113:大人の時間
<ワラント国 城下町>
犬、妖精、獅子、猫耳メイド、モフモフけも耳、ワニ……一風変わったというか、統率取れて無さすぎなコスプレ集団の乗った馬車がワラント国城下町の門を通過した。
「ホントにイクイプの町からすぐなんだな」
俺たちは夕方頃に街を出たのだが、日没前には到着してしまった。
徒歩で移動するには大変な距離ではあるが、馬車なら体感的にあっという間だ。
「あそこはワラントに入る装備品を揃えることだけに特化した町ではあるけど、そもそもワラントで暮らす人達だって利用してるからね」
なるほど、下手に遠いと地元民にとって利便性が悪いもんな。
そんな会話をしながら街に入った俺たちの目に飛び込んだのは……
【祝! 獣神ティーダ様 御光臨!!!】
念写でデカデカと焼き付けられた横断幕が街の門に掲げられ、土産物売りの露店には「獣神様グッズ」のオンパレード。
国教の神であろうともガッツリと商売のネタとして活用してしまう商人連中のたくましさは、国が違っても共通のようだ。
「カレンさん、人気だね」
クレアが率直に感想を口にしたものの、当の獣神様はイヤそうな顔で横断幕を眺めている。
「例え私を敬っているにしても、私以外の輩を奉っている事に変わりは無いのよね……ちっとも信仰値増えてないし。ったく、偽者を見破れないなんてこの国の民も情けないわねぇ」
そう言いながら左上をチラチラ見ながら呆れて溜め息を吐くカレンさんに、セフィルは首を傾げた。
「アンタが前回この国に神様として姿を見せたのはいつ頃なんだ?」
「んー、70年くらい前かしら?」
「そりゃ無理だよっ!!!」
そのツッコミを待っていましたかのように舌を出して笑うカレンさんに、隣のノーブさんがデレデレしていたのが印象的でした。
・
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俺たちは街道をそのまま真っ直ぐ進んで宿場エリアに到着した。
さすが伝説の獣神ティーダが降臨したというだけあって、安価な宿はいずれも満員御礼。
つまり……
「超VIPぅ……」
「びっぷって何?」
呆然と呟く俺とそれを見てキョトンとした顔のクレアの眼前に広がるのは、超デカくて内装が超リッチなお部屋。
一泊の宿泊料……お一人様10万ボニーになりますっ!!!
子供料金といった概念も当然無く、単純に6名60万っ!!!
確かにここ数年ビジネスで稼いだ総額は特効薬ルナピースを余裕で買えるくらいに達しているわけだが、だからと言って散財して良いほど成金というわけでもない。
「こんなクソ高い宿に長期宿泊なんてしてたら破産してしまう! カレンさん、さっさと犯人とっちめてやりましょう!」
「もちろんよ! こんなクソ高い宿に長居するくらいなら私のお店の家賃の支払いに充てる方がマシよ!」
クソクソ連呼する二人に対し、他の4名も同意してウンウンと肯く。
本来は王子であるセフィルにとって10万ボニー程度は端金ではあるのだけど、長いことリカナ商会で働いていたので庶民感覚がバッチリ身についているのだ。
一国の王子としていささか問題ある気もするけど、いずれセフィルが国王になったあかつきには民の心をよく理解出来る国王として信頼されることだろう。
「……それにしても、可憐庭って賃貸だったんですね」
「土地を買っても良いんだけどね。神様ってのはいつ何があるか分からないから身軽にしておかないと」
うーん、色々大変なのだなぁ。
「ちなみにダーリンは背負ってでも連れていきます!」
カレンさんはそう言いながらノーブさんの手を握ると、窓の向こうをチラリと見た。
そこには……ああ、酒場か。
もう何年も嗜んでないし、俺もそろそろ一杯行きたいところではある。
「それじゃ酒場でいっちょ聞き込みしてくるわね~」
そしてノーブさんの手を引いて部屋から出て行こうとするカレンさん。
って、あれぇ!?
「え、俺たちは???」
「お子様がそんなトコに行っちゃ行けません」
「ワラントも未成年飲酒NGなのかよ……」
ノーブさんがしょんぼりする俺の肩をポンポンと叩いて、そのままふたりとも部屋から出て行ってしまった。
「……まあ、俺らは適当に飯屋でも行くか」
~~
「乾杯~!」「お~!」
というわけで、久々にダーリンと二人きりですよ!
チビッ子達の子守も大切だけど、やはり大人の時間も大切にすべきなのですよ、うんうん。
街の外れにある酒場の一番隅っこの小さな席に向かい合わせで座った私達は労を労いつつ晩酌を交わす。
聞き込みは……酒が回ってからでも良いでしょ?
「それにしても躊躇いなくこの店にやってきて、真っ直ぐにココの席に座ったけど何かこだわりでもあんの?」
「んー、ココは私の特等席なのよ。昔からね」
「へぇ~」
店名や内装は昔とは違うものの、席のレイアウトはずっと昔から変わらない。
マスターも三代続いてソックリだし、ずぼらな性格もしっかり継承してるようだ。
当時、ここで毎日ダラダラと朝まで飲んでから、お城に帰って夕方まで寝るのが日課だったのだけど、さすがに当時の話をすると愛想を尽かされそうなのでダーリンには秘密です。
「ここで呑んでたら勇者カトリが私に喧嘩売ってきてね。それから一緒に旅して……懐かしいなー」
目を細めて懐かしむ私を見て、ダーリンは優しく微笑む。
「当時の王様がとても良い人でね、私の恩人なの。魔王が居なくなった後の騒乱の時だって民のために凄く頑張って、皆を守って……だから、その子孫達を騙す輩は……絶対に許さない」
「まずはそいつがどこに居るのか、そして何が目的なのかを調べないとな」
その言葉に肯いた私はゆっくりと立ち上がると、近くの席で談笑している人達に話しかけた。




