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112:ようこそコスプレの町へ

<イクイプの町>


「さて、あなた達はココで装備を揃える必要があります。あ、ダーリンもねっ」


 カレンさんに誘導されてやってきたのは、ワラント国の北に位置する小さな町。

 遠目には平屋が立ち並ぶ田舎町に見えたけど、いざ来てみると俺たちの住む神都ポートリアの西側の商店エリアに匹敵する程の賑わいがあった。


「君達の所持金なら貸衣装にせずに一式買っちゃっても良いかもだけど、適当にちゃちゃっと選んじゃってね」


 馬車から降りるや否やカレンさんが不思議なコトを言う。


「貸衣装? どういう意味です???」


 いぶかしげに訊ねる俺を見てカレンさんは笑い、それから町の一角を指差した。

 俺たちが目線を向けると、そこにいくつも並んでいた店は……


「コスプレ衣装屋っ!?」


 唖然とする俺の目に映ったのは、犬、猫、牛、馬、虎……要は、動物を模した衣装の数々。

 こ、この町は一体……???


「コスプレ……? まあ、要するにワラント国って、私への信仰心がムチャクチャ強くてね。獣の姿で過ごす事が事実上の強制なのよねぇ」


 口調は仕方なさそうな感じだけど、満更でも無いらしく、カレンさんの口元は緩みきっている。

 そりゃ自分が信仰されているという意味だものね……。


「もしも普通の姿でワラントに行くとどうなるんだ?」


 町に並ぶ衣装を見て苦笑するセフィルの質問に、カレンさんはニヤリと笑う。


「別に罪に問われることはないけど。でも王子様、舞踏会にドレスコードを無視して寝間着で参加したことある?」


「あー、わかったわかった。俺は針のむしろに座る気なんて更々無いよ。……さて、狼とか獅子の衣装はあるかな?」


 そう言いながら店を物色するセフィルの顔は興味津々だ。

 まあ中身おっさんな俺と違ってセフィルは普通に年相応の男の子だし、どうせ着るならカッコイイ衣装を好むのは当然だろう。


『ったくいつもは偉そうなくせにガキンチョねぇ。アンタはどうすんの?』


 元オタとして当然コスプレに興味が無いわけではないけど、さすがに自らが着飾ろうとは微塵も考えたことが無いわけで。

 クリスくんの顔立ちは決して悪くないけど、自らが当事者となると何とも悩ましいところだ。


「無難に犬くらいかなー」


『冒険心が足りないわねぇ。犬だとアイツが狼を選んだらかぶっちゃうでしょ。リザードマンとかイービルスライムとか思い切って選んじゃいなさいよ』


 もはや獣神関係ないじゃん! と思ったら本当に店先にそれらの衣装が並んでいた。

 なんでもアリだなこの国!!


「私は~……コレなんてどうかなセフィルくんっ!」


 そう言いながら試着室から出てきたエマの格好は猫耳……尻尾……メイド服っ!!?

 何の気なしにとんでもないフルアーマー装備でやってきたエマに、俺とノーブさんは驚愕する。


「誰だこの世界にそんな危険な文化を持ち込んだ渡り人は!!!」


 ノーブさんに俺の思っているコトを代弁して頂きました。

 だが、そういった異文化に免疫の無いセフィルの目には果たしてどう映るのか?

 俺とノーブさんが興味津々にセフィルを眺めていると、当のセフィル本人は鳩が豆鉄砲くらったような顔のまま固まっていた。


「…………」


「ど、どうかなっ?」


 エマからの感想の再要求に対し、はっと我に返ったセフィルは落ち着かない様子で目をキョロキョロさせてから……その場に倒れたっ!!!


「せ、セフィルくんっ!?」


 慌ててエマが駆け寄ろうとすると、尻餅を付いたままのセフィルが手で制した。


「ま、待てっ! 近づくなっ!!」


「えっ!? そ、そんなぁ……うぅ、嫌われちゃったのかなぁ」


「あ、ち、違うんだっ! そうじゃなくてっ!!」


 慌てふためく様子に他の面々は首を傾げ、俺とノーブさんは目を細めながらウンウンと首を縦に振る。


「何だかよくわかんねーけど、胸の鼓動が止まらないっ!! なんだこの感覚はっ!!! 何だこr……あっ、鼻血がっ」


 エマの猫耳メイドコスプレはあまりにも威力が高すぎたようで、セフィルは大ダメージを受けてしまった様子。

 だが鼻を指でつまんだセフィルの視線はエマの絶対領域ふとももに釘付けになっており、十代の少年らしからぬマニアックな趣向に驚くばかりだ。


 我が国の王子様はなかなか将来有望である。


『よし、面白いからエマはそれで決定ねっ』


「「ええーーっ!!?」」


 そしてロザリィの鶴の一声でセフィルの天国と地獄同時開催ツアーが決定した。



◇◇



 結局、セフィルは獅子、エマは猫耳メイド、ノーブさんはワニ、カレンさんは謎のケモ耳(帽子を取っただけ)、俺は無難に犬をセレクトした。


「ノーブさん……なんでワニなん?」


「アリゲーターとか強そうじゃね?」


 いや、まあ同年代として気持ちは分からんでもないけど。

 というわけで残るは……


「……(必死)」


 そう、何だかんだでクレアが未だ決まっていないのだ。

 この子、意外と優柔不断だったんだなー。


「……(必死!)」


 余りの優柔不断っぷりに痺れを切らしたセフィルがクレアに近づいた。


「な、なあ……そろそろ決めても……」


「……(必死!!!)」


「ひっ、ひいっ!」


 クレアに声をかけたセフィルが怯えながらこっちに帰ってきた。


「やべえ、今アレに声かけたら殺されそうな気がする!」


 セフィルにそこまで言わしめるクレアって一体……。

 そして、しばらくすると一着の衣装を手に取って試着室へ入っていった。


「クリス! 絶対に下手なこと言うなよっ!? ヤツが満足する最高の反応をしろ! 鼻血出して倒れてもいい!」


「お前じゃあるまいし、そんな器用なコト狙ってできねーよ!!」


「俺は狙ってねえよ!!」


 やいのやいの。

 俺とセフィルが口論していると、試着室からクレアが出てきた。

 その姿は黄緑色のフワフワとした服に、白く薄い四枚の羽。

 これは……!


「なるほど、妖精か!!」


「うん、何だかしっくりきた」


 妖精の姿がしっくりくるというのも何だか不思議な話だけど、リアルに妖精だったロザリィと同化したのが理由なのだろうか。

 だけど、俺も不思議とクレアの姿を見るととても気持ちが安らぐ気がする。


「何だかしっくりくるというのが分かる気がする。何だかクレアっぽくて良いな」


「うん、いいよね」


 俺とクレアがいつも通りのペースで話していると、突然ノーブさんの顔色が変わった。


「おいっ、どうしたカレン!」


 慌てた様子のノーブさんに肩を揺すぶられているカレンさんを見ると、瞳から大粒の涙がポロポロとこぼれていた。

 だけどその表情はとても嬉しそうな笑顔だ。


「……あははー、これだよこれ。私が見たかったのは。……こんな幸せなこと、あっていいのかなぁー? もう二度と無いと思ってたのに、こんな、こんな、うぅぅ……エクレールぅ……良かった、良かったねぇ……」


 そう言うとカレンさんはノーブさんの腕の中で嗚咽を漏らした。

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