょ』
「発想がエグ過ぎてさすがの俺も正直引くわー……」
ロザリィのおかげでセフィルは冷静さを取り戻せたようだ。
「うっしゃ、そんじゃサンタールに向かって出発だ!」




