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121/146

121:ヒロイン二人が薄幸だったのは今は昔のお話

「ちょっとやり過ぎだと思う」


『そうかしら?』


 いけしゃあしゃあとしているロザリィを見て、俺は溜め息を吐いた。

 結局、俺たちに向かって石礫いしつぶてを放ってきたモグラっぽいモンスター(名称不明)は、ほとんど姿を表すこと無くロザリィの放った風属性魔法ウインドブラストで吹っ飛んでしまった。


 しかもその衝撃で森の一部が荒れ地になってしまったため、俺とエマはせっせと地属性魔法レベリングで道を均していた。

 コイツには手加減という概念が無いのだろうか……。

 この状況下で唯一何も手伝うことの出来ないセフィルは、切り株の上に座ったまま溜め息を吐いた。


「おめーがやったんだから少しは手伝えよ……。つーか、妖精のくせに自然破壊とか良いのかよ?」


 ジト目で睨むセフィルに対し、ロザリィは両手を腰に当ててフフンと得意げに笑った。


『妖精は自然を具象化した存在……そう、つまり私は自然そのものなのよ。だから私が森で暴れたところで、台風で樹が倒れたようなもんだから、なんら問題無いわねっ』


「何その強引過ぎる理論っ! つーか、その理屈で行くなら、おめーは台風と同じ自然災害だな!!」


『なんですってっ!?』


 やいのやいの。

 ロザリィとセフィルがいつも通りに漫才をしているのを眺めつつ、整地が一段落ついた俺とエマはまったりと休憩していた。


「さて、このまま先に進むべきか野宿すべきか、どうすっかな」


「うーん、日が暮れるまで歩けば結構先まで行けそうけど」


 まるでコンクリート道路のように舗装された道の上で二人が悩んでいると、俺の正面にアンナが腰掛けた。


「お前の嫁が暴れたおかげでこの周辺から魔物やら獣やらはどっか行っちまったね。ここから動かない方が安全だろう」


 さすが獣人だけあって周りの気配を察知する能力に長けているようだ。

 得意げな顔で俺たちを諭すアンナだが……


「しっぽ、すごく膨らんでる」


 クレアの指摘を受けて、顔が真っ赤に染まった。


「ねえ、怖かったの?」


「うっせえなっ! あたしの目の前でモグラやら樹やらがビュンビュンすげー勢いでぶっ飛んでいったんだ!! あんなの驚かないわけないだろ!!!」


 ごもっともです……。

 ちなみに、呪文が発動すると同時に天変地異で森が崩壊していく様を間近で見ていたアンナの顔は、まるでフレーメン反応を起こしたネコのようだった。


「でも、やったのはロザリィさん。なので、私は無実」


「そんなもん見分けつかねーよぉおぉぉああああっ!!」


 クレアの説明にアンナは頭を抱えた。



・・



「次にポートリアに戻ったら、キャンプ用品でも販売してみようかなぁ」


「何だクリス。また商売を思いついたのか?」


 結局その場で野宿をすることになったわけだが、前の世界で言うところの「キャンプ用テント」やら寝袋のような便利アイテムがあるわけもなく、天幕を木に括り付けただけのお粗末な寝床に簡易毛布が一枚あるだけ。

 鞄や服を丸めて頭の後ろに置いたモノが枕代わり……とまあ、とても粗末なキャンピングセットだ。


「ジョイント式ポールとエアークッションと……ぶつぶつ」


「駄目だこりゃ、自分の世界に入っちまった」


「いや、まだ半分くらいだ」


 俺が普通に返事するとセフィルにチョップされた。

 そんな俺たちを見て、アンナが首を傾げている。


「前から不思議だったんだけど、君らどういう関係なの?」


「どういう関係って?」


「いや、接点が不思議過ぎてな。クリスがあたしと同じような感じで、クレアちゃんは中にロザリィって妖精が入ってて、セフィルがどこぞの王子で、エマちゃんは……地味子だな」


 アンナの認識に、セフィルとエマがずっこけた。


「間違っては無いが……」


「え、間違ってないのっ!? わ、私って、そんなに地味かなっ? そうなのかなっ!?」


 さすがにアイデンティティに関わる問題だけあって、エマは涙目でセフィルに訴えかける。

 まあ、せっかくの機会だしアンナに詳細を伝えておくのも良いだろう。


「とりあえず、俺らの今までの経緯いきさつをアンナに説明しようか」



 かくかくしかじか。



 4人それぞれの視点でアンナに一通り語ったのだが、話し終わる頃には完全に夜も更けていた。

 そして、全ての話を聞き終えたアンナは……


「うっ、うっ、えぐっ……うぅ……」


 この大号泣である。


「地味子ちゃん呼ばわりして、ホント申し訳ない……ひっく。エマちゃん、苦労してたんだねぇ……ズズーッ」


「え、えーっと……。今は皆が居るおかげで平気ですから。あの、アンナさん、鼻水がっ」


 エマがアワアワしながらハンカチを渡すと、アンナさんは思いっきり鼻をかんでいた。

 後でちゃんと洗って返してあげてね……。


「クレアちゃんも御両親を事故で亡くして、辛い思いをしたんだねぇ~~……うぅ」


「なんだろう…目の前で号泣されると、妙に冷静になるよね」


 さすがのクレアもこれには苦笑い。


「うーん、アンナさんがこんなに情に厚いタイプとは、完全に予想外だったよ……」


 そんなこんなで登山1日目の夜は過ぎていった。

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