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122:赤髪の魔法使い

<山頂の村 トープ>


 翌日、俺たちは険しい山道の途中にある小さな村に到着した。


「今晩は宿に泊まるとしても、先に買い出しと情報収集だな」


 村に一件しかない(らしい)商店に訪問すると、カウンターの奥から恰幅かっぷくの良いオバチャンが出てきた。


「いらっしゃい~。あら、子供だけなのかい?」


「ああ、俺らは北の大陸から来たんだ。南のウルシュ国を目指してる」


「へぇ、北からとは珍しいねえ。ここから先は雪原を越えなきゃならんから、遭難しないように気を付けんさいね~」


 セフィルとの会話でこちらの状況を察したのか、オバチャンはヒョイヒョイと棚から旅に必要な道具類を出してカウンターに並べてくれた。

 こっちが何も言わずとも、先に必要な物を予測してくれるベテランな感じが良いな。


 ……と思っていたら、突然オバチャンの手が止まり、俺たちの後ろに視線が向いた。


「いらっしゃい~。君らの仲間かい?」


「仲間???」


 後ろを振り返ると、そこにはボロボロなフード姿の赤髪の女の子が立っていた。


『……食べ物が、ほしい』


 その口振りから、オバチャンは俺らとは無関係と判断して溜め息を吐いた。


「お嬢ちゃん、お金は?」


『……無い。物々交換ならできる』


 オバチャンはアチャー……と困り顔だ。

 なるほど、物乞いか。


「ウチは物々交換はやってないんだよ。他を当たってくれないかい?」


『……そう』


 赤髪の女の子はシュンとしながらトボトボと店を出て行こうと歩き出した……が、何故か俺の隣で立ち止まって口を開いた。


『ボクがその刀の呪いを解いてあげるから、お金くれない?』


「えっ!?」


 女の子が指を差した先は、俺の背中に差した日本刀。


「え゛、コレ呪われてんの?」


 女の子は無言のまま肯く。

 いや、一人称がボクだったし童顔の男の子なのか???

 でもローブに隠れているとはいえ、体つきを見た感じ出るところはしっかり出ているから、多分女の子だと思うんだけど……。


 俺が頭の中でグルグルと色々考えていると、ロザリィがグイッと割り込んできた。


『ちょっとアンタ、そうやって言いがかりつけてカネをせしめようなんて良い度胸ね!』


『言いがかり?』


『私が感知できないモノをアンタが出来るわけが……!』


『妖精には無理』


 その返事に俺たちは全員固まった。


『アンタ、今なんて……』


『キミの雰囲気は人間の持つそれとは違うから分かるんだよ。人の姿になったくらいでそれを抑えることは出来ないさ』


 淡々と答える女の子に、ロザリィは奥歯をギリリと噛み締める。


『一体、何m……』


『諸事情でボクについての詳細は教えられない』


 まだ話している最中にキッパリと断れ、怒りの表情でぐぬぬ……と唸るロザリィの頭をぽんぽんしつつ、俺は再び女の子と向き合った。


「もし呪いを解かなかったらどうなる?」


『知らない。呪われた剣をそのまま持ち歩いた人を研究追跡したことは無い』


 そりゃそうだよな……。


「まあいいや。いくらでやってくれる?」


 俺の質問に女の子は首を傾げる。


『しばらく食べるのに困らないくらい』


 超アバウトです、本当にありがとうございました。


「ま、まあこのくらいあれば1ヶ月は行けるかな……」


 俺が銀貨が数枚入った袋と一緒に、背負ってた刀を鞘ごと女の子に手渡した。

 女の子は刀を床に置くと、その上で古ぼけた杖を振りながら呪文を唱えた。


『rebuild..fix..bcd..』


 言葉の意味はサッパリ分からないが、俺がこの刀を手に入れた時にうっすら聞こえた声と似ている気がする。

 しばらくして、刀からパンッ!と風船が割れるような音がすると、女の子はフゥと息を吐いた。


『はい、終わり』


 赤髪の女の子は自信満々の表情で刀を手渡してきた。


「ありがとうな。……って、あれ?」


 受け取った刀は、何だか凄く軽かった。

 この軽さ、まるで中身が無いような……


 そう思ってさやから刀を抜くと、まるでどころか本当に刃が無かった。


「『くぁwせdrftgyふじこlp;!!!?』」


 まさかの状況に、俺も女の子も声にならない悲鳴を上げる!

 俺の右手に握られているのは、刀のつばより下の部分だけという、何とも寂しい見た目になっていた。

 女の子が慌てて鞘をひっくり返すと、中からサラサラと砂のような粉がこぼれ落ちた。


『えっ、えっ、なにこれっ!? ボクが失敗……いやいやいやいや、あり得ないっ!! ええええーーーーっ!』


 さっきまでミステリアスな雰囲気を漂わせていた少女は、完全にキャラを崩壊させながら涙目でオロオロしていた。


「やべえ、勇者の刀が……貴重なレア装備が まだ鑑定してないのに……」


『アンタは落ち込む理由が微妙にオカシイわ』

 

 刀身が消失した事より、結局値段を知らずじまいで装備を失ったことにショックを受けた俺に対しロザリィが呆れ顔でぼやいた。

 だって、商人ですもの……。


『うう、ボクとした事が……申し訳ない。このお詫び、一体どうしたら……』


「い、いや……うーん、どうしたものかなぁ」


 弁償してもらおうにもお金を持ってないみたいだし、旅の途中だから労働対価ってわけにもいかない。

 と、頭を抱えて悩んでいると……



「敵襲だーー!! モンスターの群が来たぞーーーっ!!!」



 たたでさえややこしいのに、よりにもよってこのタイミングで敵襲イベントっ!?


「……ははは、どうしたもんかね」


 俺は脱力しながら、柄だけになってしまった愛刀を見て溜め息を吐いた。

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